昨今のリストラの風潮は企業・行政分野だけに止まらない。鉄道事業においても、公共交通事業体としての使命を投げ捨て、単に不採算部門であるという理由だけで地域住民の生活路線を切り捨てる事例が続発している。今までも、モータリゼーションの進展や商業立地の変化によって、多くのローカル私鉄が廃線に追いやられてきた。近年は、その動きが今や大手私鉄にも波及してきている。
名鉄がその好例である。名鉄(名古屋鉄道)は中京圏に基盤を置く大手私鉄で、旧愛知電鉄(今の名古屋本線)を母体に、美濃電軌・三河鉄道などの地方私鉄を吸収合併してきた歴史を持つ。現在、数多くの路線を有し、近鉄と並び日本でも有数の地域交通網を形成している訳だが、近年不採算路線の廃止の名の下に、次の様に多くの生活路線を廃止するに至っている。
廃止(予定)線区 キロ数 廃止日 廃止の様態
・美濃町線(新関-美濃) 6.3km '99.04.01 一部区間廃止
(並行路線と競合)
・揖斐線(黒野-本揖斐) 5.6km '01.09.30 一部区間廃止
・谷汲線(黒野-谷汲) 11.2km '01.09.30 同上
・八百津線(明智-八百津) 9.1km '01.09.30 全線廃止
・竹鼻線(江吉良-大須) 7.4km '01.09.30 一部区間廃止
・三河線(碧南-吉良吉田) 16.4km '01.09.30 同上
・三河線(猿投-西中金) 8.6km '01.09.30 同上
・岐阜市内線(岐阜駅前-忠節)8.7km '05.04.01 全線廃止
(申請中)
・美濃町線(徹明町-関) 8.7km '05.04.01 同上
・田神線(競輪場前-田神) 1.4km '05.04.01 同上
何と、僅か最近5年余りの間に一鉄道会社の管内だけで、のべ10線区・総延長80キロ余に及ぶ生活路線が廃線に追い込まれてきているのだ(廃止申請分含む)。確かに名鉄は各地方鉄道会社の寄り合い所帯であり、鉄軌道の採算に限って言えば、必ずしも効率は良く無いであろう。しかし上記の閑散路線にしても、鉄道利用状況は地方ローカル私鉄の水準よりはかなり良好であり、それなりに地域住民の足として貢献してきた事が窺えるのである。
いくつか例を挙げる。
八百津線。廃止直前でこそ電車からLEカーという「レールバス」に切り替えられてしまっていたが、元々沿線には兼山城址や蘇水湖(兼山貯水池)といった桜の名所・行楽地もあり、かつては特急電車も走っていた線区である。
岐阜市内線・美濃町線。本線(1500V)と違って電圧600Vで電車運行され、戦前からの車両も未だに現役で活躍している。岐阜市内中心部の百貨店から郊外のショッピングセンターに商業中心が移り、郊外から市内への人の流れが減少した事が廃止理由に挙げられているが、県庁所在地を中心として沿線人口も多く、中心部は15分間隔でダイヤ運行されている線区である。一時、岡山電気軌道が経営を引き継ぐという話もあったが、いつの間にか立ち消えになってしまっている。
名鉄の「平成15年度営業概要」によると、鉄軌道部門では、輸送人員が増加に転じた事もあり、営業収益は前年度に比べ0.3%増の823億4千4百万円、営業利益は131億5千4百万円となった。名鉄の資本力からすれば、部内の営業努力如何で廃止は回避できるのではないか。
日本全国各地で、地域住民による存続運動をバックにして公共交通再生の取組みも始まっている。その代表的な例が、茨城県の鹿島鉄道である。ここでは地元の中学・高校生徒会が中心になって「鹿島鉄道を守る会」が組織され、地域住民を巻き込んだ存続運動が広がっている。
北陸地方でも多くの取組みが進んでいる。鉄道事故を多発させて運輸局から事業休止命令を受けた挙句に鉄道会社が経営を投げ出してしまった京福電鉄(福井支社管内)では、その後住民の存続運動が組織され、第三セクター「えちぜん鉄道」として再出発した。JR富山港線では、ここでも住民運動をバックに地元の富山地方鉄道とタイアップして、欧米型のトラム(リニューアルタイプの市内電車)として再生が図られようとしている。その直ぐ近くでは、加越能鉄道が既に第三セクター「万葉線」として新たなスタートを切っている。名鉄のすぐ近くの三重県でも、近鉄が廃止申請した北勢線が地元民鉄の三岐鉄道の傘下に入ることで廃止を回避できた。いずれの場合にも共通して言えるのは、地域住民の存続運動が鉄道再生の支えになっている事である。
以上の事例は、名鉄に限った事ではない。JRでも近年、整備新幹線の開通と引換えに、在来幹線の該当区間が第三セクターに移管されたり(鹿児島本線・川内-八代間、東北本線・盛岡-八戸間)、酷い場合は廃止されたりしている(信越本線・横川-軽井沢間、ここでは廃止差し止め訴訟が提起されている)。地方在来線という国民の共有財産が、ゼネコンや族議員の利益の為に一方的に食い物にされている。閑散線区だけでなく地方の在来幹線までもが切り売りされ、地域の経済基盤が掘り崩されている。どこかで歯止めをかけなければいけない。資本による公共交通網の切捨て・切り売りに断固反対する。
【参考資料】
・名古屋鉄道HP
・ローカル私鉄探訪記
・同上 名鉄・気動車線区のページ
・同上 名鉄・岐阜600V線区のページ
・鹿島鉄道を守る会
・その他、「鉄道ピクトリアル」「鉄道ジャーナル」など関連雑誌