アメリカ軍によるファルージャへの総攻撃、自衛隊のイラク派遣延長問題、防衛予算削減を巡る財務省と防衛庁の確執。こんな時期に、中国の原潜はのこのこと日本領海に入り込み、発見されると思わせぶりに、右に寄ったり、左に寄ったり、すっかりと自衛隊の出番を作ってしまった。イラク派遣延長反対運動は冷水を浴びせられたのも同然である。「自衛隊が活動する地域が非戦闘地域です」との詭弁を薄ら笑いとともに、党首討論で述べた小泉首相は大いに助かったことであろう。
中国の狙いは、ずばり、軍事基地のある沖縄の領海に入り込んで、アメリカの出方を探ることである。だからと言って、中国は本気でアメリカと対決するつもりはさらさらないはずである。アメリカに敵対して、中国に何の利益があるだろうか。むしろ逆で、何とかアメリカと手を組みたいと考えているのだ。新疆ウイグル地区などのイスラム過激派対策ではアメリカと共通の悩みすら抱えている。世界地図を見るとはっきりする。冷戦時代には、日本列島やフィリピンがアメリカの最前線であったが、今やそれは中東に移動した。純粋に地理的に考えれば、かつて日本が占めていた位置は中国に取って変わっているのである。中国の指導部がこれに気づかないはずがない。アメリカとの同盟を真剣に考えても不思議はない。アメリカに対して、何らかのサインを送っていることであろう。今回の原潜領海侵犯のそのサインの一つかも知れない。日本の自衛隊派遣延長の手助けをしましたという訳である。
アメリカの方はどうであろうか。皆さんも、アメリカ大統領選の結果を示す、赤(共和党)と青(民主党)に色分けされた地図を御覧になったでしょう。寺島実郎氏は、我々の知っているのは青いアメリカ(東海岸と西海岸)で、我々の知らない赤いアメリカ(中南西部)がブッシュを選んだと言っていた。また、タレントのデーブ・スペクターは、アメリカ各州ごとの知能指数のデータを示し、赤いアメリカに知能指数の低い州が集中していることを指摘していた。そのような州から選ばれた大統領にふさわしく、ブッシュには知性的な戦略が欠けているように思われる。冷戦時代の遺物ともなりかねない、日米同盟を本気で維持しようとしている。キーワードは民主主義だ。それで中国よりも日本を選ぶという訳である。
これは実に馬鹿げたことだ。現在アメリカとの同盟に二の足を踏んでいる国家の多くは民主主義国家である。アメリカと一緒になって、戦場に兵士を送ろうものなら、たちまち政権基盤が揺らぎかねない。その意味では、国内的には何の心配することもなく、アメリカと同盟を組める国は、皮肉なことには、第一に北朝鮮、第二に中国であろうか。
ところで、青いアメリカこそが経済のグローバリズムを推進するアメリカであり、世界制覇を目論むアメリカである。一方、中国では、留美派と呼ばれるアメリカ(中国語で美国)留学帰り最高エリートたちが国の政官界の要職を占めつつあるという。彼らは青いアメリカで学んだはずである。将来、共和党と言わず、民主党と言わず、青いアメリカが主導権を取って、大統領を選出したら、どうなるだろうか。彼は、ブッシュのように、軍事による「民主化」に猪突猛進することはない。あまりにも犠牲が大き過ぎた。それよりもむしろ、当座の戦術として、中国と手を結び、米中による世界分割を実現させる中で、自国の安寧を計ろうとするであろう。
これは、二十一世紀にかなり高い確率で起こり得ることだが、それは絶対に阻止すべきものだとも考える。日本が深刻な事態になる危険性が高いからである。だからと言って、日本が積極的に打って出て、米中による世界分割を阻止できるだろうか。その可能性が少しでもあるのなら、それに賭けるべきなのであるが、私には正直分からない。