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「科学の目」の危うさ--遺骨問題を巡って

2005/02/28 アンクル・トム 60代以上 無職

 2月26日の「日刊ゲンダイ」では、横田めぐみさん遺骨 帝京大担当医 が科学誌「ネイチャー」に告白という記事があった。それによれば、世界的に権 威のあるイギリスの科学雑誌「ネイチャー」の記事に小泉内閣が頭を抱えている という。東京駐在のデービット・シラノスキー記者が鑑定者だった吉井富夫講師 を取材して、以下のようにレポートしている。

 吉井講師は火葬された標本を鑑定した経験はまったくない。また、彼は自分が 行った鑑定が断定的なものではなく、また、サンプルが汚染されていた可能性が あることを認めている。

 吉井氏はインタビューに答えて次のように答えているそうである。

遺骨は何でも吸い取る硬いスポンジのようなものだ。もし、遺骨にそれを扱った 誰かの汗や脂がしみ込んでいたら、どんなにうまく処理しても、それらを取り出 すことは不可能だろう。

 これで、別に、遺骨が本物と断定された訳ではないが、少なくとも、100% の可能性でもって、ニセモノと断定されたのでないことは確かである。これに関 して、私見を述べたい。鑑定結果の北朝鮮への伝達について、細田官房長官は記 者会見で、鑑定書の完全なコピーは送りません、要点を書き写して伝えますと述 べていたのを記憶している。鑑定書には、汚染の可能性についても言及されてい たのではないだろうか。それは、政府にとって、都合が悪いことなので、伏せて しまった。科学的というお墨付きのもとで、政府が世論を誘導したことは事実な ので、それと併せて考えると、こう疑うしかない。
 研究者が何かを研究して論文を書く。それが認められるためには、少なくとも レフリーのある雑誌に載らなければならない。今回の鑑定を研究に置換えて考え てみよう。初めて手がけた仕事で、しかも、1200℃という高温で焼かれた遺 骨のDNA鑑定という世界でも稀有の仕事である。もし、横田めぐみの遺骨でな いと断定的に結論したとすれば、まず、レフリーは通らない。雑誌に載らずに、 ボツである。他からの汚染の可能性に言及しても、その可能性を十分に強調して 書き直しなさいとの、コメント付きで、やっと、レフリーが納得する。つまり は、汚染の可能性を併記せずして、決して日の目を見る仕事ではなかった。純粋 に科学的な意味では、こんな程度の代物だったのである。吉井氏も、そこは十分 に承知で、断定的に鑑定書を作成していることは絶対にあり得ないと思う。まし て、鑑定書には書かかずに、ネイチャーの記者に語るとは信じ難い。
 もし、遺骨問題で鑑定が不可能という結果だったとしても、論点がシフトする だけだったであろう。鑑定不能なように高温処理した。その他の拉致被害者に関 する安否情報にも問題がある。等々、いくらでも北朝鮮バッシングの種は尽きな いのだから、今日のような状況になることは必然的であったろう。
 さて、共産党は、北朝鮮問題に関して、外交は政府の専決事項であり、限られ た情報しか提供されない状況では、あれこれ言うつもりはないと言っていた。決 して状況が変わった訳ではないのに、共産党が、その沈黙路線を破ったのは、こ の遺骨問題が端緒であった。これは恐らく、不破氏があちらこちらで撒き散らし ている「科学の目」なるものの影響であろう。科学鑑定の結果が、科学の名のも とにおける、絶好の行動転換の口実を与えたのだ。わが党は科学的社会主義の政 党であるから。しかし、政府の情報操作に見事に乗せられてしまった。これが実 情ではないだろうか。
 私は、現役時代には、自然科学のある分野の研究に携わったことがあった。そ の立場から、不破氏の「科学の目」には大いに疑問を感じている。自然科学の発 展が「科学の目」の正しさを立証しているという観点が理解できない。今、時間 がないが、三ヶ月後位には、見解を纏めて、発表させていただきたいと思ってい る。今回は、「科学の目」なるものも、我々多くの国民と同じように、政府の情 報操作に乗せられて、真実を見抜けない目でしかなかったということを指摘する だけにしたい。