ホリエモンこと堀江貴文氏が仕掛けたライブドアによるニッポン放送株買占め
問題は司法の場に持ち込まれた。どっちが勝つにしても、アクセク働く庶民には関係
ないとの思いで、ただ、野次馬的に眺めている人も多いことだろう。しかし、森前首
相初め、政財界からの堀江バッシングが相次いだ頃から、私は別の面でこの問題には
注目している。このような政財界のバッシングには何か裏があるに違いない。
ご承知のように、ニッポン放送が堀江氏の傘下に落ちるということは、ニッポン放
送がフジテレビの大株主であることから、フジサンケイグループへの発言権も増大す
るということだ。果せるかな、これには産経新聞がかなりナーバスになっているのだ。
「電波媒体を買収してグループ内の新聞まで支配したいという野望」を感じ取って、
恐れているのである。それは2月18日の「主張」中で述べられている。AERA二
月二十一日号「堀江フジサンケイ支配」と題した特集記事の中で、堀江氏が具体的な
新聞づくりの構想に言及しているのだが、それに対峙した内容となっている。要する
に、社是としている「正論路線」が危うくなるというのだ。
正論路線とは、「これは冷戦時代のさなかに策定された「産経信条」(昭和四十五
年)の『民主主義と自由のためにたたかう』にもとづき、西側陣営にたって、社会主
義国のイデオロギーや軍拡路線、非人間性を批判してきた路線を指す。冷戦は西側陣
営の勝利に終わり、日本の言論の中でも『モノを言う新聞』としての産経新聞のもつ
重みは増してきていると認識しこそすれ、これを修正するつもりはない。」のだそう
である。
こんな冷戦時代の遺物のような正論路線など、堀江氏はまったく尊重していないよ
うである。堀江氏の発言とされるものをAERAから引用してみよう。「あのグルー
プにオピニオンは異色でしょ。芸能やスポーツに強いイメージがあるから芸能エンタ
メ(注=娯楽)系を強化した方がいいですよ」と言って、「正論路線」なるものをバッ
サリ否定しているのである。さらには、「新聞がワーワーいったり、新しい教科書を
つくったりしても、世の中変わりませんよ」とも語っている。扶桑社の「新しい歴史
教科書」に対する猛烈な批判でもある。
ここで、AERAに載ったフジサンケイグループ内での資本の持ち合い関係を見る
と興味深い。フジテレビは、産経新聞の株の40.3%も持っているから、ほぼ子会
社である。また、扶桑社に至っては、フジテレビが46.9%、ニッポン放送が37.
6%の株を持っている完全なグループ内企業なのである。要するに、「正論路線」と
か「新しい歴史教科書」とか言っても、所詮は、フジテレビの「軽チャー」路線に財
政的には支えられているに過ぎないのだ。
このような事情であるから、もし、堀江氏がフジサンケイグループを支配すれば、
困るのは、正論路線べったりで、教育基本法の改正やら憲法改正を企んでいる連中な
のだ。森前首相などが批判するのは当然の事態であろう。言論の自由だから、そのよ
うな「正論路線」が存在することは結構である。しかし、問題はそれが、商業紙を通
して、一定の市場的価値があるかのように流通していることである。産経の主張では、
「同時に路線の否定は大型コラム「正論」の百八十人におよぶ執筆陣にたいする冒涜
でもある」と息巻いているが、180人にもおよぶ右より知識人を財政的に援助して
いる訳でもある。産経新聞自身がフジテレビの寄生的存在であるから、これらの知識
人は、市場原理に反して、収入を得ていることになる。このような構図が日本のオピ
ニオン形成に悪い影響を与えていることは確かである。私見を述べれば、「正論路線」
とは、独自に政治結社のようなものを作り、そこの機関紙で宣伝するのが妥当だと思
う。丁度、共産党がやっているように。
これに対して、「しんぶん赤旗」はどう報じているのであろうか。2月20日の電
子版では、「ライブドア 日本放送株買占め/メディアのあり方から考える」と題し
て解説を載せている。それは、「メディアの集中排除原則」に言及している点を除け
ば、政界や経済界から上がっている、堀江氏に対するバッシングにほぼ同調する内容
になっている。だからこそ、産経の2月23日の紙面では、「共産党は強い疑問」と
いう囲み記事で、市田発言やら「しんぶん赤旗」の記事を引用している。どうやら共
産党は産経新聞に塩を送った形である。