05/7/8の「潤」さん、そして05/7/15の長壁満子さんなど、相変らずご健筆(熱 筆!)をふるわれているようだ。なかでも長壁さんの文体は、練達の短編小説家もし くは名エッセイストに一脈通づるようなセンスが感じられる。硬派の社会派ルポルター ジュで定評の高い江川紹子氏のそれや、核心を見事に摘出した19世紀の経済評論家アー レントのそれに近いとも感じる。いつか、うんと上の世代から「炭鉱のカナリヤ」と いう言を聞いたことがあるが、真っ先にぼくらに警鐘を発するという意味では、それ に該たるのではないだろうか。エールを送りたい。
7月7日、ロンドンで50数人が亡くなった同時多発「テロ」の衝撃の記憶生々しい21 日昼過ぎ(日本時間同日夜9時前後)、再びロンドンを「テロ」が襲ったとの速報ニュー スがあった。報復なのか否か、まだぼくらにはわからないが、負傷者の方々の一刻も 早い快復を願う。
ところで、イラク撤兵意思を表明する国が櫛の歯が欠けるかのように増えつつある が、デンマーク、イタリアなどに続きイラク駐留占領軍の一角わが日本も本当に「名 指し」されているのか? (アラビア語に通じる人が身近に居ないだけに核心部分は わからないのかもしれないにしても、)そうでないことを願うばかりだが、即時無条 件のイラク撤兵に、小泉首相はなぜ踏み切れないのか。英断と言えるかどうか知らな いが、もしここで即時撤兵を決断したとしたら、少しは世論からの評価も違ってくる のだろう。
「テロ」と聞いたらイラクに言及しておかなくてはならない。或る民間調査団体に よると、1991~2004年までの15年で白血病その他原因不明の癌(ガン)で生命を奪わ れたイラク人小児児童は130万人以上にのぼるとか。また奇形児や死産はその数倍が 確認されているとも。対人地雷は埋設(放置!)されたまま米英は知らん顔。1988年 まで約10年続いたイランイラク戦争から湾岸戦争開戦(1991年1月中旬)まで実質僅 か2年半しか「表面的」平和がなかったともいわれるイラク。湾岸戦争停戦後も飛行 禁止空域侵犯を口実にしばしば散発した米英による爆撃。“誤爆”と称すれば何でも 許されてしまう無差別破壊。遥か昔は《乳と密の流れる悠久の地》だったというのに!
そして、憲法番外地におとしめられたそのような地に“破理屈・無理屈”でわざわ
ざ乗り込んでいる日本の軍隊。
後方支援だろうが前方支援だろうが憲法違反。
戦闘地域だろうが非戦闘地域だろうが憲法違反。
戦闘服を着た部隊が現地入りしているだけで憲法違反。
憲法9条は明確に「威嚇」をも禁じている。
本気でイラク復興に取り組みたいのならノウハウを蓄積した大小のNGO・NPOらの活
躍をなぜさせたがらないのか。
劣化ウランの微粒子が飛び交っていて危険だからというのならまた別にしても・・・
。
ここまでは“専守防衛派”を自認する友人でさえもまったく同じ意見を持つ。
なのに、用語定義が無きに等しい「周辺」事態法なのだからイラクもれっきとした
「周辺」だ、と詭弁を弄するのだろうか。「国際協調の責任を自覚した一環」とかわ
すのか、「国連安保理新常任理事国入りの踏み絵だ」と居直りに転じるのか・・・。
ロンドンに戻ろう。詳細は把握していないものの、今回も地下鉄と路線バスがター
ゲットになったらしい。(今時点では)負傷者はごく少ないのだとか。アルカイダに
よるものなのか模倣犯の仕業かまだ断定はしていないもよう。ロンドン警察幹部は、
記者団からの「これでもあなた方はテロを未然に有効に防ぐ術(すべ)を本当に持ち
合わせているのか?」との辛辣な詰問に返答を窮する一幕もあったとか。
英・ブレア首相は、またぞろ「われわれは《テロとの戦い》に屈しない。国民は動
揺せず、冷静な市民生活を・・・」旨イギリス国民に呼びかけているらしい。南半球
の親英・豪州のハワード首相は早くも「われわれは常にイギリスと共にこそ歩む。協
力を惜しまない」などと言い、アングロサクソンとして“有志連合”の中枢の一角を
誇示し、再確認するかのような物言いのようである。この投稿文が送信される頃には
詳細な(というより偏向した?)続報がネット画面を賑わすだろう。
ロンドンという窓から見えるもの、見えないもの、隠されているもの、死角になっ
ているもの。(うちら民青でも真剣に討論を重ねなければならない重要なファクター
を多々孕む事件だと感じる。それはそうと、)一連の軍事的側面(?)に偏した統制
報道などのせいで死角となっているのは、市民的自由やヒューマニティーではないの
か? 本当に大きな死角だと思うほかない。
二度目のテロが起きる数日前、イギリス当局は全英のイスラム関係施設の強制捜査
(?)にふみきったらしい。7月8日以降、イギリスでは中近東アラブ系移民やモスク
に対するイヤガラセや暴力事件が散発しているそうだが、「ついに放火事件にまでエ
スカレートした」と聞いたのは、つい先週である。4年前のアメリカでの反応と(規
模こそ違うかもしれないが)質的に酷似してきてはいないか?
英の政府高官らが、「《危険思想》を信奉する団体は常時監視下に置く必要がある。
団体はすべて把握していきたい」旨語ったそうだが、「イスラームを敵視しない」と
言いながら片方では暗に仮想敵とするこの二律背反。アクセルを踏みながら同時にブ
レーキを踏む愚考ではないのか。そもそも何を以って《危険な思想》と定義しうるの
か、誰がどんなスタンスから視ての《危険な思想》なのか。むしろ客観視すれば、自
らを「正義」と僭称し徒らに《危険思想》《危険団体》を一方的に「定義」づけ、煽
り立てる側・態度こそ、最悪の危険思想・団体と言えまいか。
元来、歴史的にイギリスは多民族共存・人種的ハイブリッドを積極的に社会活性化
に活かそうとしてきた善き伝統がある。その麗しき潮流が1970年代末のサッチャー元
政権発足のころから右旋回に転じたと指摘される。労働党ブレアに変わってもそれが
是正されるどころか、むしろ拍車がかかってしまっている。
《テロとの戦い》ではなく、思想信仰差別・弾圧を含めた《圧制との戦い》、所得
格差の解消にイギリス国民が転換し目が醒めることを願わずにいられない。(ブレア
首相らは聖公会派(イギリス国教会)信徒に属すのかどうか(多分、洗礼は受けてい
ると思われる。)知らないが、ヨーロッパ人である以上は聖書的教養が充分あるはず
だ。だが、そのわりに自らの良心や基本的人権を認識しているとは感じられない。聖
書の一節「人を裁いてはならない・・・」「汝、殺すなかれ」「隣人愛の実践」の含
意をすっかり忘れてしまったのか。彼は弁護士をめざした若い時に、社会的公正と正
義、市民的自由、平和について高い識見を自覚し、自覚させられた「はず」でもある
だろうに。それとも、イギリスのインテリとしてのノブレス・オブリージュの精神を
捨て去ってしまったのか。)
某法学者によると「WASPの至上性神話と自己正当化、“サラディンへの恐怖”といっ たアナクロな政治的悪用手法、オリエンタリズムの悪弊がもろに表面化してきた。イ スラームへの蔑視嫌悪を正当化するには絶好の《時代相》を帯びてしまった」と今後 の人権抑圧拡大を憂慮しているとか。「イギリス全土には既に1千万台前後の監視カ メラ網が常時稼動している」とも。
イギリスは2006年秋までに新テロ対策処罰法制(正確な法案名をご存知の方、また
は詳細を知っている方は教えて下さい。)の成立を急ぐとも伝えられているが、911
シンドロームへの誤まった(?)過剰対応の拡散とその波及は、安全を向上させず、
市民的自由を圧殺するだけだ。単に「肌の色が違う」というだけで犯罪者予備軍扱い。
暗黙裡の選別志向。ネオ選民思想。これがインプリンティング(心理的刷り込み)さ
れればされるほど、無自覚のうちに胚胎するプチ・ナショナリズムがすくすくと増殖
してしまう悪過程。これは、20世紀前半に「ハイルヒットラー!」を叫んでいた当時
のドイツ国民の心理構造とやや似てはいないのか。当らずといえど遠からずかもしれ
ない。それとも、今のところは心身障害者にまで差別が及んでいない分、まだマシな
のか。
世界は2001年9月11日を境に変わった、との(新保守主義陣営の)物言いには賛成
できない。今は亡きE.W.サイード氏、大江健三郎氏らの喝破したように、「ずっと遥
か以前から世界は変質していた」とのディスクール(言説)に与したい。