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水平社博物館に行ってきた

2005/07/16 寄らば大樹の陰 50代 苦闘するフリーター

 「全国水平社」の発祥の地,奈良県御所市柏原にある「水平社博物館」を見学 した、今年5月から8月までこの博物館は「戦争の中の水平社運動」として特別展を 開催している。
 今この国が自衛隊のイラク派兵靖国問題を頂点に、戦時下情勢に突入し、有事法 制の制定、憲法改悪、教育基本法改悪、共同謀議罪法など、様々な反動立法が強化さ れ、差別排外主義の助長、労働運動や部落解放運動の解体攻撃が激化する中、戦前、 あの一切の差別撤廃を求めて、誇らしく、輝かしく激烈にスタートした全国水平社運 動が、如何に戦争勢力によって絡め取られ戦争推進勢力に変身し、解体されて行った かを、そのサワリでも知りたいと思い、訪問したのである。
 この博物館は、1986年の土地改良事業着手によって、ふるさとの変貌、水平社 運動の希薄化などへの危惧から、地元有志が中心となって全国から浄財を集め、水平 社運動の中心を担った活動家の生家近くに当初「水平社歴史館」として建設、その後 博物館認定を取得し現在の「水平社博物館」となった。
 2003年1月リニューアールしたというその建物は、JR掖上(わきがみ)駅に近 い、文字通りローカルな人住まいの中にあった。

 「人の世に熱あれ、人間に光あれ」1922年3月3日、差別に抗い人間とし ての誇りと熱い熱気のもと、全国水平社は京都・岡崎で誕生する。
 その中心的メンバーが、この柏原出身の西光万吉や坂本清一郎だった。
 柏原の被差別部落の人々の基幹産業は、桐材加工や膠(にかわ)などで、現在も町々 の朽ちそうな家に「桐加工店」などの看板が架けられ、また廃品回収業者も多い。
 博物館は年代別にまとめられた写真と書物の展示、ビデオなどが中心で、活動の立 ち上がりから高松差別糾弾闘争などの高揚期、そして国家権力による弾圧、内部抗争 と分裂,大政翼賛化・戦争推進勢力への転落と解散まで、戦前の水平社運動を展示す る形となっている。
 私が特に関心を引かれたのは、1931年の柳条湖事件から1937年の盧溝橋事 件と日本の中国侵略戦争の本格化にあわせた運動内の分岐と分裂、それに比例する形 での国家権力による水平社運動弾圧の激化である。
 その結果としての全国水平社最後となる「皇紀2600年」の大会での「荊冠旗」 の上に大きな「日の丸」が掲げられ、「挙国総動員の大和国民運動へ」とか「君民一 如、赤子一体、天業翼賛」「国体の直姿顕現皇道国家」など異様なスローガンが架け られた写真には流石に驚かされた。
 また色分けされた各地方の運動と、代表的活動家たちの写真入りのパネルも大いに 参考になった。

 今、部落解放運動は一部組織の解消解体、解放同盟の人権団体への変質など、 かつて全国水平社が辿った「戦争への道」を、再び歩いているように思う。
 小泉純一郎や石原慎太郎、安倍晋三など差別排外主義者が、大手を振って得意げに 闊歩する中、私たちがここで立ち止まっていいのか、ただ指を銜えて眺めるだけでい いのか、ただ「利権」だけを喚いて、厳としてある差別構造に目をつぶり、その全体 像を見失っていいのか、私は「水平社博物館」を見て、改めてそのことを感じている。