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スカンジナビアン氏へ

2006/06/12 アリョーハ 電気

 申し訳ありませんが、私は共産党関係者ではありませんので、あなたの質問にはすべてお答えすることができません。

 ただ、現在の共産党の政治である、「社会連帯の立場」、すなわち、まず異常な資本主義のゆがみを直し、国民本位の民主的な政権を樹立して、それから後に、社会主義をめざすという観点からするなら、あなたの立場が共産党の政治とそれほどかけ離れているとは思いません。

 そしてその際に気になるのは、あなたは重要なことをお忘れになっているということです。

 財政的な健全性を維持しながら、どのようにして高度な社会保障制度も同時に維持していくのかという点で、忘れてはならないのはスウェーデンは「消費税」25%の国だということです。(ノルウェーは世界第3位の石油輸出国でオイルマネーで潤っている国ですし、フィンランド、アイスランドは人口が希薄で財政規模も小さいので北欧経済といえばやはりスウェーデンを引き合いに出すのが正しいと思います。)

 生鮮食料品などの生活必需品には課税されないとはいえ、日本の5倍もの「消費税」の導入については共産党内部で合意が形成されているとは私にはとても思えません。むしろ共産党は、自民党や民社党のように、消費税を「社会福祉目的税に限定すれば」、現在の数倍に増額してもよいという政策に積極的に賛成はしていないのではないですか?

 一方、スウェーデンの所得税は日本とほぼ同じで、課税最高限度が所得の50%です。ですから、ブルジョアから高い税金を取り立てているというのは実情にあっていませんし、企業の競争力を維持するために企業に税制上の優遇策を与えていますので、スウェーデンの社会保障の“原資”はやはり働く人々から、消費税と所得税で取り立てているというのが正しい見方ではないかと私は思います。

 そして、反戦氏がいったように本来の“福祉国家”は90年代初頭に破綻したというのも、歴史的に見て間違いありません。

 スウェーデンが長く掲げてきた、高負担、高福祉政策は、90年には財政赤字の拡大、インフレの高騰、資本の国外逃避、通貨クローナの暴落によって頓挫しました。

 この時、インフレによる生活破壊に反対して、労働者の全国的なストライキが起こったが、カールソン政権が労働者に提示したのはインフレによる実質賃金の目減り分の補償を認める代わりに、2年間の賃金凍結とストライキの禁止措置だったので90年のスウェーデン社会は騒然たる状況だった。

 そして25%の消費税はこの時導入され以後今日までいたっています。

 カールソン政権は社会民主労働党の政権でしたが、反労働者的な政策がたたって91年の総選挙では過半数を割り、中道右派のビルト政権が誕生した。

 ビルト政権は構造改革による市場経済の強化と民間企業の活性化を掲げましたが、基本的にはリストラ政策でスウェーデンの各職場、工場から大量の労働者が解雇され、失業率は一時13%にものぼりました。

 また財政の健全化のためにそれまでの福祉政策が見直されて福祉予算は大幅に縮小されています。

 その一方で、ビルト政権が目指したものはそれまでの中立政策の放棄とECの加盟と、軍備拡張路線です。

 高度国防国家として防空能力を高めるために、国防予算を大幅に増額させ、1機1000億円とも言われるAWACSを導入するとともに夜間戦闘機を自国で開発し、武器輸出を拡大させる政策をとりました。(国防予算の増額にせよ、武器輸出の拡大にせよ、苦境に陥った大企業の救済策という側面があります。)

 また資本逃避を防ぐために金持ち優遇税制を採用し、課税最高限度を所得の50%にまで引き下げ、企業にも各種の税金の減免措置を講じましたし、苦境に陥った銀行を救済するために、銀行への公的資金の導入も行いましたので、財政赤字はむしろ拡大し、国債の累積発行残高がGDPの100%にまで膨れあがってしまいました。

 それで94年には再び社会民主労働党のカールソン政権が返り咲き、96年にはカールソンに代わって現在のペーション政権に引き継がれましたが、社会民主労働党はビルト政権の25%の消費税と金持ち優遇税制、勤労者の重課税、福祉水準の切り下げ、自由市場経済政策の採用と雇用の弾力化政策(企業におけるリストラの推進)はそのまま引き継がれています。

 中立政策の放棄にしてもペーション政権は9・11の時、アメリカのテロに対する闘いを支持し、アメリカのアフガン空爆も支持しています。

 では、スカンジナビアン氏が指摘している現在のスウェーデン経済の良好なパフォーマンスと、健全財政、高福祉というのは何でしょうか?

 90年代初頭に国家破産の瀬戸際にまで追いつめられていたスウェーデンはなぜ立ち直ることができたのか?

 それは日本の人口が1億2千万人程度であるのに対して、スウェーデンの人口が950万人程度である、すなわち、日本よりも広い国土に東京の半分以下の人々しか住んでいないということに起因しています。

 もともと人口が希薄で財政規模が小さいのであるから、重税政策と福祉切り下げによる歳出削減政策に転換すれば、急速に財政赤字が改善されるのは言うまでもありませんが、他にも、この人口の少なさはその国の資本主義にある特性を付与します。

 こういう言い方は気に入らない人がいるかも知れませんが、資本主義的生産様式の特徴は資本が労働者を搾取して剰余価値を取得することにあります。この剰余価値というのは、いうまでもなく労働者に不払い労働をさせることによって取得されるものです。

 ですから、資本の蓄積は労働者の存在を前提にしているということができます。この場合、もし人口が希薄であるがゆえに、搾取すべき労働者が少ないということであれば、資本はその活動の場を海外に求めます。つまり、直接、間接の海外投資が活発になるわけです。

 ちなみに、2004年のスウェーデンの国内総生産を金額ベースで構成比を見た場合、次のようになります。

 農業(1.5%)、鉱業(0.2%)、製造業(18.5%)、電気・ガス・水道業(2.1%)、運輸・通信業(7.4%)、卸・小売業(11.0%)、金融・不動産業(22.8%)、公務・防衛(19.0%)、その他、補助金等(8.5%) なお失業者18万1千人の失業給付は補助金の中に含まれます。

 やはり、スウェーデンの最大の産業は銀行・不動産業であり、公的支出(19.0%+8.5%)は国民総生産のおよそ三分の一と比較的大きく、この“大きな政府”を製造業の労働者と銀行業で支えているスウェーデン社会の実像をよくあらわしています。

 そしてこのようなスウェーデン経済の中で金融の占める役割が大きいということはスウェーデン経済が世界経済の状態から大きな影響を受けているということでもあります。

 つまり、現在のスウェーデン経済の良好なパフォーマンスと、健全財政、高福祉というのは、景気回復過程にある世界経済の反映であり、良好な世界経済が良好なスウェーデン経済をもたらし、スウェーデン経済の良好さが、雇用の増加と財政歳入の増加をもたらし、財政の健全化が福祉切り下げの緩慢化もしくは延期をもたらしているということです。

 ではこの世界経済の好循環が反転したらどうなるのか、こういうことは「もしも」の世界のことであり、私の語るべき事がらではありませんが、最後に、このような好循環はいつまでも続かないということだけは申し上げておきたい。