福田康夫元官房長官が自民党総裁選へ不出馬を表明した。これで、9月に安倍晋三官房長官が次期総裁に選ばれ、小泉首相の後継になることが確実になった。ではこの安倍氏はどのような人物なのだろう。法政大学教授が転成仁語で非常に興味深いことを書いているので引用してみる。
7月27日(木) それなら何故、憲法を変えようと言うのか
いやー、見事な啖呵です。さすがに、小泉首相の後継者と目されるだけのことはあります。
これだけ、堂々と居直られると、反論しづらくなります。「さあ、どうだ」と胸を張っている姿が、目に浮かぶようです。
安倍晋三「美しい国へ」の68頁をご覧下さい。69頁にかけて、安倍さんは次のように書いています。
靖国参拝をとらえて「日本は軍国主義の道を歩んでいる」という人がいる。しかし戦後の日本の指導者たち、たとえば小泉首相が、近隣諸国を侵略するような指示をだしたことがあるだろうか。他国を攻撃するための長距離ミサイルをもとうとしただろうか。核武装をしようとしているだろうか。人権を抑圧しただろうか。自由を制限しただろうか。民主主義を破壊しようとしただろうか。答えは、すべてノーだ。今の日本は、どこからみても軍国主義とは無縁の民主国家であろう。
「靖国参拝をとらえて「日本は軍国主義の道を歩んでいる」という人がいる」というのは、問題の曲解です。確かに、一部にはそういう人もいるかもしれませんが、多くの人は過去の侵略戦争の正当化や美化につながるのではないかと懸念しているのです。
「近隣諸国を侵略するような指示」は、「戦後の日本の指導者たち」だけでなく「戦前の指導者たち」だって出していません。「邦人の保護」などの口実で、明確な意図と指示なしにずるずると侵略戦争を拡大していった戦前の歴史を、安倍さんはご存知ないようです。
「軍国主義」は、過去の侵略戦争への反省を忘れたところから芽生えてきます。「靖国参拝」は、そのような可能性を高めるのでしょうか、低めるのでしょうか。
その次の文章を読んで、仰天した人は少なくなかったでしょう。私も驚いた一人です。
だって、「他国を攻撃するための長距離ミサイルをもとうとしただろうか。核武装をしようとしているだろうか」と、書いているんですから。北朝鮮のミサイル発射に刺激されて、「敵基地攻撃能力保有論」を唱えたのは、いったい誰だったでしょうか。安倍さん自身ではありませんか。
それはすなわち、北朝鮮にある敵基地を攻撃するための武器を保有するべきだということになるでしょう。つまり、「他国を攻撃するための長距離ミサイルをもとう」ということではないのですか。
「核武装をしようとしているだろうか」と書くに至っては、開いた口がふさがりません。2002年5月13日、早稲田大学で行った講演をお忘れなのでしょうか。
このとき、安倍さんは、
①ミサイル燃料注入段階で攻撃しても専守防衛
②攻撃は兵士が行くと派兵になるが、ミサイルを撃ち込むのは問題ない。
日本はそのためにICBMを持てるし、憲法上問題はない。
③小型核兵器なら核保有はもちろん核使用も憲法上認められている。
都市攻撃はダメだがミサイル基地の核兵器による先制攻撃は専守防衛だ
というものでした。
明らかに「核による先制攻撃論」であり、「ICBMは攻撃兵器だから持てない」という政府見解にも反する発言です。
核保有はもちろん核使用も憲法上認められていると発言しておきながら、「核武装をしようとしているだろうか」とは、誠に見事な居直りというほかありません。この発言については、「サンデー毎日」2002年6月2日号の「安倍官房副長官核使用合憲発言」という記事に詳しく出ています。
さらに続けて、「人権を抑圧しただろうか。自由を制限しただろうか。民主主義を破壊しようとしただろうか」と畳みかけています。安倍さんは、「答えは、すべてノーだ」と、書いていますが、「すべてイエスだ」と書くべきでしょう。
安倍さんは、日の丸・君が代の強制と処分によって、「内心の自由」などの人権が抑圧されている現状を知らないのでしょうか。NHKの番組への政治介入によって放送の自由を犯したのは、安倍さん自身ではありませんか。
ビラまきなどで簡単に逮捕されて有罪とされ、何もやっていなくても目配せだけで逮捕されるような「共謀罪」の新設は、「民主主義を破壊しようと」するものではありませんか。まさに、人権を抑圧し、自由を制限し、民主主義を破壊する政治が横行していると言わざるを得ません。
したがって、「今の日本は、どこからみても軍国主義とは無縁の民主国家であろう」などと、能天気なことは言えません。自衛隊の存在感が増し、「専守防衛」の国是は踏みにじられ、膨大な無駄でしかないMD(ミサイル防衛)構想が具体化され、在日米軍基地の再編によって日米軍事一体化と融合が図られようとしているのが現実です。
このような動きは、「軍国主義とは無縁」だなどと言えるのでしょうか。軍国主義が一国の政治における軍事的価値の浸透と増大を意味するのであれば、今の日本はまさにそのような方向に向かっています。
安倍さんも認めているように、「拉致事件をきっかけに、日本人が覚醒してしまい」、ナショナリズムや軍国イデオロギーも、急速に高まっているではありませんか。これまでの戦後日本は、基本的には「民主国家」だったと私も思いますが、小泉さんや安倍さん自身の手によって、その基盤は、日々、掘り崩されてきています。
安倍さんは、冒頭に掲げた文章に続けて、次のように書いています。
日本の国は、戦後半世紀以上にわたって、自由と民主主義、そして基本的人権を守り、国際平和に貢献してきた。当たり前のようだが、世界は、日本人のそうした行動をしっかりみているのである。日本人自身が作り上げたこの国のかたちに、わたしたちは堂々と胸を張るべきであろう。わたしたちは、こういう国のあり方を、今後もけっして変えるつもりはないのだから。
「わたしたちは、こういう国のあり方を、今後もけっして変えるつもりはない」という言明は重要であり、そのこと自体は歓迎したいと思います。次の首相と目されている方が、戦後日本のあり方を肯定し、それを「今後もけっして変えるつもりはない」というのですから・・・・・・。
それならば、このように問わなければなりません。「この国のかたち」や「こういう国のあり方」を生みだした根本には何があったのですか、と。それは、日本国憲法の賜物ではなかったのですか、と・・・・。
それなのに、何故、この憲法を変えなければならないのでしょうか。憲法を変えることによって、「この国のかたち」や「こういう国のあり方」が大きく変容してしまう危険性はないのでしょうか、と・・・・・・。
安倍政権の誕生によって、ますます、危険な方向に向かうだろう。
しかし幸いなことに、来年春には統一地方選挙が、夏には参院選挙がある。そのときに、自公両党を敗北させることができれば、この核武装論者の危険な政権を潰すことができる。
平和共同候補の運動を前進させよう。