1. 日本は間違いなく政治も経済も社会も戦後最悪の状態にある。にもかかわらず、不破教祖はこの現実にまったく背を向け、「特別党学校」とやらで「日本共産党史について」ウンザリするほど熱弁を振るっている。
実社会で、組織の歴史をこれほど執拗に構成員に教育する組織は他に例がないであろう。何故なら、実社会では組織の最大の使命はあくまで目標や事業を達成することであって、その歴史はそれほど重要ではないからだ。
「昔はどうだった、昔はああだった」と過去の思い出話ばかりに耽るのは、言うまでもなく老人特有の頭の老化現象である。公職から完全に引退したご隠居さんが自宅で盆栽の手入れをしながら、ぽかぽか日が当たる縁側で同好の士を相手に昔の思い出話にふけり、そして傍らにはネコが気持ち良さそうに丸くなって居眠りしている・・・というのどかな光景ならばほほえましくもある。しかし、不破教祖は今も日本共産党の実質的最高幹部である。そして社会科学研究所所長というかつては閑職だったポストに就き、それを共産党イデオロギーの強力な教育機関としようとしている。なぜ日本共産党はこれほど執拗に党の歴史を党員に教育するのか。その教育目的が自民党のたくらむ愛国心教育と同じなのだから、実に犯罪的な話である。
2.不破教祖による党員に対する党イデオロギー教育と自民党のたくらむ愛国心教育もどちらもその狙いは同じである。すなわち、両者の目的は、
z@)実在する個々の生身の人間を超越した絶対的な共同体(すなわち国または党)が存在するという共同幻想を構成員の意識に強烈に植え付ける。
zA)その共同体(すなわち国または党)は普遍的・絶対的・非代替的・不変的・目的的なものであると構成員に思い込ませ、帰属意識と忠誠心を煽る。
zB)実在する個々の生身の人間は、超越した絶対的な共同体(すなわち国または党)に従属し、または価値的に劣後する存在であると構成員に錯覚させる。
zC)実在する個々の生身の人間は、超越した絶対的な共同体(すなわち国または党)に自己犠牲的に忠誠を誓うべきものであると構成員の意識に強烈に思い込ませる。
この教育の結果、構成員は共同幻想(すなわち国または党)への愛や帰属意識を募らす一方で、それと反比例するように他者への共感力や理解力を喪失してゆく。そして共同幻想(すなわち国または党)は愛するが、実在する生身の人間は愛することができない倒錯した人間が大量生産される。そしてこの教育の結果、構成員は権力者の操り人形のごとき存在となり、戦争で平気で権力者のための殺し合いまでするようになる。
だが、この共同幻想の本当の正体は、言うまでもなくその時々の権力者の化身に他ならない。愛国心教育で言えば、愛する対象はその時々の国家権力であり、共産党で言えば党幹部なのである。
従って正しい世界観は次の如くでなければならない。まず先に実在するのはあくまで生身の人間であって、組織や共同体ではない。組織や共同体は、実在する人間に奉仕するためにあくまで「手段」または「道具」として人為的に作られたものに過ぎない。従って、組織や共同体は歴史的・相対的・代替的・可変的・道具的な存在であり、価値的に優位に立つのは当然ながら実在する生身の人間である。人間が組織や共同体を愛するのではなく、組織や共同体が人間を愛さなければならない。
3. 昨年の9.11総選挙の結果、護憲勢力はもはやどの政党も1党では太刀打ちできない状況に追い詰められた。もし共産党が真に護憲勢力かつ政党であるならならば、より広範な諸勢力と共闘・提携するのが当然の政治判断だろう。ところが共産党は新社会党、平和共同リストとの共闘提案を次々に拒否、また社民党との共闘も単なるポーズ、アリバイ作りに過ぎないことがほぼ明白となった。
護憲勢力・政党とは認めがたい共産党のこのような利敵行為は、不破教祖による上記の党イデオロギー教育の結果であると断じて良いだろう。何故なら、共産党にとっての至高の価値は党そのものであって、平和や労働者や人間はそれに劣後するものであり、日本共産党は手段・道具ではなく、目的そのものだからだ。
切迫した現情勢で、局面を打開するために日本共産党に求められているのは最低限、他党派と共闘・提携すること、更に状況によっては解党し、新党結成さえ視野に入れることである。このためには日本共産党という存在を絶対視することなく相対的に見る視点が不可欠なのだが、不破教祖が党員に行っている党イデオロギー教育はこの要請とはまったく相反するもので、日本共産党は普遍的・絶対的存在であるということを党員の頭に叩き込んでいるのである。
受講する党員たちは、自分達は共産党の幹部候補生だ!とエリート意識をくすぐられ、意気揚々として「わが日本共産党は永遠に不滅です!」と愛党精神を高ぶらせ、共産党天動説に染まってゆくのであろう。
共産党を絶対視する思想を植え付けられた党員は、当然ながら他者との相互理解能力を持たないので、異なる見解や立場の人々との対話・交渉能力がない。そもそも対話すら成立せず、相手に高慢な態度で接し、排除の論理を振り回し、相手を怒らせるのが落ちであろう。共産党は敵を作るのは大の得意であるが、味方を作る能力がまったくない。つまり、日本共産党は政治変革・護憲運動の阻害要素といわざるを得ないのだ。
4.日本におけるナショナリズムの台頭及び教育基本法改悪の企てと日本共産党内での愛党教育強化とのシンクロナイズは、単なる偶然の一致とは思えない。実在する生身の人間を超越した絶対的な共同体が存在するという共同幻想を人々の心に植え付けようとする思想は、自民党も共産党もまったく共通するからだ。
「さざ波通信」で健筆を振るう投稿者は、不破教祖引退後の党幹部の世代交代に党改革の期待を寄せているようだが、果たしてそれは実現するであろうか。また仮に実現するとしても、それは憲法改悪阻止に間に合うだろうか。
私の診断は、共産党天動説に染まった共産党員が不破教祖により今も次々に生産されていることを考えると、仮に不破教祖が完全引退しても日本共産党を絶対視する不破思想のDNAは多くの幹部候補生に継承されるから、共産党の党改革を期待することは困難だということであり、心ある者は社会民主党を支持すべきであるという考えに今も変わりはない。