先月のことだが、知人(党員青年)の家に「どうか助けてください」と駆け込んできた人がいたという。知人(党員青年)からその話を耳にして驚いている。以下の内容は同知人の話によるもの。
駆け込み人(その本人の諒解を得ていないため、とりあえずこのように表記する。)は事情説明と挨拶に先立ち、自発的に氏名をはっきりと名乗り、現住所などを示すため運転免許証を見せたという。年齢は32歳。男性。やや痩せ型。メモ帳を示すと躊躇いなく、そこにそれら情報と連絡先を記入してくれたらしい。
中学生のとき以来片親で、父親のみに育てられたとも。「片親理由を聞くのはセンシティヴな部分だから」とそこまでは聞くことをしなかったという。見たところ「社会人常識は充分あると看做せるし、確かにホームレスには見えない」と知人は語っていた(服装こそかなり質素だが、垢臭や汗臭は無し。無精ヒゲも無し)。
駆け込み人氏は、5年前に経営規模縮小策の一環で某中規模証券会社をクビになったのだそうだ。時期としては、山一証券(自主廃業)や生命保険会社など数社の経営破綻が連日各紙誌をにぎわし、アジア通貨危機ショックの余波いまだ覚めやらぬ頃が過ぎかけた頃に該当するはず。
無関心な人が聞けば、「クビだって? そんなのきょーびありふれてるよ」と一顧だにしないかもしれない。だが、駆け込み人氏は珍しく気骨のあった人のようで、最初にリストラのうわさを社内で聞いて以来、(ご用組合ではなく)労組を立ち上げようとコツコツと有志たちと奮闘していたという。
ところが、誰がチクッたのか不明ながら、しばらく経った頃、突如、人事部から呼び出しを受けた。駆け込み人氏(当時は一証券マン)は呼出し峻拒行為は内規違反に該たると考え、しぶしぶ呼出しに応じたという。
なぜか、人事部とは別のひっそりした小部屋に呼び出された駆け込み人氏(当時は一証券マン)に対し、人事部担当者は「いま既に我が社には労組があるじゃないですか。あなたの構築しようとしている組合は、“第二組合”とみなすほかないんですよ。1社につき2労組が存在するといった実例はお目にかかったことがありません。 ○○さん、私どもの言わんとする趣旨はおわかりですね?」などと露骨に圧力を加えてきたという。
駆け込み人氏(当時は一証券マン)は、圧力にすんなり引き下がるような従順者ではなかったようだ。信頼の厚い有志を集め随時、対策会議を開き、「ご用組合でないオレたちの労組を作るぞ!」と深夜まで頑張ったそうである。
だがほどなく「希望退職者募集」が唐突に社内全セクションに発令された。不採算部門ばかりか、対中小法人・対個人渉外の別なく、すべての部門が募集対象になってしまった。数箇所在る営業所はその過半数を閉鎖する。
業種・業態を問わず、一定年数、民間企業勤め経験をお持ちの方なら、希望退職制度の「正体(本質)」については、理解りすぎるほどお理解りになっていることと思う。 果然、経営側の思惑(?)どおり、2週間も経ぬうちに退職を申し出る社員が出始めたという。
平均的な日本サラリーマンの「性(さが)」なのか、ひとりが応じると、その動きは「止まらなかった」とも。つい半年前まで長期資格取得研修で同室になったり、喜怒哀楽を共にし合った仲間までもが、ゾロゾロと戦列離脱していった、とも。だが駆け込み人氏(当時は一証券マン)は果敢(否、「無謀」なのか?)にも、希望退職者募集開始日から4ヶ月経っても同制度に応募せず、労組結成運動に汗を流し続けたらしい。
市場万能主義の時代においてはあるいは当然の帰結(話を聞いた限りだと必ずしもそうは思えない。解雇回避義務を最後まで尽くしたのかも不明らしい。)なのかもしれないが、4ヶ月と7日ほどが経過した頃、最後まで募集に応じようとしない社員6人に対し、突如、人事部名で「指名解雇通告書」が届いたという。これはある意味で“死刑宣告”ではないか!?
慌てた駆け込み人氏(当時はまだ一証券マン)ら有志は、交渉拒絶に入った経営側をあきらめ、最後の手段に出ようとしたようである。いまでいうADR(裁判外紛争処理手続)と思われるが、解雇事由不存在につき仮処分申請をするため弁護士事務所に向け車を走らせた。出発地は弁護士事務所まで遠い。
だが、無情な一通の電話連絡ですべては万事休す。車内でかかってきた社員用携帯電話。社長の秘書が直直に出たという。涙声で「実は社長が数日前から行方がわからないんです。不渡り×回出てること私どももついさっき聞いたばかりなんです。寝耳に水です。債権者の何人かが ・・・社長に会わせてくれ・・・失踪したというのは本当か?・・・先取特権はちゃんと保全されてるのか?・・・ って電話がもう何十本も・・・」。そしてそれ以来、駆け込み人氏は失業。非正規雇用を何度か渡り歩き、過労で倒れ、病院へ。
退院後も通院費用支払いで貯蓄をとり崩し、ハローワーク通い(がよい)しても「キミ、病み上がりなの? 完治してからでもいいんじゃない?」の冷たい対応。もう労働行政などアテにせず、連日のように自主就活に明け暮れたものの、今度は就活で「貯蓄が底を尽く寸前」に陥ったという。アパート賃貸代・電気代・ガス代・上下水道代・新聞代・国保・国民年金保険料も「サラ金から借りるしか払う手段がないんです」。 精神的にも限界にきたとかで、もう、恥も外聞もなく、地元の旧友宅で寝泊りさせてもらっている、とも。
知人(党員青年)は、駆け込み人氏に似た先例を知らないので対応に苦慮したというが、「なるべく早く、○○にある生活相談所に行くよう薦める。第一報は既に入れてあり、誠意をもって相談にあたらせていただく、と応答があったんだ」。行政に助けを求めても冷たく追い返されるだけだからな、とも言っていた。
知人(党員青年)は、駆け込み人氏の自己申告内容に誤謬のないことを確認し、一連の話しぶりに好感をもった。理路整然と要点をおさえた受答、社会常識以上のものは「充分備わっている」と判断したそうだ。「そうだ、これもせっかくの縁だ。もし気が向けば、君も民青に入らないか? なんでも本音を話せる場だぞ。おれが推薦してもいい」とポンと肩をたたいたそうだ。
駆け込み人氏は、知人(党員青年)に何度も丁寧にお礼をし、次回相談月日を確かめてからその日はとりあえず引き揚げたらしい。
■■■粘土的社会から砂粒的漂流社会へ向かうのか?■■■
NHKの今夏の番組で「30代ホームレス」がいよいよ日本でも現実のものとなりつつある、一部地域では既に現実化してしまっている、との趣旨で衝撃リポートがあったそうだ(このサイトでも何人かの先学が詳細にリポートしてくださっている。)。大メディアの報道姿勢などにとどまらず、今は本当に「社会の陰の部分」が見えにくくなっている。
(ぼくらを含め)一般国民の常識の盲点、知識不充分で情報格差、そういう要素、その谷間を埋める作業は必ずしも決して容易とは言えない。
そのような困難(または巧妙なる情報統制?)に乗じてからか、こんな悪質な宣伝(??)をしでかす輩までいるらしいことを聞かされ、驚いた。「メディアが放送していない問題は、存在しないというふうに考えても結構です。格差、格差、と騒ぎますが、まだ日本のジニ係数はひどくないでしょう? そうじゃありませんか? 消費税にしましても、ベルギーその他EUに比べたら絶対税率はかなり低いんです」。 だと!?
馬鹿を言うな。(ぼくを含め)統計のド素人を騙すのは、官僚からすれば朝飯前だろう。消費税と言ったってEUでの課税は生活必需品には及んではいない。 銀行、とくにメガバンクは通常貯金金利はバカバカしいほど低く、CD利用手数料はちゃっかり戴き、他行提携顧客や零細業者(に限らないが。)が換金するたび安くない手数料でイジメる。「ちょっと小金持ち風の顧客かな」とみるや頼みもしないのにハイリスク・ハイリターンの金融商品をオススメする。金融のプロぐらいしか耳にしたこともない専門語だらけの先物取引と、それを売りたい営業マン。証拠金取引などとあわせ、長年、額に汗して貯めた退職金をすべて騙し取られたお年寄り夫婦が激増したというが、記事に掲載したがらない大手新聞社。れっきとした財産権侵害(憲法違反)なのに追及する気もないらしい。
1980年代半ば頃からの金融自由化もあってか、資産家崇拝、拝金主義。1999年頃には千葉県臨海部ベッドタウンに位置する一部の公立学校の授業で、児童生徒相手に株取引を教える者まで現れていた、というが、教えるべきはサラ金やクレジットで身を滅ぼさぬよう、過不足のない消費者教育こそ必須なのではないだろうか。もしも生活に行き詰まったときの最低限の対処法についても、近未来(?)のこの国を考えると「不必要」と断定はできまい。
“拝金主義教”(?)という新興宗教を義務教育で教える一方で、逆に低所得者層を露骨に見下す風潮が中学生にまで及び始めてもいるようにみえる。中・高校生がホームレスを惨殺する凶行なんて1970年代にはあったのだろうか? 「まさか死ぬとは思わなかった」という類いの答えかたの神経は信じがたいが、“家無し職無しカネ無しなんて虫けらと同然さ” 彼らはそれほど貧しい人間観しか持てなくなってしまったのか。
小学生が登校しても「オマエはゲーム機持ってねぇから」などと仲間はずしになる風潮。わが子に登下校時ケータイと防犯ブザーを持たせないと安心できない体感治安。それら事実にはみなほおっかむりをしている。
先ほどの、「メディアが放送していない問題は、存在しないというふうに考えても結構。・・・そうじゃありませんか?・・・税率はかなり低い・・・」と言い放った輩は、毎日いったい何人の生命が自殺や無理心中で失われているのか知ったうえでの発言なのか。ある学識経験者によると「毎年3万人が自殺する国の現実は、ベトナム戦争時の戦死者を上回る異常なハイペース」という。多重多額債務と暴力的取立てで生命を断つ人の余りの多さ。サラ金大手が悪びれもせず証券市場一部上場し、ケバケバしい金融会社の夥しいネオンが地方ですら目立つ現状は、諸外国からの訪日者の多くが「一様に驚き、眉をしかめる」という。
生活困難者やその家族、生活保護受給者がどのような実態におられるのだろうか。「想像力と創造力を働かせ!」なる声は一部有識者などから聞こえはする。だが、恥ずいことだが、ぼくらほとんどの青年層は普段から社会保障問題を考えることがどちらかというと苦手である。良心的な某救援団体などが保護受給の『Q&A』風のものを示している地域があるそうだが、30代ホームレスの時代が冗談ではなくなりつつある。 否、10代のホームレスだってこの先「生まれっこない」などと断言できないかもしれない。
もはや、年齢層を問わず、社会保障問題を「広義の」視点で考える時代になったと感じざるを得ない。実態とこの分野の正しい知識を、救いの手を求める生活困難者(または、いま困っていなくても向学心のある人)にレクチャーしてくれる。そんな人材と教育・討論の場を欲する人は潜在的に決して少なくはないと思う。
駆け込み人氏を直に見、接した知人(党員青年)も、これを契機に大きく成長するだろうとぼくは確信をもった。 と同時に、協力しえなかった自己の非力さを再認識した。
にしても、途惑いつつも適切な引継ぎをし、「何かあったら支援する」と約束していたという彼のバイタリティー。これからも彼から学んでいきたい。
駆け込み人さん、ぜひ、立ち直ってください。陰ながら応援しています。