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一般投稿欄

9.11陰謀論、無党派通行人さんと澄空さんの議論を読んで

2006/09/30 さつき

 「9.11陰謀論」にかかわる無党派通行人さんと澄空さんの議論を読ませていただき、この問題で意見を述べた(6/24、6/29の投稿)こともある者として、感想を書かせていただきます。

 私自身は、捜査当局発表のアルカイダ犯行説をそのまま信じている訳ではありません。それでも私は、この問題でいろいろと再検証する必要性をまったく感じていません。ですから、再検証する必要性を痛切に感じていらっしゃる無党派通行人さんの情熱には圧倒されるばかりです。それに対しての澄空さんのねばり強い対応にも敬服いたします。

 私が、この問題で再検証に労力をさく必要性を感じないのにはいろいろと理由があります。

 第一に、取りざたされている「WTC崩壊の不自然さ」について、私自身、その映像を見た際にまったく不自然さを感じなかったからです。すぐに「鉛直ドミノ現象」という言葉が浮かびました。これは私の勝手な造語ですから、どうということはないのですが、それに不自然さを感じられた方々がいろいろと詮索を開始された理由は理解できます。

 第二に、米国権力は、これまでにも様々な陰謀・策略を労してきました。しかし、それらのほとんどは、内部からの情報の漏洩や告発によって数年後には真相が明るみになり国際的な非難がわき起こるというのが常だったと思います。もし、指摘されている9.11陰謀説が正しいなら、その陰謀にかかわって口止めしなければならない関係者は、過去のどの陰謀にも増して膨大な数にのぼる筈で、早晩、内部から情報が漏れ出てくるに違いありません。この問題では、さまざまな検証にどんなに労力をさいても、反証不可能な言い逃れはどちらの側にも無数にあり得ると思います。しかし、権力内部からそうした内部告発があれば別で、それこそが決め手になるでしょう。つまり、時間は有意義に使いたいというのが、第二の理由です。という訳で、この原稿を書くのに、もう疲れました。

 第三に、もともと、「米国権力陰謀説」が出てくるなど予想だにしなかった当局による一連の捜査が、後から出てきた陰謀説にきちんと対応したものでなかったのは当たり前だと思います。その弱点をついて、あれこれの捜査上の不備や対応のまずさが「謎」として誇大広告されているに過ぎないのではないか、というのが無党派通行人さんが紹介されたソースを拝見しての率直な感想です。捜査当局が、陰謀論者の要求にいちいち対応するのも煩わしいと、情報公開をサボタージュしたり、要求に応じてなされる検証や説明が不十分なものに終わるのも不自然なこととは思えません。

 例えば、WTC崩壊のシミュレーションについては以下のように考えています。

 鹿島建設のシミュレーションに使用された手法は、「大変形,非線形有限要素解析法」とのことですが、有限要素法は、もともと構造物の連続性が保たれている状態で起こる小さな歪み量にしか対応できませんでした。それが、衝突した旅客機の部品が飛散する様子まで再現できるようになったのは最近の進歩に負うところが大ですが、あれが限界です。火災による強度低下なども考慮して、シミュレーションで全崩壊過程をリアルに再現するには、最近改良された粒子法によらなければならないと思います。現在のスパコンの性能だと、もし、初期条件を正確に入力することさえできれば、WTCへのジェット旅客機の衝突によって何が起こるか、粒子法による正確な検証が可能だと思います。ところが、この初期条件の入力がやっかいです。

 衝突した航空機の構造および搭乗者や燃料を含む全構成物の配置と物性の全体、建物の構造および様々な設置物、付属物の配置とそれら全ての物性を正確に入力しなければならないからです。正確な情報を入手できたとしても、これをやり遂げるには、データ入力のための専用ソフトの開発からはじめなければならない程やっかいで、プロジェクト責任者としては、一生を棒に振る覚悟で取り組まなければ無理でしょう。という訳で、シミュレーションで正確に再現するためのソフトもハードも存在するけれど、現実問題としてそれを実行するのは無理な注文だと言って良いと思います。

 この事態を、「シミュレ ーションがないということは、シミュレーションしようにも出来なかったと解するべき」(9/19、無党派通行人さん)と表現しても良いのですが、その実態は、「正確なシミュレーションには大きな困難を伴うのでまだなされていない」と解すべきです。今後、正確なシミュレーションがなされるかどうか私に予想できませんが、現在なされているシミュレーションの正否を問題にするのは不毛だと思います。正確なシミュレーションがなされていないことをもって、「火災による鉄骨構造の劣化が原因で崩壊したというアイデアは否定された」と主張するのであれば、論理的な誤りだと言えるでしょう。

 この問題について私は、崩壊がどこから始まったのかがキーポイントになると思います。澄空さんが書かれたように、崩壊が飛行機の衝突と火災が発生したフロアから始まった事を受け入れるなら、爆破説の方を受け入れることはできません。爆破説が正しければ崩壊は爆薬が仕掛けられた部位から始まると考えるのが自然です。その際、爆薬が仕掛けられた部位がWTCの上層階だったとして、そこに正確に衝突することはほとんど不可能ですし、もしそこに衝突したら、その時点でテルミット系爆薬は着火(爆発)してしまうからです。

 自動操縦説についても不勉強ですが、陰謀論の根拠としていろいろ書かれている中で、私にとって最も理解不能だったのは、この、自動操縦によってペンタゴンにつっこんだという説です。自動操縦へはいつの時点で切り替わったのでしょうか。自動操縦に切り替わった時、それまで操縦していたパイロットはどう対応したのでしょうか。その時点での交信記録が証拠として残されているでしょうか。

 以下は、無党派通行人さんの主張とは直接には無関係なことです。

 無党派通行人さんは、「ボーイングを捜せ」など、初期に出て有名になった陰謀論は「2002年に出た早々から散々その作為性や欠陥が指摘されていた」と書かれています。なぜ、このような作為性や欠陥を含んだ説がポロポロと出てくるのでしょう。そして、もっぱら左翼の側が、それらの欠陥説に飛びつき、魅了されてしまうのでしょう。

 日本の左翼陣営には、過去、様々なトンデモ説にかかわっての歴史の禍根があります。自然科学の世界でさへいくつか例示することができます。代表的な事件としては、生物学・農学・遺伝学の世界で起こった「ルイセンコ騒動」があげられるでしょう。地球科学の世界では今も尾を引いている事態として、ソ連の学者のトンデモ説に肩入れした日本共産党系の学術団体の活動が、日本の地質学の世界におけるプレートテクトニクス理論の受容を10年以上遅らせたということも言われています。私はこの見方は誤りだと考えていますが、この世界では、そういう見方をする研究者が多くいます。

 それらの出来事によって、それぞれの分野での左翼陣営は大きな打撃を被ってきました。ルイセンコ騒動はソ連崩壊の遠因であるとの見方もありますが、ある意味当たっていると思います。なぜ、そういうことがたびたび起こるのでしょうか。自然科学の世界でいえば、こうしたトンデモ説にかかわる左翼陣営の失態は、論理と実証を重んじる物理学の世界では起こりませんでした。主には、現象論を土台とする帰納的な方法論を駆使する分野で起こったと言えるでしょう。関連する現象を収集し、そこから帰納される結論を導き出す過程で、あれこれの思いこみが反映された結果だと思います。

 私は、現象論を基礎とした帰納法は、自然科学の世界に限らず、社会科学の分野などにおいても現実世界の真実にたどり着く重要な手法と考えていますが、思いこみが強すぎる時、取り返しの付かない失敗もしでかす、その危険性について指摘しない訳にはいきません。説明できない「謎」が残されていることと、陰謀が実在することとは別問題です。(9/30)