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ビル火災の温度に関するジョーンズやホフマンのゴマカシ(訂正版)

2006/10/13 澄空

 以前の投稿で指摘したように、NISTは、WTC火災の温度を見積るに当たり、オフィスの一区画を再現し燃焼試験を行っています。その次にその試験で得られたデータを元に、火災動態シミュレーターでシミュレーションを行い、上層部で最高1000℃と評価しています。
 私は、10/10付の投稿で、その試験の記事だと思って、「世界貿易センタービル崩壊の謎にせまる(『ジャパン・オンザマーク 11号』)」を引用したが、実際には、この記事の試験は床の「耐火試験」であり、まったく別の試験でした。
 これは重大なミスであり、間違った引用をしてしまったことにつき、読者と無党派通行人氏にお詫び申し上げます。
 訂正箇所は、引用を行った部分、および最後に「500~650℃」が根拠のないことについて念押しで1文加えています。

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 私は「自作自演」説を読んだ上で批判しており、その「自作自演」説の「ソースを示して」も反論にならないと忠告したはずだ。ここでは、ビル火災の温度に関するジョーンズ博士やホフマン氏のゴマカシを指摘しておく。

 まず、無党派通行人氏は、NISTの再現実験の結果を否定する。この実験がどうのようなものであるかは前の投稿でNISTが公開している写真へのリンクを示した通りである。否定するなら、実際の一区画の再現実験の数値や火災動態シミュレーションの入力がどうおかしいのかを、NISTの結果に基づいて指摘すべきであろう。

 次に、無党派通行人氏がNISTの実験の替わりにもってきたのが、ジョーンズ“論文”の孫引用(「通常の住居の火災の温度範囲は500~650℃」)である。この“論文”の末尾をみればわかるように、この数値は『防火ハンドブック』(1992年版)という本から引用されていることがわかる。無党派通行人氏にお聞きするが、なぜ上記のようなNISTの実験よりも『防火ハンドブック』の数値がWTCタワーの実態を正確に反映していると考えるのか、その根拠を示していただきたい
 火災の温度は、鉄やアルミニウムの融点のように決まったものではない。屋内火災は熱がこもりやすく、時間とともに温度は上昇する。どんな種類の可燃物がどれだけあるか(WTCにはビル内装・オフィス家具・飛行機の残骸や備品などがあった)、燃焼のための空気を供給する経路があるかどうか(WTCには飛行機衝突による穴があった)によって大きく変わることは誰にでもわかる。だからこそ、上記のようにできるだけ忠実にWTCの内部を再現して火災実験を行う必要があるのだ。『防火ハンドブック』(1992年)には、いったいどんな条件で「通常の住居の火災の温度範囲は500~650℃」と書いてあるのか、ぜひ教えてくれたまえ。

 第三に、無党派通行人氏はさらに、なんと!私が「揚げ足取りにすぎない」と忠告しておいたホフマン氏の主張(「800℃を越える温度はビル火災ではフラッシュオーバーで知られる短時間の現象でしか通常は見られず、1000℃という温度はフラッシュオーバーにおいても稀」)まで引用してみせる。だが、残念ながらWTCタワーの火災は、ビル火災としては厳しい部類に入り、この場合、最高温度が1000℃になるというのは決して「まれ」ではない。
 再び無党派通行人氏にも読める日本語のサイトから、日米それぞれの有名なビル火災の例を挙げておこう。
ファーストインターステートタワー火災(1988年、ロサンゼルス)

「最高温度は1,100℃。12階から発生した火災は4時間燃え続け、ビルの倒壊も懸念されました。」

雑居ビル火災(2001年、東京・歌舞伎町)

「三階ホール内は火災で、最高約千度まで温度が上昇していたとみられ、七百度以上で長時間熱すれば溶解するアルミ製のガスメーターが溶け落ちたとみられる。」

 実は後者の火災でも、そんなに高温になるはずがないだの、アルミが溶けたとは考えにくいだの、何者かの陰謀だの言われていたが、結局火災でアルミ配管が溶けたと結論付けられている。
 このように、WTCタワーの火災が最高1000℃に達し、アルミニウムを溶かすということは、過去の事例により裏付けられているのである。

 以上のような指摘は、前の投稿で紹介したページでも、『ストラクチュラル・ファイア・エンジニア』誌のコリン・べイリー教授(マンチェスター大学)の記事 を引用して、通常のビル火災で1000℃になることを示している。ここで使われている図をみれば「500~650℃」という数字の方が「まれ」であることがはっきりするだろう。
 緑色のラインが標準的な屋内火災の温度カーブであり、これによると火災開始から20分で800℃に達し、90分で1000℃に達する。火の回りが遅い場合(水色)でも、40分で800℃近くになり、110分で1000℃に達する。

 仮に通常のビル火災では「500~650℃」が普通で、鉄の強度にもたいした影響がないのであれば、いったいどうしてビル建設等で鉄部材に耐火被覆を施すことが義務付けられているのか? それが本当にそうだとしたら、WTCビルの耐火性能に問題があったとして追及している関係者は無駄な努力をしていることになろう。

 ジョーンズ“論文”(「本当はなぜWTCビルが崩壊したのか?」)のいい加減さは、もちろんこれだけではない。彼は、ホフマン氏と同様にNISTの崩壊説をまったく理解しておらず、的外れな批判、専門家の論文の論旨を無視したいい加減な引用でもって批判したつもりになっている。また機会があれば、それらについても投稿するつもりだ。

 なお最後になったが、「黒煙」はNISTのFAQに書かれているように、通常のビル火災では必ずといっていいほど発生するもので、「500~650℃」の根拠にはならない。ジョーンズ博士が引用する「Eagar and Musso (2001)」の論文は、WTC火災が大量のジェット燃料による「燃料豊富な拡散炎」であることを前提として「500~650℃」の数値をあげているが、ジェット燃料は飛行機衝突後すぐに燃えてしまっているため、その後の火災には、その前提は当てはまらないのである。したがって、WTCの火災に適用すべきなのは、まったく状況の異なる「通常の住居の火災」ではなく、「ビル火災」の数値である。