大阪府豊中市の男女共同参画施設「すてっぷ」非常勤館長だった三井マリ子さんが、北川悟司市議ら,復古勢力(筆者に言わせれば保守ですらない)の攻撃に遭い、市は最初はかばってくれていたが、2003年夏ごろから(原告の主張では)復古勢力に男女共同参画条例に賛成してもらうことと引き換えに、組織体制強化を名目に排除工作が進み、2003年度末でついに雇い止めされたとして、市と財団に損害賠償を求めて訴えている「館長雇い止めバックラッシュ訴訟」。それをめぐり重大な事実が明らかになりました。
(裁判の詳しい経過は以下を参照)
http://www.janjan.jp/area/0610/0610032132/1.php
http://www.janjan.jp/government/0607/0607087526/1.php
http://www.janjan.jp/area/0605/0605234886/1.php
2003年3月に行われた、財団の評議員会と理事会の議事録三井さんと男女共同参画行政(すてっぷ)へのバックラッシュ攻撃についての記述が、三井さんが現職時代にもらった会議録と比べて、大幅にカットされていたことが明らかになったのです。
三井さんを雇い止めにしたのは、あくまで、バックラッシュのせいではないという主張を正当化しようとした被告側の意図が透けて見えます。また,北川議員を刺激しないよう,表現をあいまいにしていると見られる箇所も散見されます。
豊中市によって行われた桁外れの改竄
この裁判の被告である市は、準備書面でこう主張しています。
「条例案上程延期はバックラッシュの影響によるものではない。
男女共同参画に対して様々な意見や要望が出されていることから、3月議会に上程した場合審議が長期化して継続審議となり、議員の任期満了により自動廃案になる可能性もあると判断されたことによるものであって、原告の主張するバックラッシュの影響のよるものではない。人権文化部長から市民団体への説明内容も同趣旨の内容のものであって、バックラッシュの力が働いていることによるというような説明を行ったことはない。
(市「準備書面1」)
これに対しては、「『さまざまな意見や要望』には、バックラッシュもふくまれているのではないか?」と突っ込みたいところです。
さて、先日、情報開示請求で入手された甲100号証(2003年3月の評議員会議事録)は、この裁判における被告の実像を象徴するような文書でした。原告が、館長在職時にもらった会議録と比較して、重要な部分が、ことごとく改竄されているのです。ほんとうにすごかったです。目が点になってしまいました。しかし、上記のようにバックラッシュの影響ではないとタンカを切った手前、こうした改竄をするしかなかったのでしょう。
井上評議員の発言の改竄
「フェミニズム・バッシング」→「バッシング」
これでは、単なる一般論に過ぎない。何をバッシングしているかという最も重要な対象を削除しているのですから、何が攻撃されているかさっぱりわかりません。男女共同参画という政策目標が攻撃になっていることが問題だということを隠したいのです。
森屋評議員の発言改竄
「豊中市の条例をターゲットにしていることが広まっていますが」→「豊中市もターゲットのひとつにしているように思われますが」
「条例」という用語を消している。条例が攻撃対象と言うことが分かってしまうと、「市は三井さんのクビを差し出して条例を通そうとした」、という原告側の主張が、ますます現実味を帯びてしまうからです。それから、「も」とすることで、豊中市だけでなく、ほかでもされていることだからと逃れられる。さらに、ターゲットの「ひとつ」という言葉を加え、一般化を念入りにしています。
「条例」が明確でない改竄後の文章を見たら、豊中市の何が攻撃されているのかさっぱりわかりません。
「一番力になるのは、すてっぷで活動している市民であり、」→「一番力になるのが市民であり」
「一番力になるのは、すてっぷで活動している市民」、ということが議事にあったということになると、北川議員たちに攻撃されかねないと怯えたのでしょうか。すてっぷの発展だとか強化だとかをならべていることと矛盾します。すてっぷの「効能」を小さくみせかけようという策謀と考えられます。
林議長発言の改竄
「強い反対の動きがある中で」→削除
男女共同参画に強い反対の動きがある、ということがばれてはいけない。
「多くの市民を味方につけていくような」→「多くの市民の賛同を得る」
「味方につける」ということは、暗黙のうちに敵がいるということを意味します。すなわちバックラッシュがあるということ。敵がいなければそもそも、味方という表現をする必要はありません。それに気付いて、ここを「賛同を得る」という表現に弱めたことには正直驚嘆しました。
山本事務局長発言の改竄
「あるビラでは、専業主婦否定、フリーセックスの奨励など、誤解を招くような書かれ方で、先ほどのお話にもあったように全体をとらえず、一部分だけを誇張されています。」
→「専業主婦否定、フリーセックスの奨励だとする誤解を招くような運動があります。男女共同参画の全体像をとらえていないように、見られます。」
「あるビラ」こそが、重要なのです。それをまず削除してしまっています。その結果、さらにいろいろ変更が加えられ、「フェミニズム運動の中に、誤解を招く運動がある」と誤解してしまいそうな文章に変えられています。男女共同参画の全体像をとらえていないフェミニズム運動があって過激なことをいっていると、とらえられかねない。これはひどい改竄です。「ビラ」という単語、それから、前の「フェミニズム・バッシング」という言葉があれば、誤解は起きないのですが、フェミニズムに責任を転嫁しかねないような全くひどい改竄です。
「生き方を誘導されているような社会制度や慣習」→「生き方を制限されるような社会制度や慣習」
本来は、「生き方を誘導するような社会制度や慣習」もみなおすべきなのですが(現状は、専業主婦に有利なような制度にしておいて、「選択はあなたの自由です」、としているよう なもの)、それが、「制限されているような社会制度や慣習」の是正にとどまれば、きわめて効果は限定的です。バックラッシュ派でさえ、「女性が差別されていることはよくないと思っている、これは直さなきゃならん」と公言しています。憲法上も法制度上も、「選択の自由」はあり、それはバックラッシュ派も否定できません。このような一見細かい部分まで萎縮しているということで、大変興味深い。
三井館長発言の改竄
「バッシングの動きは世界的にも起こっており」→「います。」
ここで、バッシングが世界的ということですが、最初の「フェミニズム」が消えているので、何のバッシングか分かりません。最近マスコミなどでも流行っている、一般論としての行政へのバッシングなのかとも取れます。
「豊中市では、加えて統一選挙を控えている状況でしたので条例の提案を見送らざるを得ない状況になりました」→削除
何をかいわんやです。対三井さんでも、対北川議員でも、条例について触れると困るのです。両方に神経を使って、身動きが取れなくなっている様子が行間からうかがえます。
市民との連携はまだスムーズではありませんが、「条例制定や男女共同参画に関して何度か機会をもっておりました」→「」内削除
市民とすてっぷが条例に関して話合っていることすらしないことにしています。北川議員に配慮して、条例制定に向けて市民と会合を持っていたことを隠さなくてはいけないのでしょう。「偏った一部の市民と連携するのはいったいどうなんだ」、と北川議員に怒鳴られることがあったのですね(彼は,実際,2003年11月に市役所に怒鳴り込んでいる。)。または、条例制定に向け、そこまでしないといけない、深刻な状況であることを隠したかったのか、どちらかでしょう。
川畑主任発言改竄
「リプロ」→「健康」
北川議員への配慮です。
(「心のノート」については)「男女共同参画の視点が不十分だと思われるので、利用していません。」→「すてっぷには置いていません。」
これも、北川議員を刺激したくなかったとみられます。
山本事務局長発言改竄
「心のノート」については、』今日の指摘を受けて、教育委員会とどのように連携して内容を変えていくかを考えて行きたいです。→削除
→北川議員を刺激したくない。教育委員会と連携してまで『心のノート』を変えようとしていたなどというだいそれた発言は、とても今となっては…
泰間評議員発言改竄
「最初のフェミバッシングについて、お答えいただいていないのでお願いします。また」→削除。
フェミバッシングを載せると、最初にフェミバッシングについて質問や意見があって、それに当局が答えてなかったことが発覚してしまいますのでつじつま合わせをしています。
山本事務局長発言改竄
「幅広い対応をしていく必要がありますので、個々の事例への対応を挙げるのではなく、基本姿勢だけを挙げさせていただいています」→削除
泰間評議員の質問がないことになった以上、削除は当然です。
林議長の閉会の挨拶のカット
「バッシングに対しても、行政機関や民間、市民と強く連携して、暮らしている市民に役立つセンターとして機能することで、男女共同参画につなげていくという考えが基本になっています。」
「理屈で男女共同参画を示すのではなく、市民が利用する中で、センターの存在意義を認めてもらえるような実践とアピールを工夫していくことが望まれます」→削除。
バッシングに対してそこまで、対応しないといけないかと言うことをカットしたかった。
また、北川議員らに見られたら、これは困る。なぜなら、北川議員らに「肩透かし」を食らわせろ、といっているようなものだから。
バッシングが以下何回か出ていますが、これももちろん削りたい。
次に同じ日にやった理事会の会議録である甲102号証について意見交換会の内容をことごとくカットしています。ポイントのみあげます。
高橋議長発言
「私のほうから、バックラッシュと男女共同参画条例について簡単にご説明いただきたいと思います。」→これまで見てきた市の対応から、削除しました。
山本事務局長発言
全体にもちろん、危険だと考えたと思われますが、
「この間、励みになったのが市民の活動です」→その後、手のひらを返したように、高橋理事長も、証人尋問でも「一部の市民」と男女共同参画推進派の市民を斬って捨てました。
「正面きって理屈でぶつかっていくのではなく、市民の方と共同し、囲い込む方向で運動を起こしていくほうが効果的だと議論されています。」
→北川議員らに見られれば激怒されるでしょう。「肩透かし」をするのですから。
高橋議長
「豊中市がターゲットになっているのは、先駆的だと思われている証拠です。ネットワークの構築が課題ですが、市民が動かないとなかなか難しく、何も変わらないと思います。」
高橋さんは事態をそれなりに認識しているかのように言っています。ここも削らないと
まずいのです。
鄭理事
「それに対しては丁寧に答えずに、仕事を進める、それしかないようです」
→これも北川議員を刺激しそうです。
こんなところが、私の今のところの考え方です。つまるところ、
1、バックラッシュはなかったことにしたかった。
2、北川議員を刺激したくなかった。
この二つの条件を満たす連立方程式を解こうとして、四苦八苦している様子が、涙ぐましくさえ思えます。今回の裁判の一連の証人尋問では、市側の矛盾が次々と明らかになりましたが、それを象徴しています。一般に、公式記録では、議論の根幹と関係ないことが、削除されることはありうるとは思います。しかし、今回は、評議員や理事、スタッフの発言の根幹が捻じ曲げられているのです。これは大問題であり、発言を歪曲された方々に大変失礼です。
2003年3月時点での豊中市の方針は、相撲に喩えれば、「北川議員を正面から寄り切るのは難しいので、肩透かしにする」ということだった。しかし、結局、夏頃、苦しくて、こらえきれずにあっさり、土俵を割ってしまった、というところでしょう。
市の2003年3月時点での方針自体は間違いではなかったと思います。冷静な市民にとっては、男女共同参画社会を粛々と進める決意で市が事を運べば、市と北川議員らのどちらが愚かかは明らかになってくるからです。しかし、耐え切れなくなった本郷部長、山本事務局長、武井課長らは、土俵中央で持ちこたえることもできずに、保身のために、あっさり土俵を割って三井さんを斬って、楽になる道を選んだのです。
彼ら・彼女らは、自分たちの行政に声援を送って支えてくれる多くの市民を信頼できず、それこそ誤解を招くようなビラを配っているバックラッシュ派の「一部の市民」に屈したのです。かくて、最初のボタンを掛け違えた豊中市は、その後は三井さんを斬るために嘘で塗り固めた道を驀進していったのではないでしょうか?