「まるでおわかりになって」おられないゆえ、何が論点なのか改めて立ち返るが、私は無党派通行人氏の事実に反する主張(「FEMAの調査員らの立ち入りを阻止してまで、さっさと持ち去られ」)に対して、それを指摘したまでである。調査自体については、不十分だとも十分だとも述べていない。
●撤去作業のスピードと要した期間とは全く別?
無党派通行人氏は自分で書いていることがわかっているのだろうか? 撤去スピードが速ければ撤去に要する時間は短くなり、撤去スピードが遅ければ撤去に要する時間は長くなることもわからないのか? 全く別ではない。
仮に“証拠隠滅”があったとしても、撤去の期間と同様にそのスピードも関係ないのである。「隠滅」と言う以上は、検査機関の調査員が検分した上で撤去されたのか、それとも調査員の目に触れないように撤去されたのか、そこを問題にしなければならないのである。
「すでに指摘したように」、FEMAの調査員はちゃんと立ち入りでき、検分しないうちに構造鋼が撤去されることはなかった。議会証言まである。
同じことを繰り返してもわからないだろうから、もっとはっきり言おう。
もし仮に、当局がまともな調査をしないつもりだったのなら、あからさまな「立ち入り禁止」や「妨害」を行うだろうか? そんなバレバレな方法を使って、さらに議会で偽証するという危険までおかすだろうか? それはまずありえない。もっと賢くやるだろう(サボタージュなど)。
したがって、当局を追及するなら、事実は事実として踏まえた上で、“ちゃんと立ち入りできたんだから、もっとサンプルを採取ができたはず、もっと現場調査ができたはずだ”と言うべきだろう。それならわかるが、無党派通行人氏は事実すら曖昧にさせたいようだ。
撤去が急がれたのは経済活動に対する影響を懸念してのものであり、証拠を隠滅するためだったと考えるのは“うがちすぎ”であろう。
※なお、最近の報道によれば、現場に関係した人たちの間で健康被害があいついでいることから、現場への立ち入り許可を出したのが早すぎたのではないか、撤去作業中の管理に問題はなかったのか等が問題視されている。この問題については、撤去を急いだことが大きな要因ではないかと私は考えている。
●回収されたサンプルは少なかった
すべての鉄骨を保存することは事実上不可能である。サンプル回収についてはどれだけあれば十分かという基準もない。それに少なくともNISTについては相当詳細な調査をなしえている。それゆえ、もっと残しておけばさらに詳細なことがわかったかどうかは定かではないが、素人考えとして、もう少しサンプルを残しておくべきであっただろうと私は考えている。この点については、無党派通行人氏との意見の相違はないものと考えるが、そのことと、調査が「妨害された」という主張とはまったく別問題である。
●『ファイア・エンジニアリング』誌
ジョーンズ博士は、『ファイア・エンジニアリング』誌のマニング論説(2002年1月)を2つの目的で使っている。1つは、“公式説では説明がつかない”と専門家が言ってるかのように印象付けるため、もう1つは、“証拠が破壊された”から公式調査は信用できないと見せるためである。
前者については、引用の仕方があまりにもひどかった(文脈を無視して継ぎ接ぎしていた)ため、あちこちから批判を受けて引用文を修正したという経緯から伺えるように、マニング論説は公式説を否定しているのではない。後者については、「証拠の破壊」と言われる鉄骨のスクラップ化は事実であり、FEMAの調査についてはとくに政治的な面で関係者から批判を受けているのも事実であるが、それをもってNISTの調査まで非難される言われはない。ここではマニング論説について、ジョーンズ“論文”の引用によって誤解されることのないように、ソースを示して紹介しておきたい。
マニング論説は、WTCの構造用鋼の廃棄に対する告発とFEMA調査の酷評からなっており、WTCの構造用鋼の廃棄の即時中止と法的調査の開始を要求するとともに消防士に行動を呼びかけている。
まずここで、彼の批判はFEMAの調査に対するもので、NISTの調査とは関係がないということを指摘しておきたい。したがって、マニング氏の援用は、たとえFEMAの調査がずさんだったと言えたとしても、NISTの調査までずさんだったという証拠にはまったくならないのである。
なぜなら、第一に、「共感をよぶ理論」と彼が述べている「火災誘発」説とは、NISTによる公式説の原型となったものにほかならず、第二に、マニングが要求する徹底的な「法的調査」とは、事実上、「国家建築物安全対策法」に基づくNISTの調査にほかならないからだ(実際にマニング氏は、その後の論説でNISTの調査を歓迎する論説を書いている)。
以下は澄空による部分訳(強調も澄空)
調査は売り切れ(裏切られた)
ビル・マニング(『ファイア・エンジニアリング』2002年1月)
(略)
3カ月以上、世界貿易センターの構造用鋼は、切り刻まれてスクラップ用に販売され続けている。(略)
このような証拠の破壊は、当局が、世界史上もっとも大きな火災誘発崩壊の徹底的な科学的調査の重要性について驚くほど何も知らないということを示している。私は火災調査の国家基準であるNFPA921について念入りに調べたが、10階を超えるビルについて証拠の破壊を許す免除条文はどこにもなかった。
(略)
包括的な災害調査は安全性の向上を意味する。それは積極的な変化を意図する。(略)FEMAはそれを知っているのか?
否。『ファイア・エンジニアリング』誌には、FEMAによって祝福され土木学会(ASCE)が行った「公式調査」が、生半可な茶
番劇であると信じるに十分な理由がある。それは、主要な利害関係を有する政治権力によって、完全な開示からは程遠い控え目なものにするためにすでに徴用されてしまったかもしれない。
ASCE調査委員会メンバーによる3日間の現場の視察――近い情報筋から「観光旅行」と書かれた――から得られた取るに足りない恩恵を除き、誰も何の証拠も検証していない。
(略)
現状では、そしてそのような流儀が続くなら、世界貿易センター火災と崩壊についての調査は紙とコンピュータで生み出される仮説ばかりになるだろう。
だが、防火工学共同体のそうそうたるメンバーは赤旗を上げ始め、共感をよぶ理論が現れた。つまり、飛行機による構造的破損とジェット燃料の爆発的発火それ自体は、タワーを潰すのに十分ではない。むしろ、その後の屋内火災が、耐火性の疑わしい軽量のトラスと支持支柱を攻撃しながら、驚くほど短時間の崩壊を直接引き起こしたとその理論は主張する。もっとも、これまでのところ提出された物的証拠が全くないことを鑑みるなら、この理論は検討されないままになりかねない。
ビルの設計や構造と同様に、鉄鋼の耐火性やその他の耐火要素に関して疑問を挙げる報告書が公開・未公開を問わず増えつづけている。世界貿易センターの建築業者と所有者、ニューヨーク-ニュージャージー港湾委員会、地元の火災と建築基準法の範囲を超えた空間に責任がある政府機関は、防火および建築部材が標準以下だったという非難を否定したが、その主張を裏付ける記録文書の提出要求に対しては協力を拒否した。
(略)
明らかに、答えを必要とする盛んに論じられている問題がある。事件の大きさだけに基づいた、完全な力と手段をもった法的調査は必須である。さらに重要なことは、道徳的な見地から、高層ビルで居住し労働する現在と将来の世代の安全のために、――そして、いつも最初に入って最後に出て来る消防士のために――、異常事態時のビルの設計とその動態に関するレッスンは、現実の世界に知らされ適用されなければならないということだ。
9月11日の事件を別扱いにするなら、それは愚行と無知の極まりだろう。
証拠の破壊と撤去はただちに止めなければならない。
連邦政府は、現在の組織を廃し、あらゆる手段を尽くして、火災と崩壊についての清潔かつ徹底的な調査を行うための完全な手段をもったブルーリボン委員会を任命しなければならない。
消防士のみなさん、これはあなたに向けた行動の呼びかけです。 「WTC『調査?』:行動の呼びかけ」ページを訪れてください。それから、あなたの議会代表と政府職員に連絡して、この問題を直ちに是正しようではありませんか。
<ジョーンズ博士の恣意的な引用の例>
ジョーンズ博士の引用ではこうなっている。
「防火工学共同体のそうそうたるメンバーは赤旗を上げ始め、共感をよぶ理論が現れた。つまり、飛行機による構造的破損とジェット燃料の爆発的発火それ自体は、タワーを潰すのに十分ではない。」
引用をここで切ることによって、ジョーンズ氏は、「共感をよぶ理論」=「公式説では説明付かない」説?であるかのように思わせるのだ。だが、論説が書かれた時は調査が開始されたばかりで、そもそもWTCの崩壊メカニズムについての公式説は存在していなかったのである。