これは、10月10日の澄空さんの「ビル火災の温度に関するジョーンズやホフマンのゴマカシ」 に対する返答です。
> 私は「自作自演」説を読んだ上で批判しており、その「自作自演」説の「ソースを示して」も反論にならないと忠告したはずだ。ここでは、ビル火災の温度に関するジョーンズ博士やホフマン氏のゴマカシを指摘しておく。
澄空さんが「読んだ上で批判」とか「忠告した」とか「ゴマカシを指摘」とはね・・・。
> まず、無党派通行人氏は、NISTの再現実験の結果を否定する。
澄空さんは大いに勘違いされていますが、
http://wtc.nist.gov/media/gallery2.htmやNISTNCSTAR1-5.pdf のpp.125-135の部分は、実際のWTC火災の「再現実験」
ではないですね。
(だいたい、WTC火災の再現実験が出来るくらいならコンピューター・シミュレーションなんて要りませんね。)
WTC火災の全体シミュレーションに先立って、計算に必要な定数の値を、小規模な区画("compartment")による実験データから得て、モデルを較正する("calibrate") ためのものです。
gallary2.htmlの説明だけでも「再現実験」でないことは明らかですけどね。
"This experiment was conducted in December 2003 to validate the ability of computer models to predict the heat release rate as a function of time accounting for different kinds of combustibles and ventilation."
> 次に、無党派通行人氏がNISTの実験の替わりにもってきたのが、ジョーンズ“論文”の孫引用(「通常の住居の火災の温度範囲は500~650℃」)である。この“論文”の末尾をみればわかるように、この数値は『防火ハンドブック』(1992年版)という本から引用されていることがわかる。無党派通行人氏にお聞きするが、なぜ上記のようなNISTの実験よりも『防火ハンドブック』の数値がWTCタワーの実態を正確に反映していると考えるのか、その根拠を示していただきたい。
NISTの実験がWTCの火災自体の再現実験ではないことは上記の通り。
ハンドブックに載っているような数値は、過去の事例から集大成されたデータに基づいていると考えられるので、WTCの場合も含めて個々の火災について何らかの特別な事情判明しない限り、大体は当てはまるだろうと考えるのは当然です。
> 火災の温度は、鉄やアルミニウムの融点のように決まったものではない。
...
『防火ハンドブック』(1992年)には、いったいどんな条件で「通常の住居の火災の温度範囲は500~650℃」と書いてあるのか、ぜひ教えてくれたまえ。
さしあたり上記のように、過去の多数の「通常の住居の火災」の事例から求められたのだろうという以外に言いようがないですね。
私がこの件に関して自分で論文でも書くなら当然調べますが。
> 第三に、無党派通行人氏はさらに、なんと!私が「揚げ足取りにすぎない」と忠告しておいたホフマン氏の主張(「800℃を越える温度はビル火災ではフラッシュオーバーで知られる短時間の現象でしか通常は見られず、1000℃という温度はフラッシュオーバーにおいても稀」)まで引用してみせる。だが、残念ながらWTCタワーの火災は、ビル火災としては厳しい部類に入り、この場合、最高温度が1000℃になるというのは決して「まれ」ではない。
ここもあからさまなスリかえですね。
最高温度が1000℃になる火災が珍しくないということと、それぞれの火災において1000℃が稀にしか出現しないというのは、全く矛盾しません。
「最高」というからには、決して平均でも典型的でも広域的でも長時間でもなく短時間かつ局所的と考えるのが普通です。
まあ「まれ」という言葉には具体的な定量的意味がなく、ニュアンスだけで議論しても無意味ですが。
ところで、「WTCタワーの火災がビル火災としては厳しい部類に入」るというソースは何でしょうか。
過去のビル火災で、火災の面積・継続時間でもっと過酷な例がいくつもあります。
> 再び無党派通行人氏にも読める日本語のサイトから、日米それぞれの有名なビル火災の例を挙げておこう。
...
特定の事例での「最高」温度だけを示しても、過去の事例からの統計に基づいていると考えられるハンドブックの値やホフマンの記述への反証にはなりませんよ。
> 以上のような指摘は、前の投稿で紹介したページでも、『ストラクチュラル・ファイア・エンジニア』誌のコリン・べイリー教授(マンチェスター大学)の記事 を引用して、通常のビル火災で1000℃になることを示している。ここで使われている図をみれば「500~650℃」という数字の方が「まれ」であることがはっきりするだろう。
緑色のラインが標準的な屋内火災の温度カーブであり、これによると火災開始から20分で800℃に達し、90分で1000℃に達する。火の回りが遅い場合(水色)でも、40分で800℃近くになり、110分で1000℃に達する。
アホらしいですね。
これを引用しているdebunking911は内容を理解していないか、故意に騙そうとしています。
このFigure 1
が置かれているページ
に説明や式があるように、公称 ("nominal") または標準 ("standard") 火災曲線というのは、決して現実の「標準的」な火災を代表したものではなく、従来は建築材料の耐火試験用に開発されたとあるように、何らかの管理された条件での目安となるようなモデル曲線ですね。
冒頭から、「通気や境界条件に依存しない」とか、「現実の自然な火災を表さない」などと書いてあります。
そもそもWTCタワーの場合は、ジェット燃料が数分~10分以内に大半が燃え尽き、各区画の可燃物も引火してから15~20分であらかた燃えてしまったとされているのに、Figure 1のように120分後まで温度が上がり続けたり下がらないような温度-時間曲線が当てはまるわけがありません。
> 仮に通常のビル火災では「500~650℃」が普通で、鉄の強度にもたいした影響がないのであれば、いったいどうしてビル建設等で鉄部材に耐火被覆を施すことが義務付けられているのか? それが本当にそうだとしたら、WTCビルの耐火性能に問題があったとして追及している関係者は無駄な努力をしていることになろう。
何だか的外れも甚だしいですが、普通や通常の場合だけを想定していたら危なっかしくてしょうがないですね。
安全対策が、通常の範囲を越えた普通でない火災や予想外の事態をも、コストパフォーマンスとの兼ね合いで想定するのは当たり前です。
自然災害でも100年かそれ以上であるかないかという大地震・台風・洪水などに備えて対策を講じるという場合があります。
> ジョーンズ“論文”(「本当はなぜWTCビルが崩壊したのか?」)のいい加減さは、もちろんこれだけではない。彼は、ホフマン氏と同様にNIST の崩壊説をまったく理解しておらず、的外れな批判、専門家の論文の論旨を無視したいい加減な引用でもって批判したつもりになっている。また機会があれば、それらについても投稿するつもりだ。
とてつもなく大胆不敵な決めつけですが、澄空さんにそのような判断が可能とはとても思えません。
有意義な批判なら歓迎しますが、澄空さんが先に挙げられたトンデモサイトをネタにするのはご勘弁願いたいです。
> なお最後になったが、「黒煙」はNISTのFAQに書かれているように、通常のビル火災では必ずといっていいほど発生するもので、「500~650℃」の根拠にはならない。ジョーンズ博士が引用する「Eagar and Musso (2001)」の論文は、WTC火災が大量のジェット燃料による「燃料豊富な拡散炎」であることを前提として「500~650℃」の数値をあげているが、ジェット燃料は飛行機衝突後すぐに燃えてしまっているため、その後の火災には、その前提は当てはまらないのである。
ジェット燃料が燃え尽きても酸素不足には変わりがなく、後は通常のビル火災と同じです。
「500~650℃」という温度範囲を引用したトーマス・イーガーらは、ビルと住宅で異なる条件があっても、結果的に現れる火災の温度としては同様な範囲が適用できると判断したのでしょう。
ウェブでいくつか調べてみると、可燃物量("combustible fuel load")の値としては、住宅の方がビルのオフィスよりも大きく見積もられているようです。
ただし、フラッシュオーバーが起こるかどうかが火災の帰趨を決定づける分岐点になり、ある室内実験ではいったんフラッシュオーバーが起こると天井付近の温度は1000℃あたりまで急上昇しています。
(建築研究所 防火研究グループ 「可燃物の実況配置に基づく火災室温度上昇予測」)
イーガーらが引用した数字がどのような状況と温度測定位置を想定しているのか調べていませんが、直感的には、狭い住宅の部屋よりも広いオフィスの方がフラッシュオーバーは起こりにくいだろうと憶測されます。