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一般投稿欄

ジョーンズ“論文”(本当はなぜWTCビルが崩壊したのか?)を読んで

2006/10/15 澄空

●“more severe”なケース

 無党派通行人氏は、NISTの全体シミュレーションの“more severe”なケースでも崩壊しないと言うが、彼が依拠するジョーンズ“論文”ではそのような断言はせずに「説得力がない」と書いているだけである。では、何を根拠に「説得力がない」と言っているのか?

>調査班は、それぞれのビルに対して、影響を与える変数として中間〈middle〉、軽度〈less severe〉、および重度〈more severe〉の値を組み合わせて3つのケースを定義した。中間ケースの予備実験で、タワーが立ったままでありそうなことは明らかになった。軽度ケースは、その飛行機衝突の結果を観察事象と比較したあとで棄却された。中間ケース (WTC 1はケースA、WTC 2はケースC) は、その主要な部分システム構造の反応の解析を観察事象と比較したのちに棄却された。(NIST, 2005, p.142; 強調を追加)
(※澄空注:強調は省略)

 このNISTの報告書は興味深い読み物である。経験データに基づく軽度ケースは、ビルが崩壊に至らなかったという理由で破棄された。だが‘仮説を救わなければならない’ので、NIST報告書にあるように重度ケースが試されシミュレーションが微調整された。

>重度ケース(WTC 1はケースB、WTC 2はケースD)が各タワーの全体解析に用いられた。完全なシミュレーションは、ケースBとDで行われた。シミュレーションが写真証拠あるいは目撃報告から逸脱するまで、だだし物理的現実の範囲内において、調査員は入力値を調整した。こうして、例えば、<観察された窓の破壊が、火災シミュレーションに入力され、>たわむ床が外壁支柱を引張る力が<部分システム(※1)の計算結果から導き出される変数の範囲内で>調整された。(NIST, 2005, p.142; 強調を追加)
>各タワーの崩壊において、床の主な役割は、外壁支柱の内側への曲がりを引き起こすことである。(NIST, 2005, p.180; 強調を追加)
(※澄空注:強調は省略、<>内は、ジョーンズ“論文”で省略されている部分)

 そんな風に、ビルが崩壊するまで、つまり望みの結果を得るまで、モデルを微調整することは(多分)何と楽しいことだろう。だが、そんな調整をされた計算仮説の最終結果など説得力はない。外壁支柱を十分に曲げるために“たわむ床が外壁支柱を引っ張る力が調節された”(NIST, 2005, p.142; 強調を追加) というところに注目されたい。かなり手で“調節された”のではないかと疑われる。英国の専門家が、“中心支柱が床を通して外壁支柱を引張ることはできない”(Lane and Lamont, 2005; 強調を追加)(※これについては後述)と批判したにも関わらずである。

 報告書では、中間ケース・軽度ケースともに「観察事象」と比較して破棄されたと書かれているが、ジョーンズ博士は、この「観察事象」を崩壊現象のことだと勝手に解釈しているようだ。だが、シミュレーションが飛行機衝突後から崩壊に至る直前までだということは、“崩壊開始後のシミュレーションがないではないか”と文句を言っているジョーンズ博士にとっては百も承知のはずではなかったか? 「観察事象」とは、たとえば“飛行機の残骸が反対側の壁まで達した”とか“火災によって窓が壊れた”というような観察事象を指すのではないか? 引用の続きにもそうした例が書かれているのだが、ジョーンズ博士は続く文章を引用する際にその部分を省略してしまっている。

 おまけに、軽度ケースのことを勝手に「経験データに基づく」と形容し、他のケースは経験データに基づいていないという印象を与えようとしている。もちろん、これも誤りである。NISTは、この引用文の前で、全体シミュレーションに入力するデータが不完全で正確さも保証できないゆえに、シミュレーション結果にもっとも影響を与える変数について、合理的範囲で中央値・高い値・低い値を決めたとしている。なお合理的範囲とは、全体シミュレーションの前に行われた「部分システムの計算結果から導かれる変数の範囲内」のことである。ところがこれについても、ジョーンズ博士はその部分を省略してみせる。

 こんなふうにして、省略する必要もない部分をあえて2箇所省略したうえで、NISTのシミュレーションについて「望みの結果を得るまで、モデルを微調整」「かなり手で“調節された”のではないかと疑われる」など推測してみせるのは、「何と楽しいことだろう。」これが現役の物理学教授のやることだろうか?

●NIST崩壊説における床の役割

 NIST崩壊説における床の役割は、上記引用中にあるように、「外壁支柱の内側への曲がりを引き起こすこと」である。このことから言えることは、少なくとも、外壁支柱が曲がるより前に床が焼け落ちることはないということである。
 そして、そのことはNISTの床の耐火試験で実際に裏付けられている。ところが、NISTの仮説を支持する試験結果(それを元に仮説を立てたのだから、支持するのは当然なのだが)について、ジョーンズ博士はそれが“反証”であるかのように述べている。

UL社で火炎に曝されたWTCのトラス模型が破損しないことは、NISTの最終報告も認めている:

>NISTは、アンダーライターズ・ラボラトリー社と契約し、WTCタワーに使われていたものと同様のトラスの耐久性に関する情報を得るための試験を行った ... 4つの試験体はすべて、最大の設計負荷に、約2時間崩壊することなく耐えた... 調査班は、これらの結果を、崩壊説を構成する上で直接用いることには慎重であった。(※2)試験結果によって持ち上がったスケーリングの問題に加えて、9月11日の両タワーでの火災と、その結果として床システムが曝されたことは、実質的に 試験用燃焼加熱炉内の条件とは異なる。それでもなお、その結果は、この種の組立品は、9月11日のどの場所の火災持続時間と比べても相当な時間、大きな重量荷重に崩壊することなく持ち堪えることを立証した。(NIST, 2005, p.141; 強調を追加)

 そうすると、実際の模型が崩壊せず、火災が原因で高層ビルが崩壊した例が存在しないのに、NISTチームはどうやってWTCの崩壊を正当化するのか? それは簡単で、ケースBとCと呼ばれる(NIST, 2005, pp.124-138)非常に“severe” なケースに関する仮定を計算機上で作り上げたのだ。当然、我々には詳細がかなり隠されている。しかも彼らは、完全で速やかで対称的という崩壊の性質を検討することを怠っている。
(※澄空注:強調は省略)

 上述の部分と合わせると、ジョーンズ博士は、床模型の耐火試験(どんなケースでも火災継続時間内には焼け落ちなかった)をNISTの崩壊説に合致しないと考え、NISTが全体シミュレーション(重度ケースで外壁支柱が破損した)の入力数値を調整することでそれをカバーしたと考えたようだ。(※2)
 5年もかけて調査をやってそんなお粗末な報告書を公表したのだとジョーンズ博士が本当に考えているとしたら驚くほかないが、ジョーンズ博士を妄信する人たちが、これを読めば「NISTの調査はずさん」と思うのも無理はない。だが、ジョーンズ“論文”がここで示していることは、ジョーンズ博士が、WTCの崩壊についての専門家たちの論争も、NISTが示した結論も理解できなかったという事実である。
 ついでなので火災シミュレーションBとCについてコメントしておくと、これは無党派通行人氏が引用していたとおり、大部分の外壁支柱やトラスは400℃にもなっておらず、火災のあった崩壊開始部分の付近が700℃程度になっている。つまり、NISTは、火災で外壁支柱が700℃で破損したというシミュレーション結果を出しているのである。このように実際に数値が示され、シミュレーションソフトなども公表されているのだから、シミュレーションが疑問だと言う場合は、NISTと同じことをやってどうおかしいのかを言うべきであろう。それが通常の科学論文における反駁のやり方だ。

●床が外壁支柱を引っ張ることはできないか?

 このテーマについては、NISTのシミュレーションの当否ということになる。

 賢明な読者はお気づきのことと思うが、ジョーンズ“論文”はNISTの最終報告書(2006)が発表されているにもかかわらず、あえて1年前のものを利用している。それは、NISTのプレゼンテーション(2005年4月)に対する上記Lane and Lamont(2005)の論文(以下「論文」)を利用したかったのかもしれない。

 この「論文」は、NISTの崩壊説と同様の理論(火災における全体構造の動態が崩壊につながった)を提案しつつも、床システムの熱膨張が全体システムの挙動に大きく影響したという観点からNISTのプレゼンを批評している。批評部分は、端的に言うと、初期の火災から影響を受けて縮まった中心支柱が床を通じて外壁支柱を引張ったとするNISTの想定は、床システムの熱膨張で打ち消されるというものである。外壁が引張られること自体を「論文」が否定しているのではないことを付け加えておこう。
 だが、最終報告書を読む限り、この批評は当たっていないように思われる。
 第一に、NISTは、確かに飛行機の衝突と初期の火災で中心支柱が傷められた結果、上層部分の中心支柱が下に動いたとしている。しかし、その影響については、「論文」の理解とは異なり、ハットトラス(ビルの最上部の骨組)を通じて、外壁に負荷が分散したとしている。
 第二に、最終報告書では、最初に崩壊を開始した位置に向かって火災が移動したこと(※3)やそれに伴う床の膨張・収縮についても考慮されている。たとえば、中心付近で発生していた初期の火災では床の熱膨張は、外壁支柱ではなくむしろ中心支柱に影響を与えたとしている。
 第三に、最終報告書では、火災が崩壊を開始した部分へ移動し、そこで床と外壁支柱を傷めたことで損傷が起きたとしており、それによって生じた現象を“たわんだ床が外壁支柱を引張った”と表現している。
 以上から、「論文」は初期の火災によって、床が外壁支柱を引張ることができないと指摘しているのに対し、最終報告書はその後の火災によって、床が外壁支柱を引っ張ったとしていることがわかる。つまり対象としているものが違うのである。

●ジョーンズ博士が対置する“制御解体”説とは

 ジョーンズ博士を筆頭に、「自作自演」説を唱える人たちは、公式調査をけなすことに汲々としており、それによって“制御解体”説が証明されるとでも思っているかのようだ。もちろん、NISTの報告書は完璧ではないし、調査の不備があれば追及されるべきだろう。だが、批判するだけでなく、別の仮説を唱える以上は、その仮説の完成度を高める必要もあるのではないか? ジョーンズ博士の“制御解体”説とは、いったいどうなっているのか? 次に見るように、何の根拠もない「推測」ばかりで成り立っている。

 小チームの工作員によって事前に設置される場合、RDXまたはHMXまたはスーパーテルミット〈superthermite〉のような爆薬は、これらの高い ビルが周囲の建物にほとんど損傷を与えることなく完全に崩 壊するように急所の支柱を切断するのに十分であろう。ここで無線で開始する炸薬〈the charges〉の起爆が関わり、おそらくスーパーテルミット・マッチ〈superthermite matches〉が用いられただろう。(http://www.journalof911studies.com/JonesAnswers
QuestionsWorldTradeCenter.pdf
を見よ。) コンピュータ制御の無線信号を用いれば、(航空機がともかく崩壊を開始したように見せるために) 航空機がタワーに突入した地点の付近で、爆破解体〈the explosive demolition〉を開始することはたやすいことだろう。この筋書きでは、航空機が突入する位置が前もって正確には分からないので、リニア・カッターチャージ〈linear cutter-charges〉がビル内の多数の地点、大部分は重要な中心支柱、に設置されたであろう。」(※4)

 これらの推測のうち、事実や証拠に基づくものは、1つでもあるんだろうか? 科学論文・学術論文とは異質なものに見える。

(※1)「部分システム」とは、(中心支柱と床システムの梁を含む)メインフレーム、複合床システム、外壁など全体構造を構成する部分構造のことで、NISTは全体のシミュレーションを行う前に、各部分システムでシミュレーションを行っている。
(※2)一般に専門家が信じる“火災誘発”説は、メカニズムをめぐって、WTCの構造を問題にする説(NISTの報告書はこれに含まれる)と、構造の耐火性能を問題にする説がある。当初は後者が優勢で、床システムが進行的に破たんしたとする“パンケーキ”説が注目されていた。床システムが火災で破たんするかしないかは、どちらの説が妥当なのかを決定づける要素であり、専門家の間ではもっとも注目されていた試験であった(床の耐火試験は公開された)。それゆえに、NISTは実験結果を慎重に扱ったのである。
(※3)火災が移動したという事実は、火災の最高温度1000℃の場所も移動したということであり(したがって任意の場所では1000℃になったのは短時間である)、またその火災が“燃料豊富な拡散炎”ではなかったことを示している(燃料豊富であれば一定の場所で燃え続けたはずである)。
(※4)この訳文のみ、「デブ・スペクテータ暫定訳 ver. 0.262, 2006年10月11日」訳による)