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豊中市の行為は人格権侵害 館長雇止め・バックラッシュ裁判控訴審・第二回公判

2008/6/13 さとうしゅういち 30代 サラリードパーソン(連合組合員、社会市民連合、民主党員)

 館長雇止め・バックラッシュ裁判の第二回公判が6月5日(火 )、大阪高裁74号法廷で行われました。この裁判は、豊中市 男女共同参画推進センターすてっぷの非常勤全国公募館長だっ た三井マリ子さんが、市議(当時)の北川悟司さんを中心とす る男女平等に反対するいわゆる「バックラッシュ」勢力の圧力 に屈した豊中市により、「組織体制の強化」を名目に2003 年度末で雇止めにされ、新たに設置された常勤館長への採用も 茶番の面接により拒否された、として豊中市と、(財)豊中市 男女共同参画推進財団を相手取って訴えているものです。一審 の大阪地裁は2007年9月12日に、原告の訴えを棄却しま した。

 今回の公判で、控訴人・三井さん側は、新たに「人格権の侵 害」を争点として設定しました。

 さらに、非常勤職員問題研究で有名な龍谷大学の脇田滋教授に よる意見書を寺沢勝子弁護士が要旨を読み上げ、口頭弁論しま した。また、一審判決の事実認定の誤りも指摘しました。

 「人格権」は、従来は訴訟を起こしても労働者に勝ち目がほと んどなかった非常勤公務員の雇止め問題でも、昭和町事件(2 006年)のように、損害賠償を認める可能性を大きく開いて います。

 また、今年4月、松下偽装請負事件で労働者が大阪高裁で逆 転勝訴しましたが、その原動力となったのは脇田さんの論理と ほぼ同じものです。

 そのほか、原告側は準備書面により、一審判決の誤りをいくつ か指摘しました。

 重要な点としては、山本事務局長の派遣期間が終了し、後任の 人選に難渋しているから組織体制の変更が必要だったと一審が 認定してしまっている点についてです。

 これについては、派遣延長は可能で実際に豊中市では2割の人 が延長している、と反論しています。

 さらに、事務局長に就任可能な職責にある人も豊中市役所には 女性だけで十人前後いるし、さらに、現館長兼事務局長が男性 の中村彰さんですから、何も女性である必要はなく、そうなる と数十人は適格者はいる、と反論しています。

 山本さんの後継事務局長がいないから、組織体制の見直しが 必要、などというのは苦し紛れであることが明らかになってい ます。

 次回法廷は9月18日(木)11時から同法廷で行われるこ とが決まりました。

■行政相手でも「勝ち目」拓く「人格権」

 今回、原告が新たに争点に設定した人格権とは、「労働する ことは、単に賃金を得るためだけでなく、人格と切り離せない ものである」という考えに基づく権利です。労働と結びついた 、仕事への誇りなど、さまざまな人間的な尊厳のことです。使 用者は、強力な人事権を持っています。だからこそ、人格権を 侵害しないようにしないといけないのです。人格権の考えに基 づけば、プライバシーの侵害なども使用者はしてはいけないの はもちろん、労働者の誇りを傷つけたり、処遇や評価に公正さ を欠いたりすることも、人格権の侵害となり、違法です。

 エールフランス事件では、職務の変更が、また滋賀相互銀行 事件では降職が、それぞれ、人格権の侵害と認められています 。

 さらに、三井さんと似た例(三井さんの場合は勤務先は民間団 体ですが)で、被告が、地方公共団体の場合も人格権侵害によ る損害賠償を認めています。2006年5月25日の東京高裁 の昭和町事件で、雇い止めされたプールの嘱託員の損害賠償請 求を、町長が人格権の侵害を行ったとして認めています。この 事件では、契約更新の権利や、それを要求する権利ないし、そ れを期待する法的な利益がなくても、「合理的な理由がないの に雇い止めという差別的な取り扱い」をしたことそのものが、 人格権の侵害であり、違法になるという画期的な判断でした。

 これまでは、非常勤公務員が雇い止めにあった場合、ほとんど のケースで裁判に訴えても損害賠償も取れない敗訴のケースが 多かったのですが、この昭和町事件で「人格権の侵害」が適用 されたことで、勝訴の可能性が広がったのです。

 控訴人の三井さん側は、以下の理由から、豊中市の行為はこ のような「人格権の侵害」である、と断じています。

 まず、三井さんは、館長であり、事務局の代表でした。構成 員の指揮監督の権限を持っていました。組織体制を変更するな ら、当然、代表の三井さんに協議しなければなりませんが、そ れをせずに、頭越しに隠れて事を進めたのは、人格権の侵害で す。

 本郷人権文化部長(当時)や市幹部職員出身の山本事務局長 (当時、組織上は三井さんの部下に当たる)らは、三井さんに 対して、(常勤館長は)「第一義的には三井さん」(山本事務 局長)などとうそをついてだましてきました。さらに、三井さ んに隠れて、常勤館長候補者のリストを作り、選考を進めてい ました。こうしたことは、三井さんの損害賠償請求を棄却した 一審判決でさえ、「情報を秘匿したのは明らか」と断じていま す。
 さらに、市が三井さん本人に対して、館長続投の意思確認を していないのは、「公正に評価する義務」を怠っています。さ らに、実際に常勤館長に就任した桂容子さんらに対しても、「 三井さんは辞めるつもり」などという嘘の情報を流しています 。このように第三者に対して嘘の情報を流すことも人格権の侵 害です。

 さらに、事前に、協議や話し合い、あるいは、仕事の進め方に ついての指導もなしに、「組織変更」と称して雇止めを強行し たこと、また、桂容子さんをスカウトし、桂さんに(館長は) 「あなたしかいない」と言った本郷部長が、選考委員の一人を 務めた形式的な常勤館長の採用面接も人格権の侵害です。

■「非常勤への大援軍」脇田意見書

 脇田さんの意見書は、解雇の必要性の立証責任は、使用者であ る市・財団にある、とし一審判決の「あべこべさ」を浮き彫り にしています。
 松下における偽装請負事件で労働者側が大阪高裁で今年4月、 逆転勝訴したのは記憶に新しいところですが、そのときの原告 の論理構成も、以下の脇田さんの論理に類似したものです。こ こ1,2年ほどは、労働者への配慮が必要という政治の流れも 強まっており、それが裁判所にも最近、反映されているのでは ないか、と思われます。

概要は以下のようなものです。

■期間を定めることができるのは合理的な理由のある場合のみ

 まず、一審判決について、「当事者の間に合意が存在しない限 り、期間満了により雇用契約関係は終了する」として「契約更 新合意の存在」を証明する責任を労働者に課しており、合理的 な理由がなければ解雇ないし雇い止めができないとする、解雇 権濫用法理や、有期契約終了法理に反するものです。これらの 法理は、旧労働基準法第18条の2(2003年)、現労働契 約法第16条として立法化されています。

 期間を定めることが認められるのは、ILOの勧告や、EU諸国 の考えなども考慮すれば、1)一時的・臨時的な業務の場合、 2)恒常的な業務だが、臨時的・季節的に増大する場合、3) 試用期間、4)若者の特別な雇用創出政策に限られるとすべき であり、それを証明するのは使用者の義務です。

 三井さんのケースのように、恒常的な業務であるのに、労働 者との契約に期間を設定した使用者=市は、その期間設定に合 理的な理由がない限り、期間の定めがない契約を結んだとすべ きです。一審判決は、解雇を制限する法理や法令の強行規定( 契約内容がそれに反していれば、その契約内容が無効になり法 令が優先される)などを考慮せず、契約更新の合意の存在の立 証を労働者側に義務付けており、判例や法令の解釈を根本的に 誤っています。

■裁判所は実質的な判断を!

 使用者である市が取っていた「組織変更」などの多様かつ巧妙 な責任逃れの手に惑わされて、形式的に「解雇は仕方がない」 などと判断してはいけません。裁判所は、「実質的」に、市の 取っている手が責任逃れでないことを市に証明させないといけ ません。

 市=使用者都合による解雇ですから、1)常勤館長化の業務上 の必要性、2)解雇を回避する努力、3)労働者(三井さん) への説明がなされたかを判断しなければなりません。そして、 市は、3)三井さんへの説明をほとんどしていません。このこ と自体、市に三井さんを排除するための不法な意図があったこ とが推測できますが、そうでないことを証明するのは市の義務 なのであり、その点を実質的に判断すべきです。

 また、神戸弘陵学園事件から類推するに、三井さんのケース での契約期間を定めた意味は、いわゆる試用期間に類似したも のであり、三井さんが事業の発展に大きく貢献した以上、雇用 を継続しない場合には、合理的で厳格な理由と、三井さんの納 得を十分に得ることが必要でした。

■重い被告財団の義務

 また、パートタイム労働者については、正規労働者の募集や 配置をするにあたっては、優先して採用することが、ILO条約 などでは求められています。パートタイム労働者を通常の労働 者に転換する義務までは、新パートタイム労働法(2008年 4月1日施行、ただし同様のパートタイム労働指針はすでに当 時、存在した。)の行政解釈は求めているわけではありません が、正規労働者への転換の機会の付与は求めています。それは 「一定の客観的なルールに沿って構成に運用される制度でなけ ればならい」としています。

 さらに、そもそも、財団は、男女共同参画を推進する財団であ り、多くの女性が非正規雇用で就労している状況の改善を社会 的に啓発する立場にありますから、パートタイム労働法やパー トタイム労働指針について、後ろ向きの解釈は許されません。

 したがって、財団は、三井さんに対して、常勤館長の募集や配 置についての周知や機会の付与を公正に行うべきでしたが、こ の事件では、それがされていません。そして、一審判決では、 こうした被告財団の義務がまったく無視されています。

■感想:非正規労働者への強力な「援軍」登場

民間でも公務でも、非正規労働者の問題がクローズアップされ る中で、非正規労働者にとって、大きな援軍が本裁判で登場し ました。

 裁判とは、残念ながら現実には誰にでもできるものではあり ません。とくに行政という大きな権力による被害者はぼろぼろ にされた状態になりますから、そこから訴えるのは大変なこと です。

その上、第一審判決のように、原告に違法であることの立証責 任を負わせるような判断をされたらたまったものではありませ ん。「脇田意見書」は、抜本的に、被告側に、雇止めが違法で ないことを証明させよ、と迫っています。

 ですから、私たちは、本裁判が、より多くの非正規労働者の 待遇改善・そして貧困撲滅につながるような結果になってほし いと心から願っています。