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「マルクスの革命理論は賞味期限が切れたのか」(1)

2008/10/25 レギオン 60代以上 無職

 しばらくぶりの投稿です。今日の金融危機に際して、以下のような考察をしてみました。

「僕達が1850年11月に雑誌で予言したアメリカの恐慌が、ニューヨークで勃発したようだ。これは見ものだ」
「僕自身財政的にひどく困っているわけだが、それでも今度の勃発ほど気持ちのよい思いをしたことは、1849年以来初めてだ」
「僕は気が狂ったように一晩中仕事をしている。経済学に関する仕事を首尾一貫させて、大洪水が来る前に『要綱』にまとめてしまいたいからだ」
「僕はものすごく勉強している、たいてい、朝の四時までやる。勉強することが倍あるからだ、すなわち1、経済学の要綱を仕上げ。…2、現在の恐慌」
「それはそうと、仕事は具合よくはかどっている。たとえば、これまで行われてきたような利潤学説を僕はすっかりひっくり返してやった。問題を論じる方法の点では、ほんの偶然のことから、ヘーゲルの『倫理学』をもう一度ぱらぱらめくってみたが、大いに役立った」
「もしいつかまたそんな仕事をする暇でもできたら、ヘーゲルが発見したが、同時に神秘化してしまったその方法における合理的なものを、…普通の人間の頭にわかるようにしてやりたいものだが」

 これらは、『マルクスを超えるマルクス』(アントニオ・ネグリ)からの孫引きになるが、世界で初めてと言われる1857年の恐慌期間中にマルクスがエンゲルスへ宛てた『書簡』の抜粋である。これらを読むだけで、マルクスが世界的恐慌を前にして、興奮状態の中で、『経済学批判要綱』の完成を急いでいたことが分かる。この間の事情に関して、ネグリは次のように述べている。

 切迫する恐慌が資本にとって脅威となるのは、その恐慌が「政党の可能性=政党を結成する可能性」をもたらす場合だけである。切迫する恐慌を描写することは、同時に、真正社会主義といった御託宣やコミュニズムに関するあらゆるごまかしや歪曲に難問をつきつける。「気が狂ったように仕事する」とは、実践の中断を即座に拒否することである。その実践とは何かが自明でない場合-『書簡』は実践の産みの苦しみをつぶさに語っている-、分析がその内容を、実践が生起しつつあるまさにそのときに、明らかにする。なぜなら、分析が焦点をあてるのは、恐慌に内包されている革命的主体だからである。マルクスの研究の総括的性格は、予測とノアの大洪水(恐慌)の関連のうちに見出されるべきものである。資本に破局をもたらすのは、政党、すなわちコミュニズム的主体の展開と、それに加えて、革命への意志とそのための組織である。恐慌は主体に活力を与え、生産諸力の発展が決定するレベルに応じて、主体は革命的潜在力を全面開花させる。したがって、総括とは、恐慌の周期性と破壊性、発展法則、主体のダイナミックス、これら三項を関係づけることを意味する。これら三項の連関を弁証法が統べているとすれば、『要綱』誕生に、ヘーゲルが一役買うのも偶然ではない。
   マルクスがここで言及している「方法における合理的なもの」とは、革命蜂起の理論的実践である。切迫する恐慌がこの合理性を必要としている。ずっと以前に、マルクスはヘーゲルとの関係に決着をつけていた。ここでは、批判的・科学的にヘーゲルへ回帰することが、マルクスにとってもっぱら重要なのである。つまり、ヘーゲルからは、彼がもたらしたなにものにも還元不能なもの、理論と実践の総括という精神が受け継がれているのである。

 この『要綱』が日の目をみるのは、あの1929年の大恐慌の後、1939年以降のことである。だから、今日の事態は、メルクスの革命論が正しいのかどうかの初めての試金石を提供しているのである。さて、この時期に、我国のマルクスを超えるマルクス(不破哲三)氏はどうしているのであろうか。「気が狂ったように仕事」をしているのであろうか。「しんぶん赤旗」のネット版から、その動静を検索してみたら、9月23日から29日まで、ベトナムに出かけて、ベトナム共産党と理論交流をしていることが分かった。9月15日づけでは

現在、ベトナム共産党は、二〇一一年の党大会の準備に関連して、広範な主題にわたる理論研究にとりかかっている最中です。今度、ベトナムでおこなわれる第二回の理論会談は、そういう時期におこなわれるもので、科学的社会主義(マルクス主義)の理論そのものの問題、現代の世界の特徴と新しい動向の問題、社会主義の政治・経済の諸問題、現代の資本主義の評価と分析の問題などで、前回の会談の成果を踏まえてのより立ち入った理論交流・意見交換が予定されています。

とあった。会談の成果として、9月27日づけで、次のように報じられている。

会談では、ベトナム共産党側からドー・ホアイ・ナム社会科学研究所長、ホアン・チー・バオ理論評議会高級専門家、グエン・ビエット・トン同評議会事務局長が、(1)ベトナムにおける社会主義への道(2)社会主義理論をめぐるいくつかの問題(3)解明を求められている理論問題―について見解をのべました。
 そのあと、不破氏が「発言をきいて触発された問題、補足する必要がある問題についてのべたい」として、市場経済をめぐる理論問題、日本共産党が綱領改定の際にとった世界情勢の見方などについて発言しました。
 不破氏は最後に「(二日間の)四人の同志の発言は多くの問題にわたっており、さらに研究したい」と表明しました。
 ルア氏が「難しい問題が多くあり、さらに深めたい問題もあったが、率直かつ積極的な姿勢で実りの多い交流となった。多くの問題解明に有益な意見交換ができた」としめくくり、双方で理論交流を続けていくことを確認。不破氏は「今度は日本でお会いしましょう」とのべました。

 御覧のように、不破氏もベトナム共産党側も、資本主義の危機とも一般には認識されているこの時期に、ネグリの言う「真正社会主義といった御託宣やコミュニズムに関するあらゆるごまかしや歪曲」に終始しているように私には見える。不破氏は資本主義の賞味期限が切れたなどと大見得を切った発言を繰り返している。それは彼の独創的見解ではなく、勿論、マルクスに由来するものである。そのマルクスは恐慌こそが資本主義の脅威であると認識していたのである。だから、もし、マルクスを信奉するコミュニストであれば、今まさに、この時期において、何等かのメッセージを発して然るべきであると思うのである。それが何故できないのか、その理由を次回に考察しよう。