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一般投稿欄

友寄英隆「新自由主義、ケインズ、マルクス」への批判的検討

2009/1/5 日本に福祉国家を 50代

 新聞 赤旗の09年1月4日号の経済時評において、友寄英隆氏が「21世紀 の資本主義 新自由主義、ケインズ、マルクス」を寄稿している。
 この中で、友寄氏はケインズへの記述に関して、事実と大いに異なる誤りがあ ることに関して指摘するものである。
 友寄氏は「ケインズの貨幣理論や有効需要理論は、軍需生産や大型公共事業の 拡大など財政のスペンデング(浪費)政策、インフレ政策で犠牲を勤労者にしわ 寄せすることを許容していました。労働者・国民の暮らしを守るというものでは ありませんでした。」と述べている。
 ケインズの有効需要の理論の根幹は、大型公共事業などを通じ、有効需要の創 出により、完全雇用状況を実現するという目標が立てられたものである。資本主 義の下で、完全雇用状況を実現するという課題が、労働者・国民の暮らしを守る ことと無関係と友寄氏は理解されているようである。
 過大な公共事業は、財政的にも、環境的にも大きな矛盾があることは事実であ るが、完全雇用を実現することは、今日の日本のように雇用状況が厳しい中で は、労働者・国民にとって重要な政策課題ではないだろうか。
 もう一つの問題は、ケインズと国民の暮らしの関係を考える場合に、ケイン ズ・ベヴァリツジという枠組みで考えることが不可欠である。ケインズもベヴァ リッジも同時代にイギリスで活躍した知識人で、相互に理論的影響を受けていた といわれている。ベヴァリッジはケインズ理論・政策により完全雇用の実現とい う目標を前提としながら、貧困対策や医療・教育・住宅などの福祉拡充の国家プ ランとしてのベヴァリッジ報告を1942年に策定し、第二次大戦後に労働党の アトリー政権により報告のほとんどが実現され、福祉国家イギリスが誕生するこ ととなる。このベヴァリッジ報告は大戦後の他の先進諸国の国づくりにも多大の 影響を与え、先進国での福祉国家体制の成立へと帰結し、その福祉国家体制がケ インズ主義的福祉国家と評されているところである。
 ベヴァリッジとの関係でケインズを評価するならば、ケインズの業績は完全雇 用実現への展望を示し、第二次大戦後の先進諸国での福祉国家体制の確立の前提 を提供したものであり、友寄氏のいうように、労働者・国民の暮らしを守ること と無関係とはいえないことは明白である。
 次に、友寄氏は、「二十一世紀の資本主義がかかえる理論的課題に取り組んで いくために、その道しるべとなるのは、ケインズではなく、むしろマルクスで す。」と述べている。
 マルクスの理論が死滅したと断定するつもりはないが、今日世界的にも、日本 でもマルクス主義研究は停滞しており、残念ながら二十一世紀資本主義が抱える 課題への処方箋を提起できるような状況にはないと断ぜざるを得ない。かつて、 二十世紀後半では、マルクス主義の現代資本主義論は国家独占資本主義論であっ たが、最近国家独占資本主義という言葉を赤旗でも全く目にしなくなっている。 まず、共産党として国家独占資本主義論を総括することが、先決ではないのか。
 また、二十世紀のマルクス主義といった場合、グラムシやプーランザス・ジェ ソップなどネオマルクス主義などの貴重な遺産もあるが、共産党の科学的社会主 義の中ではそれらは正当には評価されていない。
 二十一世紀の資本主義のかかえる理論課題への取り組みのために、マルクスも ケインズも二十世紀のマルクス主義の研究成果も活用しながら格闘することが必 要と考える。
 今日のように、派遣切りが横行し、失業問題が深刻化している中で、二十一世 紀の資本主義として、いかに完全雇用を実現し、しかも正規雇用など良質な雇用 機会を増やすのかへの処方箋が求められよう。
 そのためにも、共産党内で自由な議論・理論論争が起きるような状況を作るこ とが必要ではないのか。
 グラムシやネオマルクス主義の研究・議論を弾圧したという共産党の過去は、 大いに反省と総括が必要である。
 党員が党中央の提起を無批判に真理と信じ込み、実践することのみが求められ るという姿では、今日の世界・日本の抱える理論課題への格闘も不可能であろ う。