09年1月16日付で「共産党の雇用政策論の批判的検討」を寄稿したものである
が、丸氏より09年1月18日に批判の投稿をいただいた。
丸氏より私は共産党の公共事業論に関して無理解との指摘をいただいた。
私の意図は、共産党の雇用政策との関連で公共事業を議論しようとしたもので
あり、あくまで主題は雇用政策に関してである。そもそも公共事業論の詳細を議
論する意図は無いものである。
前の私の投稿でも触れたところであるが、リーマンショックなどの金融危機が
世界同時不況の様相を呈しており、派遣切りが横行すると共に、正規社員のリス
トラも始まろうとしており、きわめて雇用状況が厳しく、失業問題が主要な政治
争点に浮上している。
最近まで、先進諸国では、経済政策の重要な指針としてケインズ理論・政策が
位置づいてきた。(近年、竹中平蔵氏に代表されるような新自由主義の理論的指
針となった新古典派経済学が隆盛を極め、ケインズ理論に取って代わる状況に
あったが)
ケインズ理論は、資本主義が不況の局面で失業が大量に発生した局面では、大
規模な公共事業により雇用を創出し失業を解消することが、不況を克服する重要
な政策手段と考えている。歴史的には、1929年の世界大恐慌の後世界中(ソ連を
例外として)が深刻な不況と労働者の大量失業に苦しんだが、1930年代のアメリ
カでは、ケインズ理論に基づきニューディール政策として、大規模なダム建設な
ど公共事業が実施され、失業者に職を与え不況を克服しようという政策が実行さ
れた。同時期のスウェーデンでは、大規模な公営住宅の建設により失業問題の克
服がはかられたものである。
公共事業で、ダムを作るのか、それとも公営住宅を作るのかというのは、政策
上の選択肢の問題であるが、ここではこの論点ではなく、ケインズ理論に基づ
き、不況局面で、雇用問題が深刻化しているときに、大規模公共事業により失業
者に職を提供し、不況を克服するという政策への是非の問題であり、共産党とし
てそのような政策論への評価の問題を問うているのである。共産党の政策主張を
検討すれば、雇用創出・失業対策の手段として公共事業を位置づけるという視点
は持ち合わせていないように感じる。そうであるならば、別の雇用創出・失業対
策の政策がなければ「共産党として雇用政策が弱い」と評価せざるを得ない。
次に、「日本型生活保障システム」の問題でも批判を受けたが、私の意図は無
条件にこれを賛美するものではなく、宮本太郎氏自身、著書で(『福祉政治』有
斐閣、2008年)でも多くの矛盾を指摘されているところであり、私も認識を共有
するものである。ただ1970年代以降、地方への公共事業の傾斜的配分により就労
機会を保障し、生活を保障するという福祉の代替機能が小泉構造改革まで働いて
きたことは現実として認識することは重要であると考える。そして、小泉構造改
革により公共事業の大幅削減後、地方の地域経済は衰退し、多くの地域住民は地
域で就労の場を失なった。この地方住民の怒りが、一昨年の参議院選挙の際、地
方が中心の一人区で自民党の惨敗に直結したことは記憶に新しいところである。
丸氏は公共事業の「費用対効果」の問題も論じられているが、この問題は、都
市部と農村部・地方で大きく利害対立する問題と考える。新自由主義的構造改革
の財界での旗振る役オリックスの宮内会長は、北海道の過疎地に分散的に住民が
居住し、そこの人々へ道路や水道や学校など基礎的行政サービスを保証すること
は、費用対効果が著しく劣り、過疎地には人は住めなくし、札幌周辺の都市部に
居住するようにすれば、行政サービスの費用対効果が高くなる、という趣旨の発
言をしたようである。(山口二郎北海道大学教授の著書より)
費用対効果論を極端におしすすめれば、宮内氏のように過疎地に人が住むこと
自体が費用対効果に劣るということとなり、地方・過疎地を切り捨てる議論とも
いえよう。都市部住民としては、仮に過疎地・山間僻地に人がすまなくなり、行
政サービスの費用対効果が高まれば問題はなくなるのかもしれないが。(都市部
住民の中では、自分らが払った税金が、過疎地・地方を維持するため、多くが使
われている事への拒否感が強いのかもしれない。)
しかし、世界中を眺めれば、雇用政策は公共事業のみでもない。スウェーデ
ン・デンマークなど北欧諸国は、公務員が全就業者の3割以上を占めており(こ
の中では、福祉・教育・医療など住民向け行政サービスに従事する地方公務員が
大半を占めている)、多くの公務員雇用が存在することが雇用構造の下支えをし
ている状況にある。
日本でも、住民向けサービスを担う公務員を大幅に増員して(日本の場合、福
祉サービスの多くが民間で担われているが、介護職員が低賃金で雇用が継続しな
いという問題があるが、仮に介護職員に公務員賃金並みの賃金を保証すれば、介
護の質は向上するのではないかと考える。)、雇用問題対策を行うことも政策上
の選択肢かもしれないが、北欧諸国はスウェーデン・デンマークの付加価値税
(消費税と同様)が25%と重税の国々であり、日本国民が重税でも公務員の大
幅増員での雇用問題の解決と福祉の拡充という選択をするのかどうかは疑問であ
る。
少なくとも、現時点で共産党は北欧のように公務員の大幅増員で福祉の抜本的
拡充と雇用問題の解決を図るとの政策ではないようである。
最後に、完全雇用という前提を捨て、10~20%ぐらいの失業率を前提とし
て、失業した人を失業保険や生活保護で生活保障する、という考えもあろう。こ
の前提では、無理に公共事業で雇用機会の創出を行う必要もない。
また、最近は社会科学者の中で、無条件に全国民に現金給付を行うというベー
シック・インカム(基本所得)という考え方が注目を集めているところである。
その研究者小沢修司氏によれば、無条件に全国民に国民一人当たり一ヶ月8万
円の現金給付を行うように提案している。
いずれの場合でも、今日不況が深まり、失業問題が深刻化している日本で、雇
用問題の解決のための政策論が旺盛に議論される必要があると考えるものであ
る。この意味で、さざなみ通信の存在は貴重であると共に、共産党が党内外のま
じめな議論・討論の場を。赤旗や前衛や経済などの場に設けることが必要ではな
いのか。