共産党の志位委員長が「日本共産党元気の源は何か」という外国特派員協会で
の講演が、09年3月5日付けの赤旗の日刊紙に掲載された。ここではこれへの批判
的検討を行うものである。
まず、志位委員長は、経済改革として「ルールある経済社会をめざす」に関し
て論じている。今日の日本・世界の資本主義の状況は、資本が暴走し、原油など
の価格を吊り上げたり、金融資本の暴走がサブプライムローン問題から世界同時
不況を引き起こし、また、低賃金で無権利の派遣労働を蔓延させると同時に、不
況に突入すれば真っ先に彼らが派遣切りという解雇を受け、彼らへのセーフ
ティーネットはほとんど無いなど「ルールなき資本主義」という現状認識は賛同
するものである。
ただ、「低所得者を排除する社会保障―削減から充実への抜本的転換を」と主
張しているが、共産党として社会保障改革のトータルプランとそれに必要な財源
は示されていない。消費税増税反対で、社会保障の抜本的拡充するための財源を
どのように捻出するのか共産党の具体的提案は一切無い。また、社会保障拡充の
トータルプランも提起されていない。
例えば、志位委員長は、生活保護率の捕捉率に触れているが、確かに日本の生
活保護の捕捉率は1~2割程度と極端に低く、ヨーロッパの7~8割からは大きく乖
離している。共産党として、生活保護率の捕捉率を大幅に引き上げることを主張
しても、そのための制度設計と必要な財源は提示していない。生活保護の受給要
件の再検討など、生活保護制度の制度論の緻密な議論が必要であると考えるもの
である。
パッチワーク的政策論から、トータルな政策論、そしてそれを実現するのに必
要な財源論へと進化させなければ、多くの国民の支持は得られないであろう。
次に、志位委員長は、「ルールなき資本主義」を正し、「ルールある経済社
会」への転換を主張しているが、いかなる理念・理論で、そしてそれを実現する
のに、いかなる方法で、「ルールなき資本主義」をただし、「ルールある経済社
会」を実現するのか、明確ではない。
世界・日本全体で、それまで優勢であった新自由主義が凋落し、新自由主義的
構造改革の旗手であった中谷巌氏が過去の言動を反省し、懺悔の本を書く時代で
もある。
しかし、新自由主義に代わる理念・イデオロギーは現在のところ明確には出て
いない現状にある。共産党的には、資本主義の枠内での民主的改革をすすめる新
たな理念・イデオロギーが必要となるが、現在までのところ明確には提起されな
いのみならず、そのような理念を研究し・討議しようという党内の理論活動はき
わめて弱い現状にある。また、それを実現する具体的戦略・戦術も明確ではない
のである。
いま、世界で、日本で新自由主義という理念が凋落し、大きな社会的ビジョン
を示しえない現状にあるが、日本の国政ではそれまでの政策の惰性としての緊縮
財政政策が継続しており、社会保障費における自然増分の2,200億円の削減など
は継続しており、失業が急増する中、国民の暮らしを苦しめる状況が継続してい
ることも留意することが必要である。
最後に、「理想―資本主義を乗り越える未来社会への展望」を触れているが、
志位委員長は、資本主義の矛盾が深まり、「資本主義の枠内でぎりぎりの努力を
したとしても、『利潤第一主義』という資本主義の狭い枠組の中では、これらの
問題の根本的解決はできないでしょうと」とのべ、「二十一世紀には世界的規模
で、資本主義を乗り越える社会主義・共産主義への前進の条件が熟してくるので
はないか」と社会主義・共産主義論を述べているのであるが、19世紀にマルクス
がイギリスなど先進国で社会主義の実現を展望しながら、21世紀の今日まで、先
進国では社会主義に移行した国が存在しないという現実を厳しく受け止めるべき
である。
近年、共産党は中国などの国を、市場経済と通じた社会主義をめざす国と評価
し、理論交流を活発化させる傾向があるが、中国などの国々は、市場経済のゆが
みが、資本主義の矛盾と重なり合って出現しており、格差問題や環境破壊など深
刻な社会問題を内包している。中国は社会保障も極めて未成熟であり、アメリカ
を除く先進国では当たり前の国民皆保険制度が未確立であり、無保険の農民が重
病にかかった場合、自費診療による高額な医療費負担のため、満足な治療を受け
られないという、多くの先進資本主義国では解決済みの問題にも直面している。
やはり、先進国としての社会主義・共産主義ビジョンを提起することなくして
社会主義・共産主義という展望は、国民にも、大多数の党員にも響かないもので
ある。
先進国としての社会主義論は、今のところ党内には全く蓄積されていないので
ある。
共産党の組織網が、困難に陥った国民に救済の網を提供していることは、共産
党の一つの大きな存在意義であろうが、今の現状を打開する社会改革に向けての
理論活動が弱く、赤旗にもそのような理論的指針はほとんど見かけないのであ
る。