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キム・ヨナが体現した韓国民主化革命の土壌

2010/2/27 櫻井智志

 パンクーバーオリンピックでも、女子フイギュアスケートは花形とも言える代表的な種目である。
 熾烈な闘いのすえに、韓国のキム・ヨナ選手がショートプログラムでもフリーでも史上最高得点をたたき出し、見事な優勝をとげ、金メダルを手中にした。
 日本勢も活躍した。金メダルをキムヨナと争った浅田真央は、フリーでもトリブルアクセルを二度もクリアして、途中の惜し いミスもあったが、銀メダルを獲得した。安藤美姫は、前回のオリンピックでの雪辱をはらし、堂々と、妖艶な「クレオパト ラ」を見事に演じきり、大人の女性の魅力の表現にせまった。なによりも胸をうったのは、何度もマスコミでも紹介されたが 鈴木明子選手である。摂食障害から立ち直り、実に丁寧で迫力のある表現力を誠心誠意出し尽くした。難度の高いジャンプにこだわらず、リンクの上で表現としてのスケーティングの演技に迫力ある鈴木明子選手と安藤美姫選手の展開は、ジャンプを高度な課題として跳躍を強迫的に取り組み続けた浅田真央選手にとっても、大きな学びとなったと感じられた。

 さて、キムヨナは、韓国国民のなかでも「国民の妹」としてシンボルスターとして期待されてきた。その飽くなき努力、二 十歳間近な若さにもかかわらず、落ち着いた表現力の創出と実力は、史上最高得点として示された。
 私には、韓国が充実したスポーツと文化の歴史的地点にあると感ぜられる。他のスポーツでも、急速に伸びてきた野球では 毎回WBC(ワールド・ベイスボール・クラシック)での優勝争いへの参加、女子バレーボールやサッカー、今回の冬季スポ ーツなど。それらの急速な発展の背後に、国民の生き生きとした暮らしの充実感がうかがわれる。

 思えば、長い間近代史において、朝鮮半島はロシアや中国、そして日本によって領土を侵略されてきた。古代から近世に 至るまで、朝鮮は高い文化と精神性とを持続してきた。様々な歴史の経過のなかで、明治、大正を主とする日本による朝鮮半島への侵略と植民地化は長く朝鮮民族を苦しめ続けてきた。苦しめたのは、大日本帝国である。

 その歴史は、昭和前期の第二次世界大戦の終末にイタリア、ドイツ、日本のファシズム体制が崩壊するまで続いた。その後 も日本やアメリカの息のかかった傀儡軍事政権が続いた中で、南朝鮮半島の韓国国民は弾圧政治にさらされた。
 けれど韓国国民は、自力で立ち上がり、金大中氏というたぐいまれな政治的リーダーを得て、数々の政治的容疑者の死刑の強行や光州事態のような悲劇を克服して、韓国民主化革命を成し遂げた。
 韓国国民のスポーツにおける健闘と国民の熱い期待の背景には、現代史における政治的社会的困難を脱却して、韓国が急速に伸張していった経済的社会的な基盤がある。
 私は、最近韓国映画をレンタルDVDで鑑賞している。「光州5.18」「シュリ」「ラブストーリー」「青燕」などどれを見ても若い世代の積極的な映画文化の魅力が感ぜられる。日本の映画人たちも、困難な中でも充実した作品を送り出している ので、韓国がよく日本が悪いというつもりは毛頭ない。
 ただ、今日の韓国スポーツの隆盛の背後には、そのような歴史的文化的背景があると感ぜられる。