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ふたたび「虐殺」について~道祖神さんへ

2010/5/3 櫻井智志

 まず短いので二度目の道祖神さんの文章を掲載させていただく。

「櫻井智志さん、お返事ありがとうございました。
小生も戦前の特高警察による拷問・虐殺が小林多喜二だけではないことは知っており ます。
ただ、一般的な知名度からいえば、「蟹工船」の作者として、国民的に知られている プロレタリア文学作家ですので、そのような作家が戦前、虐殺されたという事実が、「蟹工 船」の「ブーム」のわりにはほとんど報道されていないことに疑問を感じるのです。
これは現在のマスコミの限界かもしれませんが、一方で、虐殺されたことについて、 共産党をふくめて、左翼勢力側が権力犯罪として刑事告訴しなかったのかという疑問で す。
櫻井さんの返答にも、その辺のことについては記述されていないのですが、その理由 を御存じなのでしょうか。
小生は法律の専門家ではないので、そのような刑事告訴が可能かどうかわからないの ですが、法律的な制約があったのでしょうか?」

 私の知る限りの限界内で記載させていただく。後は、識者のご指摘をまちたい。

 多喜二が虐殺されたのは、戦前である。基本的な国家の法律は、大日本帝国憲法で ある。現代は、日本国憲法であるが、法制度としては相矛盾する日米安保条約が併存してい る。この憲法の根本的な違いをわきまえておくことが、道祖神さんの認識のなかから抜け 落ちている。

 さらに、戦前には治安維持法があり、政治犯というよりも、より内面にまで土足で 踏み込む思想弾圧法が大きく国民をおさえつけていた。
 戦前の日本共産党は、そういった政府の弾圧もあり、国民からは2つに分化してと らえられていた。ひとつは、期待であり、もう一方は恐怖感である。「アカはこわい」この政治的神話 が国民にすり込まれていた。
 戦後になって、左翼側が多喜二の虐殺を刑事告訴しなかったのか、という疑問は適 切な疑問である。しかし、戦前においては、まったく状況が異なり、そのような告訴は成立しがたい状 況だった。

 道祖神さんのおっしゃるように、小林多喜二や岩田義道などの共産党員の虐殺を、 日本共産党が現代において、刑事告訴することは法的手続きとして可能かどうかはわからぬが、道 義的には実に妥当な市民権の思想にもとづいた行動であろう。たぶん時効によって不可能かも知れ ぬが、マスコミやジャーナリズムを通じて広く国民にアピールするべき課題であることを、道祖神さん の問題提起から教えられた。