櫻井さんは、「このように菅政権を眺めていると、政党の中で、まともな政治
的理念や原則を貫いているのは、共産党しかない。」・・・・・「共産党の党内
改革が、様々に論じられているが、求められている課題は、国民の生存権をにな
う社会保障と労働権の保障を政策的に実行する政治改革の実行である。」と述べ
られている。
今の共産党を見ていて、日本の社会保障の在るべきビジョンとそれを実現する
財政の展望をまったく持たずに、社会保障の個別領域での改悪反対を唱えるに過
ぎないとの印象を持つ。
一方与謝野大臣を迎えた民主党政権の社会保障理念は、故宮本顕治の息子であ
る宮本太郎北大教授の理念に負うところが大きい。
与謝野氏が自民党時代に宮本太郎教授の(『福祉政治-日本の生活保障とデモ
クラシー』有斐閣、2008年)に大きな感銘を受け、周りに宮本氏の著書を読
むように薦めると同時に、麻生政権時代に作られた「安心社会実現会議」の委員
に宮本教授を推挙し、宮本教授の理論がベースと成り報告書が作成された。
昨年12月には政府の「社会保障改革に関する有識者検討会報告~安心と活力
への社会保障ビジョン~」が出されたが、宮本教授が座長を務め、宮本教授の見
解をベースとして報告が作成されている。与謝野大臣によれば有識者検討会報告
をベースとして、政府内の社会保障ビジョンと税負担の問題の検討を行うとされ
ている。
1月24日の菅総理の施政方針演説の社会保障改革に関しても、宮本教授が中
心となって作成した有識者検討会報告に沿った内容であった。
上記のように民主党政権の社会保障ビジョンの形成に関して、宮本太郎教授の
理論が大きな位置を占めている。
宮本教授は、福祉国家論やスウェーデン研究で日本を代表する学者であると同
時に、最近は日本の社会保障や生活保障の在り方への研究を中心テーマにされて
おり、『福祉政治』有斐閣、2008年と『生活保障-排除しない社会へ』岩波
新書、2009年に研究を集大成されている。
この二冊の本を読めば、民主党政権の社会保障ビジョンもよりよく理解できよ
う。
共産党の知的後退を最近感じるとこだが、いまだに共産党として「社会保障改
革に関する有識者検討会報告」や宮本理論への詳細な論評や検討も出来ていな
い。
共産党の知的後退には、共産党の党内改革の問題が大きな要因だろう。もとも と宮本教授も学者党員であったが、1980年代のネオマルクス主義批判で多く の学者党員が弾圧される状況の下、ネオマルクス主義の論文を書き、党から追放 されたものであり、80年代のネオマルクス主義弾圧が、多くの知識人の共産党 からの離反を招き、今の共産党の知的後退の要因のひとつとも認識する。