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一般投稿欄

「日本に福祉国家を」さんへの返信

2011/1/30 櫻井 智志

 本欄2011年1月24日付けのご意見には、教えられることとたいせつな問 題の提起とがあり、参考になった。まず最初に御礼を述べたい。

 宮本太郎氏が、戦後の日本共産党をリードしてきた指導者宮本顕治氏のご子息 であることは知っていた。しかし、ネオマルクス主義批判で共産党から処分を受 けたということは知らなかった。「日本に福祉国家を」さんがおっしゃるとお り、1970年代の新日和見主義批判と80年代のネオマルクス主義批判とが、 非党員のかなりの知識人のなかから幻滅感を与え離反を招いたという事実は、ほ とんど間違いないだろう。現在の共産党指導部の政策や理論活動から創造的な対 案が久しく出されていないことと関連があるだろう。

 さて、私は菅直人民主党政権よりはまだ日本共産党がましであると述べて、そ のことで「日本に福祉国家を」さんからご指摘を受けている。民主党の社会保障 ビジョンは、宮本太郎教授によるところが大きく、そのビジョンの卓越した内容 に比べて、日本共産党の社会保障政策は、政府の社会保障の個別領域での改悪反 対をその都度表明しているに過ぎない、と。このご指摘も妥当で同意できる見解 である。

 ただ、こういう見方はできないであろうか。
 民主党の社会保障政策がすぐれていても、特に「菅直人首相」政権の行政は、 宮本教授の創造的な見解を生かすような行政の実行と結びついているだろうか。 私は、自民党・公明党の政権から民主党連立政権へと政権交代したことを意義あ るものと感じていた。鳩山由紀夫氏・小澤一郎氏を指導者とする民主党政権に は、画期的な意義があった。しかし、菅政権は全く異なる国政を展開しはじめて いる。簡潔に言えば、それは小泉純一郎氏を総理とする自公政権の「新自由主義 にもとづく改革」への復古政治である。アメリカ政府に対して対等の外交を主張 しアジアに主軸を据えた等距離外交路線を、強権的なアメリカ政府とそれを支持 する独占的大企業資本の介入により、鳩山政権は挫折して、アメリカ追随外交に 復帰せざるをえない状態においつめられた。菅政権が行おうとしている外交・財 政・内政・社会保障・雇用など行政のほとんどは、鳩山政権の初期とは全く異質 である。

 いまも民主党がすぐれた社会保障政策を提示していても、現実の菅政権が実行 している政治は、すぐれた社会保障政策とその基盤となる様々な土固めとは離反 している。その離反距離はどんどん伸びている。「たちあがれ日本」に連立をも ちかけ、自民党や公明党に連立をもちかけては嗤われているありさまである。
 今後の政局の動向は、私には明確な判断はもてないけれど、民主党が自民公明 と大連立するとは思えない。むしろ、自民公明みんなの党で、統一地方選挙や都 知事選などを勝利して、総選挙が実施されたら、菅政権は崩壊するのではあるま いか。もうすでに、菅政権は民主党政権というよりは、保守連合政権に墜落して いる。今後傀儡的に前原外相のような新自由主義政治家を総理にかつぎあげて、 民主党と自公などとの提携を強めていくということも起こりえる。同じ民主党政 権でも、政権交代した頃は、民主党中堅のリベラルな勢力が社会民主主義的な改 善策をひっさげて、長期自民党独裁政権でガタガタになった国政を改革する政策 と実行力とを備えていた。宮本太郎氏らのすぐれた理論的貢献も政権交代をにな い進めたこの勢力であろう。

 驚くほど落差にがっかりしたのだが、菅直人という政治家は、日和見をうかが いながら、民主党政権と菅総理という自己保身のことしか脳裏にない。政権交代 の意義は壊滅的な打撃を被った。いまの段階では、草の根の現場で、なんとか政 治をよくしたいと動き回っている末端で活動し続けている共産党員の存在そのも のが光る日本共産党のほうが、「菅」政権よりはましであると感じている。年々 年齢を重ねる党員の構成や展望的なビジョンを示せない共産党中央の指導部の質 の低下は、私は否定もしないし、それを擁護もしていない。
 それでも、市町村の党員議員や労働運動の現場で献身的に取り組んでいる草の 根の党員たちがいることのみによって、いまの菅政権より日本共産党のほうがま だましである。菅政権は、日本を戦争準備体制国家へ導きかねない危険をはらん でいる。しかし、日本共産党の草の根の党員たちが戦争翼賛体制を推進していく とは思わない。求められるべきは、2011年の日本の危機的様相を救う民衆政 治家の存在が確認されていない情勢の解決である。「日本に福祉国家を」さんが おっしゃるように、共産党指導部が、本来の共産党の名にふさわしい政治的リー ダーシップを理論的実践的に発揮することである。

 それはたぶん無理、と感じつつ、私は菅政権よりまだ共産党がまし、と自分に 言い聞かせるようにひとりつぶやいているにすぎないけれど・・・歴史はその動 きをとめてはくれない。侵略戦争を阻止しきれなかった日本の民衆と日本共産党 は悲劇を味わった。現代の日本発の侵略戦争を阻止しきれなかったなら、日本国 民と日本共産党は、喜劇の主人公となる。国際世論は、歴史の教訓を私たち日本 国民が生かすことができるか否かを、注視している。