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一般投稿欄

櫻井智志さんへ―菅政権になり社会保障の在り方と税制・財源問題が統一的 に議論できるようになったのは、日本の社会保障にとって大きな朗報では―

2011/2/7 日本に福祉国家を

 櫻井さんより1月30日付で返信をいただきました。同意できる点も多くあり ましたが、何点かで見解が異なる点もあり、そこを中心に述べます。
 まず、小泉・竹中による新自由主義的構造改革路線の転換がいつなされたのか という問題に関してです。私は、この転換の契機は自民党麻生政権時代の「安心 社会実現会議」が大きな転換点と考えます。
 当時の副総理・財務大臣であった与謝野氏が主導した会議ですが、これで社会 ビジョンとして小泉・竹中ラインによる小さな政府・福祉の切捨て・規制緩和な どの方向性が修正されました。
 この会議に宮本太郎北大教授が委員として参加していますが、民主党の支持母 体である連合のシンクタンクの連合総研で活躍していた社会民主主義者の宮本教 授をわざわざ委員に選抜し、宮本教授の見解が多く取り入れられた報告書が作成 され、小泉改革以降大きく揺らいでいる日本の生活保障のシステム再建の方向を 提起したのは、大きな政策ビジョンの変更です。
 民主党政権になっても基本的方向性は「安心社会実現会議」報告を踏襲したも のと考えます。
 次に、自公政権から民主党への政権交代の問題でありますが、これにより子ど も手当てや公立高校授業料無償化など大きな政策変化があったのは事実ですが、 衆議院選挙前に鳩山代表・小沢幹事長の下で作られた民主党のマニュフェスト は、マニュフェスト実現に必要な財源の提起に致命的欠陥がありました。
 マニュフェストでは、無駄を省けば十数兆円の財源が出てきて、マニュフェス トで掲げた公約の実現や社会保障の財源も十分に賄えるという前提でしたが、事 業仕分けをしてもたいした金額は出てこず、マニュフェストの財源に関して破綻 は明白であり、民主党政権の与謝野大臣の国会答弁では「財政に関する無知」と の酷評もされているところです。
 菅政権の評価に関しては、櫻井さんが指摘されるような問題はあると認識しま すが、社会保障改革と財源問題・税制問題が統一して議論されようとしているこ とには大きな意義があります。
 今まで、日本の左翼(昔なら土井社会党・今の共産党)は社会保障の拡充は主 張しても、そのための財源は真剣に議論せず、一方で消費税(増税)反対の運動 を盛り上げ、社会保障拡充の現実的条件を潰してきたのではないでしょうか。
 宮本教授が主張するような社会保障の拡充を実現するには、大きな財源が必要 となり、今の危機的国家財政からすれば消費税増税は必要不可欠だし、ヨーロッ パの福祉水準の高い国々の消費税率は20%前後になっています。
 菅政権は、三顧の礼で、財政のエキスパート与謝野氏を閣僚として迎え、社会 保障改革と税制改革の責任閣僚として位置づけ、宮本太郎教授も委員として参加 する「社会保障改革に関する集中検討会」を立ち上げ、社会保障の強化(宮本教 授は、日本の社会保障は老齢者中心であったが、若い世代・現役世代の生活保障 システムが大きく揺らいでおり、この世代の生活危機が進行しているため、現役 世代へも社会保障の対象を大きく広げる必要を提起)と財源の確保の現実的枠組 みを作った業績は評価できると考えます。
 菅総理の消費税増税への決断は、消費税導入や引き上げで、幾人もの自民党の 総理が選挙に敗れ、辞任に追い込まれる経緯もある政治的に極めてハイリスクな 消費税増税を提起する勇気は、評価したいと思います。
 共産党の草の根で活躍する末端党員の善意は評価したいですが、共産党中央が 情報統制をしており、中央の提起を無批判に受け止め、実践するというタイプの 活動家は、日本の社会保障の拡充に肯定的な役割を果たしているのか、否定的役 割を果たしているのか、吟味が必要と考えます。
 この間、共産党は具体的社会保障財源の詳細を示すことなく、消費税増税しな くとも社会保障の財源は大丈夫と、消費税増税反対の主張をしていますが、赤旗 では日本の社会保障費が人口の高齢化で年間約1兆円ずつ(将来的に団塊の世代 がより社会保障の給付を受けるような時期になれば、社会保障費の自然増は年2 兆円になるとも言われている)の自然増が生じており、1990年の社会保障予 算約11兆円が、2011年予算案では29兆円近い社会保障費を計上している という事実はまったく報道されておらず、いままでの消費税収はすべて法人税の 減税に使われたと盲信している末端党員も多数います。
 批判的精神を持たずに、党中央・赤旗のいう事を盲信し、社会保障財源の展望 無く、消費税増税反対の運動に血道をあげることは、日本の社会保障の発展や生 活保障システムの再生にとって肯定的なことだとは思えません。
 党中央の言うことに盲従しない批判的精神を持った党員は、すでに党から離れ ているか、未結集かではないでしょうか。