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一般投稿欄

消費税以外に社会保障費財源を構想しえない政治的構想力の貧困

2011/2/18 櫻井 智志

「日本に福祉国家を」氏からの2月7日付けのご意見を拝読した。率直に私の感想を 記す。

 小泉・竹中による新自由主義的構造改革路線は、自民党麻生政権時代の「安心社会 実現会議」が大きな転換点であると、「日本に福祉国家を」(以後NF氏と略称しま す)氏は述べる。「与謝野馨氏が主導したこの会議で、小泉・竹中ラインによる小さ な政府・福祉の切捨て・規制緩和などの方向性が修正された」。方向性を否定するつ もりはないが、麻生政権に外交も内政も滅茶苦茶だった、という強い印象を私は持っ ている。あの政権で、福祉切り捨て・規制緩和は、修正の意図があったのだろうか。 疑問である。

「民主党の支持母体である連合のシンクタンクの連合総研で活躍していた社会民主 主義者の宮本太郎北大教授を委員に選抜し、宮本教授の見解が多く取り入れられた報 告書が作成され、小泉改革以降大きく揺らいでいる日本の生活保障のシステム再建の 方向を提起したのは、大きな政策ビジョンの変更である」。

こうNF氏は述べる。だが、宮本太郎氏が麻生政権のブレーンになろうが、いまの民 主党政権の重要な政策的ポジションをもっていることに、それほどの意味合いがある のか。おそらく宮本太郎氏がかつて日本共産党の指導的役割を果たした宮本顕治氏の ご子息であるからなのだろうか。
 宮本太郎氏については、ふたつの視点がある。ひとつは、ネオマルクス主義に対す る日本共産党内での圧力のために宮本太郎氏は、社会民主主義の理論家として民主党 に近い理論家となったという説である。もうひとつは、宮本太郎氏はもともと日本共 産党の組織とは離れていて、マルクスやレーニンについてよく学習していたが、一方 では政治学の碩学丸山眞男氏の研究著作に傾倒していたし、社会民主主義の理論研究 を持続してきたという説である。後者の視点では、宮本太郎氏と日本共産党とは接点 はないという把握である。

 NF氏は、「鳩山代表・小沢幹事長の下で作られた民主党のマニュフェストは、マ ニュフェスト実現に必要な財源の提起に致命的欠陥があった」と考える。「事業仕分 けをしてもたいした金額は出てこず、マニュフェストの財源に関して破綻は明白であ り、社会保障改革と財源問題・税制問題が統一して議論されようとしていることには 大きな意義がある」とも。  私は、以下のNF氏の説に反対である。

 「今まで、日本の左翼(昔なら土井社会党・今の共産党)は社会保障の拡充は主張 しても、そのための財源は真剣に議論せず、一方で消費税(増税)反対の運動を盛り 上げ、社会保障拡充の現実的条件を潰してきたのではないでしょうか。」「宮本教授 が主張するような社会保障の拡充を実現するには、大きな財源が必要となり、今の危 機的国家財政からすれば消費税増税は必要不可欠だし、ヨーロッパの福祉水準の高い 国々の消費税率は20%前後になっています。」

NF氏は、社会保障の財源として消費税を構想するが、なぜ政策全体の構造を考えな いのか。日本がアメリカの従属国であることを当然の前提として枠組みを考えてい る。しかし、アメリカは日本が日本社会を存続させるために必要なまともな政策的提 言を主張しないかぎり、日本社会を犠牲にするような経済・エネルギー・農産物・工 業と次々にかさにかかった態度で過大な犠牲的屈辱に満ちた要求をつづけてきた。 社会保障改革と税制改革の結合からすれば、宮本太郎氏は優秀な理論家かも知れな い。だが、社会保障と税制改革との関連づけしか困難打開策は本当にないのだろう か。
また、ヨーロッパで消費税率の高さを賞揚する理論家は、そこで消費税によって社会 福祉を実現してきたわけではなく、社会保障、医療、教育などが著しく整っており、 日本社会における消費税の位置づけとは全く異なっている。そのことに触れずに、 ヨーロッパの消費税率の高さを主張するのは、いささか詐欺めいた論法である。

NF氏が

 「菅総理の消費税増税への決断は、消費税導入や引き上げで、幾人もの自民党の総 理が選挙に敗れ、辞任に追い込まれる経緯もある政治的に極めてハイリスクな消費税 増税を提起する勇気は、評価したいと思います。」

というのには、正直あきれてしまった。
 さらに、以下の共産党論は混同してしまっている。まず全文を引用してから、私見 を述べる。

「共産党の草の根で活躍する末端党員の善意は評価したいですが、共産党中央が情 報統制をしており、中央の提起を無批判に受け止め、実践するというタイプの活動家 は、日本の社会保障の拡充に肯定的な役割を果たしているのか、否定的役割を果たし ているのか、吟味が必要と考えます。
 この間、共産党は具体的社会保障財源の詳細を示すことなく、消費税増税しなくと も社会保障の財源は大丈夫と、消費税増税反対の主張をしていますが、赤旗では日本 の社会保障費が人口の高齢化で年間約1兆円ずつ(将来的に団塊の世代がより社会保 障の給付を受けるような時期になれば、社会保障費の自然増は年2兆円になるとも言 われている)の自然増が生じており、1990年の社会保障予算約11兆円が、20 11年予算案では29兆円近い社会保障費を計上しているという事実はまったく報道 されておらず、いままでの消費税収はすべて法人税の減税に使われたと盲信している 末端党員も多数います。
 批判的精神を持たずに、党中央・赤旗のいう事を盲信し、社会保障財源の展望無 く、消費税増税反対の運動に血道をあげることは、日本の社会保障の発展や生活保障 システムの再生にとって肯定的なことだとは思えません。
 党中央の言うことに盲従しない批判的精神を持った党員は、すでに党から離れてい るか、未結集かではないでしょうか。」

 日本共産党中央の統制についてNF氏が、怒りさえ感じている気持ちは一応理解 できる。だが消費税反対の闘争は、重要な闘いである。新自由主義改革の結果による 国民の所得格差は、小泉以後も、安倍、麻生らの自公政権首相の無策で広がった。国 民の怒りをバネにした民主党政権交代は、謀略的な菅政権による政権交代の反動的転 換によって、再び逆コースを歩き始めた。民主党政権交代とその直後の民主党の政治 に、宮本太郎氏らの社会民主主義的理論家や中堅が大いに尽力した功績はNF氏とも 共通する感覚は私にもある。

 だが、菅政権を正当化しうるような見地は、私には全くない。