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一般投稿欄

日本の社会保障を維持し拡充するには、消費税増税は不可欠

2011/2/25 日本に福祉国家を

 櫻井さんより2月18日付けの投稿(「消費税以外に社会保障費財源を構想しえない政治的構想力の貧困」)で私の見解への批判・反論を頂いた。

 再反論すると同時に、日本共産党が社会保障財源の展望なしに消費税増税反対の主張をすることが日本の社会保障の崩壊を引き起こすことを述べたい。

 麻生政権時代に与謝野氏が主導した「安心社会実現会議」で福祉切り捨ての修正があったかどうかに関して、櫻井氏より疑問が提示されている。

 小泉政権時代、「増税なき財政再建」と言う掛け声のもと、年に1兆円ずつ自然増する社会保障費の増加を、2、200億円抑制し7、800億の増加に止めるという政策が取られた。その社会保障費抑制政策の中で、生活保護の母子加算・老齢加算の廃止・障害者自立支援法による利用料の1割自己負担・後期高齢者医療制度などの社会保障改悪がなされてきた。

 その社会保障費の自然増の抑制方針が撤回されたのが「安心社会実現会議」を受けた麻生政権時代であり、民主党政権になっても社会保障費の自然増の抑制はしないという方向は継承されている。

 そういう意味で小泉政権以降の自公政権の政策が麻生政権で大幅な修正が為されたことは注目されるべきである。

 次に宮本太郎教授が政府の重要な委員会の委員に継続して入っている意味については、小泉政権時代に竹中平蔵氏のような新自由主義者が政府の委員を独占し、ブレーンとしての地位についていた時代よりは、社会民主主義者でありスウェーデン研究の第一人者で、社会保障の拡充による日本における生活保障の再建、貧困化の進行の阻止を主張する宮本教授が政府の重要なブレーンに就任したことの意味は大きいものと考える。

次に、宮本太郎教授が元々党員で共産党内のネオマルクス主義への圧力で党から離れたのか、元々党員でなかったのかは重要な問題ではないだろう。宮本教授は現在52歳で1980年代はじめから半ばの時期には大学院生であり、共産党がネオマルクス主義をはじめとして党内で学問研究の自由を認めず、党中央の意向に沿わない学者党員を規律違反の疑いで査問し、除籍などの処分をした時代に、そういう党のやり方に反発した知識人・学者党員は宮本氏だけではないだろうし、この時代に大学院生だった多くの研究者が共産党に幻滅したことだろう。90年代初めには東大院生支部による宮本勇退決議問題による院生支部への処分もあった。

 ネオマルクス主義者ではないが学者党員であった池上惇京大名誉教授も、86年に(『人間発達史観』青木書店)という本を書き、党が提起していない理論を公表したという理由で査問されている。

 スターリン時代のソ連のような80年代の学問研究への弾圧の誤りは、今共産党員学者・知識人の50歳代からそれより若い世代が極めて少ないという、党内知識人・学者の高齢化に帰結しているだろう。

 次にアメリカに日本は従属しているかどうかは別にして、国家財政の観点より社会保障と税制改革・社会保障の問題を検討することが重要である。

 かつて日本は公共事業費が「土建国家」といわれるような他の先進諸国の3倍程度の多くの公共事業費を支出してきた。

 確かにこれが今の国家財政・地方財政の危機を引き起こした要因の一つであるが、宮本教授の分析では過剰な公共事業が地方を中心に雇用を生み出し、雇用レジューム中心の日本の生活保障を支える役割も果たしてきたと主張している。

 しかし、小泉改革で国も地方も公共事業費は激減しており、今の日本の公共事業費はフランスを下回る程度の、他の先進諸国並みの水準である。宮本教授によれば、公共事業の激減も日本の生活保障が大きく揺らぐ一つの要因と分析している。

 それ以降、一方社会保障費は人口の高齢化で老人人口の増加に伴いうなぎ上りに増加し、一般歳出の50%を超える水準まで増加している。(1990年の社会保障費が約11兆円で、2011年度の予算案では29兆近い社会保障費が計上されている。)

 税収で社会保障費を中心とした歳出がまかなえず、将来の世代へつけをまわす赤字国債に多く依存するようになっている。

 櫻井氏が主張されるようにいくら政策全体の構造を考えても、年々増加する社会保障費による国家財政の危機打開の展望は消費税増税問題を避けては出てこない。

 幸いなことに日本の現行の消費税率5%は欧州諸国より極めて低い水準にある。

 欧州諸国の大半が加盟するEUは、加盟国の消費税率最低15%と決めており、加盟国はそれに上乗せをして、20%~25%ぐらいの消費税率の国が多くなっている。

 ヨーロッパの高い福祉水準と高い消費税水準の関連に関しては、スウェーデンでは1950年代後半に社会民主党政権が60年代以降福祉などの大幅拡充を目指したが、その財源として消費税が考えられ、福祉水準の拡充と共に消費税が導入されその税率も70年代にかけて20%台まで大幅に引き上げられたものであり、福祉拡充財源として消費税が機能した。

 櫻井氏の見解は「日本は欧州諸国より福祉水準が低く、この間福祉が改善されないのみならず、改悪すらされているのに消費税率の引き上げは納得がいかない」という見解と考えられるが、日本の人口の高齢化が他国に例が無いほど早い速度ですすみ、改悪すらされている日本の社会保障であるが、この間年1兆円ずつの社会保障費の自然増が生じ、一般歳出の5割以上を社会保障費が占めるまでに至っている。

 社会保障費は、同じ社会保障の水準でも高齢者が増加し、社会保障給付を受ける人々が増加すれば、社会保障費は増え続けるという状況が今の日本である。将来、団塊の世代が年金受給する65歳に達したとき(2012年・2013年ごろ)、団塊の世代が75歳に達し医療や介護サービスをより利用するようになる時期(75歳の人の医療費は若年者の約5倍といわれている)には今まで以上に社会保障費の急増が予測されている。

 共産党の赤旗などにおける社会保障費の自然増への情報統制により、共産党関係者は社会保障費の自然増をなかなかに理解しようとはしないようである。共産党中央も、これからも人口の高齢化で増加し続ける社会保障費の財源を、消費税上げずに具体的にどう賄うのかの提起は一切ない。

 一方で、共産党中央が国保料の引き下げ運動を展開しているが、国保・地方財政の危機という状況のもとで、共産党員が首長や共産党が与党の自治体の多くで国保料の引き上げがなされている。共産党員首長でも財政危機・財源が無ければ、低所得者に高い保険料負担を課する国保料を引き上げせざるを得ない。

 今の日本では、急速に膨張する社会保障費を賄い持続可能な社会保障制度とするためには消費税増税が唯一の選択肢であり、それをしなければ日本の社会保障制度の崩壊を招くか、ギリシャのように日本国家の破産状況に直面しよう。 

 次に櫻井氏は、国民の格差が拡大しているから消費税増税反対の運動は重要と指摘されているが、この間日本で格差が拡大し貧困層が増大していることは事実である。宮本教授の主張は、今までの日本の社会保障は高齢者ばかりを対象としており、現役世代・若年者の生活保障機能はほとんどなく、また社会保険と公的扶助との間のセフティーネットもほとんどなく、貧困や生活困難への生活保障機能がほとんど機能していないという現状を指摘している。宮本教授は生活保障機能を強化するために、現役・若年者世代向けの生活保障・社会保障の拡充と、社会保険と公的扶助との間のセフティーネットの強化などの政策提言をしているところである。

 これらの宮本教授の主張が、宮本教授も参加する政府の「社会保障改革に関する集中検討会議」の議論にも反映され、子育て支援から若年者や現役世代の生活保障の拡充から高齢者の生活保障の充実とすべての世代に向けた社会保障へと転換すると同時に、貧困問題軽減に実効性のある社会保障制度改革へとつながることを期待している。

 消費税には逆進性があるとよく言われるが、OECDの相対的貧困率のデーターで、世界で最も貧困率の低い・平等な国は消費税率25%のデンマークとスウェーデンであり、貧困率が日本の3分の1程度の低率である。これらの国では高い消費税率を財源とする高水準の社会保障が貧困率の軽減に大きな効果を発揮している。

 社会保障制度の有様次第で、消費税増税しても貧困を軽減する・格差を縮小することが可能であることは、消費税率25%のデンマーク・スウェーデンの経験が明確に示している。

 共産党は、「ヨーロッパのようにルールある資本主義の実現を」とよく主張するが、ヨーロッパのように高水準の社会保障とそれを支える高い消費税には反対する。

 共産党が財政的に実現可能なプランとして社会保障の在り方を真剣に構想しているとは思えない。

 櫻井氏が「消費税増税反対の運動は重要」と主張されるのなら、消費税増税以外に高齢者の急増による社会保障費の急増がさけられず、宮本教授が指摘するような高齢者以外の子育て支援や若年者・現役世代の生活危機の増大に対応する社会保障が求められる中で、社会保障費をどう賄うのかの具体的プランを提示してもらいたい。