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一般投稿欄

共産党の社会保障論の貧困

2011/3/25 日本に福祉国家を

 櫻井氏は私との討論をこれから拒否されているが、櫻井氏の3月18日付けの投稿「消費税増税=社会保障論との訣別と大災害下の緊急の課題」で私の見解への批判と反論があったため、まずそれへの再反論をしたい。

 櫻井氏は、大震災の被災者が生活必需品の購入にさいし、消費税が増税になったとき生活苦は増大するというという前提で考えられる。
 私は今回の大震災で、一家の主な稼ぎ手を失う、職場が被災し長期間就労できないなど生活困窮者が多数生まれるであろうことは予想している。
 そのような震災に伴う生活困窮者に対しては、国の社会保障政策で生活保障がなされるべきである。
 被災者への国の社会保障での生活保障のためにも、多くの財源が必要であり、消費税増税分の財源が社会保障による被災者の生活支援にも活用されるなら、被災者の生活困難を増すものではないと考える。

 社会保障には、年金にしろ・医療にしろ・介護にしろ多くの金(財源)がかかるということを踏まえていただきたい。
 今までの日本は高齢者が急増し、社会保障の受給者が急増し、急激に社会保障費が膨張し、23年度予算で社会保障費が29兆円近くになり、国の一般歳出で社会保障費が50%以上を占め、税収では一般歳出を賄うことが出来ず、23年度予算では税収約37兆円に対し、赤字国債が約44兆円に達し、社会保障費の多くを孫子の世代への借金で賄う状態になっている。
孫子の代までの借金の付回しは当然継続するわけにはいかず、消費税増税が出来ないとなると、残るは年金の支給額3割カット・高齢者医療費の一律3割自己負担の導入・介護サービスを大幅に削減し、介護難民を蔓延させるなどの社会保障給付の大幅カット以外にはないだろう。

 日本の社会保障給付を大幅に削減し、多くの老人や生活困難者を路頭にまよわしても、消費税増税に反対すべきと主張するのであろうか。

 地震までは、総理大臣も出席して政府で社会保障改革と税制の改革の議論(「社会保障改革に関する集中検討会議」)がなされていたのであり、その議論では今の日本の社会保障が高齢者ばかりに偏重し、最近生活困難が進行している若者や現役世代への生活保障への機能がほとんどないことが共通認識となっており、生活困難な青年や現役世代の人々の生活保障を強化すべきという方向性を菅総理も含め確認している。
 今まで、国民年金や国民健保に加入せざるを得なかった非正規労働者も、厚生年金や会社の健保に入れるようにすることが、「社会保障改革に関する集中検討会議」でも確認されている。

 今政府の社会保障の検討では、消費税増税のみならず、生活困窮する若者・現役世代の生活保障の充実も議論されており、そういう生活困窮者への社会保障が拡充されれば、消費税増税になっても生活困窮者の生活保障は前進し、困窮状況は大幅に改善することも可能だ。本来社会保障には所得再分配機能があり、消費税増税により社会保障の財源が増えれば、より貧困を軽減することも可能になる。そのことは消費税率が25%のスウェーデンが、世界で最も貧困が少ないことでも実証されている。

 櫻井氏は、「生活保護は受給することが難しい」と主張されているが、生活保護の問題に関しては社会保障学者の間でも見解の相違があるが、生活保護を受給しやすい制度に変えるべきという議論もある。

 生活保護基準以下の所得しかない貧困者に対し、その中での生活保護受給者の割合を生活保護の捕捉率というが、日本が15%~20%ぐらいに対し、イギリスは87%でありドイツは85%~90%といわれている。

 イギリスが、世帯保護率が24.7%で、全世帯の4分の1が生活保護受給しているのに対し、日本では2.2%で50世帯に1軒の割合であり、日本では捕捉率をもっと上げるように、生活保護を受けやすくすべきとの見解の社会保障学者もいる。

 櫻井氏がいわれた自治体の生活保護への否定的な対応に関しては、自治体の財政危機が深刻な中で、生活保護費の4分の1の自治体負担が財政的負担になる。
 また自治体も財政危機より公務員削減の行革をしているが、生活保護世帯が大幅に増加すれば生活保護担当の職員が足りなくなり、人事・業務が大混乱するという理由で、自治体が生活保護支給に消極的になっている。
 生活保護率の高い政令指定都市の市長会が、国に若い世代の生活保護に支給期間の上限を定める有期保護とするように提言までしている。
 地方自治体の財政危機を打開しなければ、自治体の生活保護への消極的姿勢は改まらないだろう。
 ちなみに、2009年の国の生活保護費は約2兆2千億円で、自治体負担は約7千5百億円で、国・自治体で3兆円あまりになる。(防衛予算が約4兆7千億円)
 貧困者の受けやすい生活保護にするには、生活保護予算を大幅に増やす必要があり、その分社会保障費は拡大することになり、今の財政状況からは更なる消費税増税が必要になろう。

 次に共産党の社会保障論の貧困は深刻だと述べたい。最近、共産党は日本の社会保障の全体構想をまったく提起しておらず、全くどのような社会保障をめざすのか分からない。

 また、最近共産党は保育所の待機児を解消するため保育所の大量増設や要介護老人の待機者解消のため特別養護老人ホームの大幅増設を主張しているが、それらの共産党の要求には財源が一切考慮されておらず、共産党が主張する社会保障拡充をすべて行うのに必要な財源は全く提示されていない。他にも大学の学費軽減などの主張をあり、それらをすべて実現すれば消費税20%でも足りないかもしれない。

 政府の「社会保障改革に関する集中検討会議」では、今まで日本の社会保障は若者や現役世代の貧困にほとんど対応できておらず、そういう人々への生活保障の拡充が大きな課題という認識を示しているが、共産党としての若者や現役世代での生活困難者向けの社会保障のありようへの見解は分からない。

 共産党の理論・政策面での後退が著しいとつくづく感じる。
 共産党には社会科学研究所というシンクタンクがあるが、そこは不破哲三氏の使い走りのような機能しか果たしておらず、マルクス研究にしか研究成果がなく、社会保障など今の日本社会の抱える課題への研究成果は皆無である。
 他には共産党のシンクタンクはなく、社会保障の学者の研究と共産党の社会保障に関する政策論との乖離は大きい。

 一方、労働組合『連合』のシンクタンクである「連合総研」や連合内の旧総評系官公労で作る「生活経済政策研究所」などは宮本太郎教授のような日本を代表する社会保障学者を集め、社会保障や貧困問題などの研究活動を旺盛に展開しており、その研究成果は政府の「社会保障改革」に関する議論に大いに生かされている。

 共産党の経済政策に関しても、1994年には『日本経済への提言』を共産党は発行しているが、それ以降世界・日本の経済情勢は激変しているにもかかわらず、それの発刊は途絶えたままであり、共産党は社会保障のみならず・経済政策でも『日本経済への提言』の改訂版を出す組織的・知的力量も後退していると考える。

 だから知的能力が高く、日本の社会保障と税の問題をまじめに考えようとする有権者には、共産党はまともな社会保障のビジョンも実現可能な財源論に裏打ちされた社会保障論も提起できず、そういう有権者にもそっぽを向かれ、この間の選挙での敗北にもつながっているのではないだろうか。この前の消費税問題が焦点であった参議院選挙で政策責任者の小池候補を首都東京(東京の有権者は全国でも大卒者の割合が高いであろう。)で落とすことにもなっているのではないか。 

 最後に櫻井さんへ
 櫻井さんが、消費税の増税が生活困窮する国民の生活をさらに苦しくすると主張されるなら、政府の社会保障改革と消費税増税の議論の理論的支柱である宮本教授の(宮本太郎『生活保障』岩波新書、2009年、800円)を読まれてから、政府の社会保障改革と消費税増税論を批判されれば良いのではないか?