党員用討論欄での記載ですが、一般投稿欄で論評させていただきます。
1、福祉国家に関して
クマさんは福祉国家に関して批判的見解をお持ちであり、「福祉国家論」は、「革新
3目標」と正面から敵対する理論・反動理論という理解をされています。
さて、最近赤旗にも宣伝が出ていますが、井上英雄・後藤道夫・渡辺治(福祉国家と基本法研究会)『新たな福祉国家を展望する』旬報社、2011年10月という本が出版されました。
新しい福祉国家戦略を打ち出すべきという学者党員と共産党系社会保障団体(中央社会保障推進協議会や全労連や全国民医連など)の幹部役員がこの研究会に参加し、この本の出版に携わり、本のテーマにあるように今の日本で新たな福祉国家の実現を目指すという立場でこの本が作られています。
松下政経塾でも民主党でもなく、共産党員学者と共産党系社会保障関係団体が、福祉国家推進を主張しているのが今の状況です。
クマさんの「福祉国家論は資本主義の延命策」という理論前提は、ソ連・東ヨーロッパの社会主義崩壊以降、共産党内でも社会主義ははるかかなた先の課題に追いやられ、「ヨーロッパのようにルールある資本主義の実現を」と主張しているように、当面の課題は資本主義の枠内での改革を主張しており、同じ資本主義でも社会保障が未整備な日本・アメリカより、福祉の充実した北欧などヨーロッパの方向へ社会改革を目指すというのは当然の方向であり、その上で福祉国家論は重要な社会改革の理論枠組みになると考えます。
クマさんは、福祉国家論は理論的に破たんしたという見解を持たれているようですが、その論拠をぜひお示しいただきたいと存じます。
結局、ソ連崩壊以降日本共産党も先進国における社会主義像が全く描けなくなっている状況で、福祉国家論は資本主義の延命策と批判したところで、今すぐ福祉国家論に代わる日本での社会主義のビジョンも存在しない現状では、福祉国家論を排除しては、どういう社会を目指していくのかという目標が不明確化すると考えます。
それからフリードマン等新自由主義者がケインズ理論と福祉国家へ攻撃を集中させ、「大きな政府から、小さな政府」への移行を主張しましたし、日本では新自由主義者の小泉純一郎・竹中路線が最も福祉国家論を敵視しました。
いま世界では、福祉国家解体を主張する新自由主義者と福祉国家擁護の勢力が厳しく対抗した時代と言えるでしょう。
2、消費税に関して
消費税増税以外に、増大する社会保障費を賄える財源があればいいのですが、現状では難しいものと判断します。
共産党が消費税増税反対の論陣を張る際に、意図的に隠しているものが社会保障費の自然増です。日本の社会保障はその多くが高齢者向け給付ですが、この間高齢者が激増し、年金・医療・介護など社会保障予算が、1年で約1兆円ずつ増大する状況が続いています。
1990年度の国の社会保障関連予算が約11兆円だったのが、今2011年度の社会保障関連予算では約29兆円と、20年余りで約18兆円も増加しています。
今の国の総税収が40兆円ぐらいで、社会保障関連予算が約29兆円、生活保護費だけでも国地方で年間3兆4億円の支出で国の税収の1割近くを占める状況があります。
日本の国家財政の概要(2011年度)
歳入 税収 約 40兆円
その他の収入 約 7兆円
公債金 約 44兆円
計 約 92兆円
歳出 国債費 約 21兆円
社会保障費 約 29兆円
地方交付税 約 17兆円
他 約 25兆円
計 約 92兆
歳出総額から国債の償還費と地方交付税を引いた額の残りの約54兆円が国の一般歳出で、その中での社会保障費(約29兆円)の比率は約54%を占めており、国が自由に使える予算の半分以上を社会保障費が占めています。(ちなみに防衛費4兆7千億円・公共事業費4兆9千億円)
今後も社会保障費は、団塊の世代が75歳を迎え、医療や介護支出が激増する時期には、さらなる増加が予想されています。
さらに東日本大震災の復興財源も、多くの支出を要することが明らかです。
また、日本国家は1年間に約92兆円の収入が必要ですが、その中で44兆円もの国債という借金に依存する異常な借金づけ状況です。
ギリシャやイタリアで、財政赤字と累積債務で大きな危機が生じていますが、いつ日本国家が財政破たん(破産)するかもわからない状況です。日本の国債が危険という評価が広がり、銀行や国民が国債を買わなくなれば、日本の国家財政は破綻します。
共産党も消費税増税反対の民主団体も、消費税増税せずに、国家財政を破たんさせずに社会保障を維持し・拡充する具体的財源プランは一切提起されていません。
共産党がよく主張する法人税問題も、今日の経済状況では大幅な増収は望めそうもありません。2012年度3月の決算予想が公表されていますが、パナソニックが4200億円の赤字・ソニーが900億円の赤字が予想されており、パナソニック・ソニーという日本を代表する大企業の法人税はゼロとなる見込みです。
今のように経済状況が厳しく、多くの大企業が経営不振で、赤字決算する状況では、法人税収は低迷します。
消費税が第一次大戦時の戦費調達のためドイツ・フランスで導入されたとの指摘ですが、日本の厚生年金は1941年(昭和16年)に太平洋戦争の戦費を調達する目的で成立しましたが、今は日本の社会保障制度の根幹として機能しています。
今のドイツ・フランスの消費税も、日本の厚生年金も、第二次大戦後戦費調達のための制度から、社会保障を支える制度へと歴史的に性格を変えています。
消費税は貧乏人からむしりとるという主張をされていますが、北欧のスウェーデンやデンマークは消費税25%の国ですが、消費税収が貧困を緩和するために社会保障財源として使われており、OECDの貧困率データ―では、世界で最も貧困の少ない・平等な国と評価されているところです。(貧困率で日本は15%程度に対し、スウェーデン・デンマークは5%程度)
また、ヨーロッパ諸国は20%程度と消費税が高い国が多いですが、大学の学費も無償の国が多く、高い消費税収が、大学学費の無償化にも使われています。日本で私学なら大学学費は年間100万円以上となっていますが、年収300万円の家庭が、年100万以上の学費負担することは、年収1000万円の家庭が100万円の学費負担するより、より大きな負担といえるでしょう。
日本でも、最近は高齢者ばかりの社会保障から、青壮年層を対象とした社会保障の拡充をはかり、若手のワーキングプアなど貧困の軽減を図るべきという主張がありますが、消費税増税で社会保障費全体を増やし、若手のワーキングプア対策などの施策を充実するという主張は正当性があると考えます。
次に軍事費の問題ですが、日本の防衛関連予算は約4兆7億円で、約29兆円の社会保障費に比べ少ない割合です。東日本大震災の時は、自衛隊が救難・救援活動に大活躍しました。約10万人の自衛隊員が被災地に派遣されました。クマさんの主張のように日本に自衛隊がなければ・防衛予算がゼロであれば、もっと人的被害は拡大したことでしょう。 自衛隊員や自衛隊のヘリコプターやトラックなどの車両が、被災地での救難活動に大活躍したことはテレビ放映されているところです。そのような自衛隊員の人件費もヘリコプターやトラックなどの装備代も、防衛予算から捻出されていることも踏まえなければなりません。
クマさんが、どうしても消費税廃止を主張されるのであれば、毎年1兆円を超えて増大する社会保障費をどう賄うのか、1000兆円を超えるという日本の国の累積債務をどうするのか、具体的財政プランをぜひ提起していただきたいと思います。
それなしに、消費税廃止を主張されても絵に描いた餅にしかすぎません。