財政赤字を解消するためには、消費税増税が必要だという議論がなされてい
る。しかし、財政赤字の原因に対する議論は皆無だ。
日本の財政が急速に悪化したのは、中曽根内閣のプラザ合意以降である。だと
したら、日本の財政赤字の原因はプラザ合意にあると考えるのは当然だろう。プ
ラザ合意とは何だったのかそれ以降、政府の政策がどのように変わったのか、そ
れを分析、把握しない限り、財政赤字の解決は不可能だろう。
しかしながら、今おこなわれている議論は、逆進性、益税、消費や景気を冷やし
てしまう可能性、無駄の削減だけである。
つまり、消費税増税を前提として技術的問題と時期の問題を論じているだけで
ある。橋本内閣の消費税増税が、税収全体の増加につながらなかった事やなぜ消
費税の増税でなければならないのかは、全く触れられていない。
消費税が導入されたとき、駄菓子屋さんがインタビューに、子供に、30円50円
の菓子を売るのに、消費税を払えとは言えないと答えていた。この時、多くの中
小零細業者で消費税を転化できる業者がどれでけいるのか
危惧した事を覚えている。しかし、こうした視点に立った議論や出版物は殆ど無
い事が不思議でならなかった。
建前は消費税は広く薄く公平にかかる税金だとされている。しかし、実態は、
消費税は弱い者にしわ寄せが行き、強い者だけが得をする極めて理不尽な税制で
あるだけでなく、非正規雇用を増大させる要素を持つ最悪な税制と言える。
第一の問題点
消費税は弱い者にしわ寄せが行き、強い者だけが得をする点だ。
例えば、年商3000万円の事業者の場合、粗利を15%としてみよう。年間の粗利
益は450万円、一カ月にすると37万5000円。(経費も含めて)
仕入税額控除の要件は、帳簿には課税仕入の「相手方の氏名または名称」「年月
日」「内容」「対価の額」、課税貨物(輸入の場合)なら「引取り年月日」「内
容」「引き取りに係わる消費税額および地方消費税額またはその合計」が。
仕入先に発行してもらう請求書や納品書、領収書等には「書類作成者の氏名また
は名称」「年月日」「内容」「対価の額」「書類の交付を受ける事業者の氏名ま
たは名称」が、
仕入税額控除を受けようとする事業者が作成した仕入明細書、仕入計算書等で、
記載事項について相手方の確認を得たものには「書類作成者の氏名または名称」
「年月日」「内容」「対価の額」が。
課税貨物に関して税関長から交付を受けた輸入許可証等には「保税地域の所轄税
関長」「引取り可能になった年月日」「内容」「課税貨物の価格並びに消費税額
および地方消費税額」「書類の交付を受ける事業者の氏名または名称」が、それ
ぞれ、記載されてなければならない。
帳簿や請求書等の書類の保存を義務付けられている期間は課税期間の翌日から
七年二カ月。要件が満たされていなければ、税額控除が否定される。しかし、
たった月額の粗利が37万5000円程度では、専任の記帳者を置く事は不可能だ。
さらに、よく、益税だとか、預り金だとかいう議論がある。
しかし、消費税を転化できている中小零細企業がどれだけ在るのだろうか。
価格決定権は強い方にある。中小企業庁の調査によっても、完全に転化できな
い企業が、半数以上なのだ。
これでは、消費税は、国税のあらゆる税目の中で、最も滞納が多い税金になる
のは、必然だろう。なんと、滞納税額全体の45.8%占めている。
これでは、消費税が、益税や預り金どころか、多くの中小零細業者にとって、
自腹、持出しを意味しているのでは、ないだろうか。
5%の消費税でさえ、この状況なのだから、10%になったら、消費税を転化出来
ない中小零細企業の倒産は続出する事だろう。
赤字になっても消費税を納付しなければ差押えを受ける中小零細企業に対し、
支払ってもいない消費税分を、数千億の単位で還付してもらえる大企業がある。
消費税分を価格に上乗せできない下請けが自腹を切らされた税金が、国庫を一
瞬だけ経由して消費税分かそれ以上の値引きを強要した輸出大企業に還付されて
いく。
第二の問題点
消費税は派遣社員の増大をもたらす。
消費税の納税義務者は仕入のために支払った消費税額を差し引いた金額を税務
署に支払っている。この際、税務署に納める税額からなぜか「給与」は差し引け
ない事になっている。つまり、仕入控除の対象になっていないのだ。しかし、同
じように労働者に役務を提供させて報酬を支払うのに、仕入控除の対象にする方
法がある。
正社員に支払われる給与は仕入控除の対象にならないが、派遣社員の報酬だと
仕入控除の対象となるのだ。
必要な労働力を派遣、請負、外注する形にすれば、大幅な節税ができてしま
う。ましてや、金融機関や大企業の多くは、社員の大半が出向社員で100%出資の
子会社を設立している。資本金千万未満の有限会社は設立して2年間は、消費税
の納付義務は無い。2年毎に別の派遣会社にすれば、永久に消費税を払わなくて
もすむのだ。
親会社だけへの派遣は禁止されているが、親会社への派遣を中心とすれば、グ
ループとしては、消費税を全額支払わなくてもすむわけである。
ただでさえ、派遣社員の多くは、報酬が低い、その上、厚生年金等、正社員な
らば、企業が負わなければならない負担が無くなるわけだ。
消費税が5%に上がって以後、急速に正社員が減少している。
派遣社員の報酬全体の消費税率分だけ消費税の納付額が減る事になる。同時に
厚生年金等も。
消費税が上がれば上がる程、正社員は減り、派遣社員は増えるだろう。
その上、中小零細企業の倒産、廃業は増えるだろう。結果、失業者は増えるだ
ろう。
消費税増税論者はこれでも消費税の増税が社会保障のセーフティネットの充実
につながると言うのだろうか。
この投稿は斎藤貴男氏の「消費税のカラクリ」(講談社現代新書)と消費増税で
日本崩壊(ベスト新書)を参考にした。消費税に関心のある方は、ぜひ読んでいた
だきたい。
最後に「消費増税で日本崩壊」のカバーの文章を引用してこの投稿を締めくく
りたい。
消費増税で破壊される勤労者の生活
税制は一国の価値観を表す。どういう国を作りたいかという為政者の意志が表
れる。
消費税は言われるような「公平」な税金ではない。もともと明らかに大企業優
遇の税制だ。
だが、今回の消費増税論議では、その不公平さにさらに拍車がかかってきた。
かつてあったような所得減税とのセットという「アメ」すらなく、大企業を優遇
するための財源を作るために、ひたすら弱い者から絞り取るという構造が、以前
にも増してあけすけになってきた。生産性の低い人間は市場から退場せよ、「貧
乏人は死ね」と言わんばかりの強者の論理。消費増税で、この国の勤労者の生活
は間違いなく、徹底的に破壊される!