12月25日付大方さんの投稿で、無データの消費税論との指摘を受けましたが、朝日新聞の報道によれば、まず政府民主党は今消費税増税への逆進性緩和策に関して食料品などの軽減税率の適用は考えておらず、低所得者への給付型税額控除方式を検討しているようです。すなわち食料品の軽減税率適用では高額所得者が高級な松坂肉を購入する際も軽減措置が取られるが、高額所得者が高価な肉を購入するのに軽減措置が必要かどうかという疑問が生じます。
諸外国の例では、スウェーデンの隣国で福祉の充実した福祉国家として知られるデンマークの付加価値税率は25%ですが食料品への軽減措置はなく、食料品へも25%の付加価値税が課され、低所得者には社会保障給付で対応するという方向です。
政府民主党が考える方向性は、デンマーク的あり方といえるでしょうし、食料品への軽減税率がなければ、消費税率1%あたり2兆円増収という目安は有効であろうと考えます。
デンマークは世界で有名な酪農王国で、デンマーク人の基礎的食料である肉や乳製品などは、付加価値税25%が課されても日本より価格が安い、とデンマーク在住の邦人が本に書いていました。
デンマークの福祉国家の実情に関しては、デンマークに長期在住する邦人であるケンジ・ステファン・スズキ『消費税25%で世界一幸せな国デンマークの暮らし』角川新書、2010年など参考にしてください。
食料品の価格も大きな問題で、日本のコメの値段は、アメリカでアメリカ産米を購入する約3倍の価格で、アメリカのコメの値段を基準に考えれば日本のコメの価格には、200%の消費税が課税されている勘定になります。
消費税増税に反対するなら、そういう人は日本の食料品の価格の高さこそ問題にすべきだし、それを生む非効率な日本の農業のあり方をもっと問題視すべきではないでしょうか。
私は無条件に外国より食料を輸入せよという立場ではなく、耕地の集約化による大規模専業農家の育成など日本の農業の効率化により、食料品価格の軽減を図るべきという立場です。
次に、大方さんがスウェーデンの事例をあげられましたので、スウェーデン福祉国家に関して議論したいと思います。
大方さんは、私が消費税だけでスウェーデンの福祉国家が維持されていると主張していると誤解されているようですが、私はそういう主張はしていません。
日本とスウェーデンの租税負担率を見てみます。(2007年対GDP比)OECDデーター
日本 個人所得税 7.6% 法人税 6.5% 消費課税 6.9% 資産課税 3.6% 計 24.6%
スウェーデン 個人所得税 19.9% 法人税 5.1% 消費課税 17.4%
資産課税 5.3% 計 47.7%
両国を比較すれば、スウェーデンの租税負担率と中でも個人所得税率と消費課税率が日本より格段に高いことが分かります。 基本的に、スウェーデンは所得税収と消費課税税収が格段に多く、この二つが主な福祉国家を支える税と言えます。
ではなぜスウェーデンの所得課税が多いのかを解くカギは、スウェーデンの就労構造にあります。
スウェーデンの就業構造は、2000年現在 民間サービス業等47%・公共部門32%・製造業19%・農林水産業2%であり、日本と比べ公共部門従事者すなわち公務員がきわめて多いことが分かります。(藤井威『福祉国家実現に向けての戦略』ミネルヴァ書房、2011年)
公務員の内訳をみれば、国5%・県(主に医療を担う)6%・市21%となっており、全就労者の2割以上が市職員です。スウェーデンの市は、福祉・保育・教育(大学教育を除く)を担当しており、市職員の73%が高齢者介護・保育・教育等の社会サービス職員で、全市職員の約8割が女性といわれており、市が女性の就労の機会の多くを生み出しています。
日本の女性就労は、M字型雇用といわれ、学卒後就労し、多くが結婚・出産・子育てを機に退職し、子どもが成長したら働き出すという就労パターンが一般的です。
子供が成長し働き出した女性の多くがパートなど非正規職がほとんどで、特殊技能を持たない人は、時給800円台・年収100万円台の人が多く、所得税や住民税も払わない人が多数を占めています。
それに引き替え、スウェーデンでは出産・子育て期に女性の就労率がほとんど落ちない高原型で、多くの女性が地方公務員として就労しています。
日本の税制でも、夫婦で公務員で、夫年収500万円・妻年収500万円の家族は、夫年収500万円・妻がパートで年収100万円の家庭より、多くの所得税・住民税を払うこととなります。
スウェーデンの税制では、国税の所得税は高額所得者のみですが、地方税(県税・市税)が所得額に関係なく所得に均一に31.44%(2008年現在・前掲書)課税され、それがスウェーデンの自治体が担う福祉や教育や医療を支える財源となっています。
スウェーデン福祉国家は、福祉水準が高いというだけではなく、福祉・教育・医療など社会サービス関係の職を地方公務員で担い、多くの女性がそれなりの賃金を受け取り、税負担もできるように制度設計されています。福祉国家拡充と共に、女性を低賃金職ではなく中間所得者となるように公務員が大幅に増やされてきました。スウェーデンの公務員の全就労者に占める割合は、福祉国家充実前の1965年は全就労者の15%が、福祉国家充実期に大幅に増加し、2000年で全就労者の32%を占めるまでに激増しました。
日本のホームヘルパーなど介護職は低賃金職の典型で、福祉の労働を安上りの労働として確立してきた状況と異なり、スウェーデンは公務労働として確立してきました。
このような公務労働者の多さがスウェーデンに限らず、北欧諸国(他にデンマーク・ノルウェー・フィンランド・アイスランド)の特徴であり、福祉国家研究の世界的権威者であるエスピン・アンデルセンが北欧諸国を社会民主主義型福祉国家(社会民主主義政党が福祉国家建設の主導権を握ったという意味)と類型区分しましたが(『福祉資本主義の三つの世界』1990年) 、その特徴の一つが福祉関係の公務員職場に多くの女性が進出し、それなりの税負担をできる中間所得者を大幅に増やし、重い福祉国家の税負担を支える社会基盤を確立したことです。
スウェーデンなど、北欧の福祉国家の負担は一部の大企業や大金持ちだけに担わすのではなく、国民みんなが税負担できるような社会システムを組み込み、国民の多数が福祉国家を支える重い税負担を担っています。
日本の場合、かつて革新自治体が全盛期という時期もありましたが、日本の革新・共産党は福祉分野の公務員労働者を大幅に増やし、女性の所得を増やし、税負担能力を向上するという北欧の社会民主主義者のような戦略はなかったように思います。
最近では、日本全体が・共産党が首長や与党の自治体を含め、正規の公務員を大幅に減らし、低賃金の非正規職員に置き換えるという行革が進行しています。
日本では、スウェーデンのように、公的セクターを中心に良質な雇用機会を生み出し、中間所得者を増やし、国民の税負担能力を高めようという発想・動きは皆無といえるでしょうし、今の日本のように公務も民間も雇用の劣化が進む状況では、所得税収を大幅に向上させることは難しいと判断します。
そういう状況の中で、日本の今日の財政状況を見れば、昨年年末に売り出されたイタリア国債が売れるかどうか、世界中の注目を集めたという状況は他山の石ではないでしょう。
これ以上の日本の財政赤字を放置すれば、日本のデフォルトというのも現実味を帯びるでしょうし、そうなれば多くの国民がより大きな痛みを負わなければならなくなります。
大方さん、消費税増税に反対されるのはいいのですが、それなら消費税増税以外の方法で財政赤字の解消・プライマリー・バランスの黒字化の具体的対案も提起されるべきではないでしょうか。
それなしに、消費税増税に反対されても、日本の財政赤字をどうするつもりと逆に質問したくなりますよ。