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吉本隆朗氏は「偉大な思想家」なのか?

2012/3/17 櫻井智志

 マスコミ、新聞、テレビは一斉に吉本隆明氏の逝去を大きく伝えた。 テレビ局のTBSニュースワイドショーでは、石原都知事さえ出てきて 吉本氏を論客として讃えてみせた。

 私は、詩人としての吉本氏は評価する。しかし、彼は思想家などといえ るものではないと考える。戦後直後の左翼の戦争責任論、60年安保の 突出的なブランキズム(一揆主義)礼賛と社共批判、70年安保では、 反共産党系の学生や若者たちの異議申し立てを讃えて、「共同幻想論」は 若者達のバイブルとさえ言われた。新左翼系の学生運動については批判を 保留するが、その後の国際的な核廃絶運動では反「反核運動」を提唱した。 とても思想家とよぼる代物ではない。

 思想家と言われるほどの存在は、体制にとっても強い不審感をもたせる から、マスコミがそれほどまでに騒ぐ場合には、偽の思想家であることが 多いと考える。古在由重、吉野源三郎、石堂清倫、丸山眞男、芝田進午。 このなかでマスコミが大騒ぎした人物がいただろうか。

 歯の浮くような新聞やテレビの吉本氏絶賛を読んだり聞いたりしている と、吉本ばななのお父さんとしての「最高にいいお父さん」というメッセ ージが大きくスパークしている。

 思想家とは何なのか。小難しい理論家や哲学者のことを言うわけではな い。それでも、時代の課題に挑戦するような人物だろう。時代の思想的課 題に迫るだけの営みを続けた人間であろう。
 吉本隆明氏は既に鬼籍に入られた。死者にむち打つことは、あまり気分 のよいものではないけれど、今回の吉本フイーバーのマスコミ論調を見て いて明確なことがある。マスコミが騒ぐような公人は、体制維持の体制保 守の人間であることが多いということだ。

 いとこが大学生の頃に、民学同という共産党志賀義雄派の「日本のこえ」 系列の学生運動に一時期参加していた。彼は、「言語にとって美とは何か」 を良かったと薦めた。それは学生運動とは別に、英語学の学生としての興 味からであった。70年安保までは、「反体制」のシンボルとも言える存在 であったかも知れないが、その後の埴谷雄高との「論争」などあまりに酷く 急速に吉本人気は失速していった。逝去によって、名前が喧伝されているが たとえば保守主義者であれば、江藤淳、川端康成などの水準にまで吉本隆明 氏は達していないと思う。江藤淳の清水幾太郎批判、川端康成の戦前のエピ ソード~川端氏はハンセン氏病と闘って隔離施設から小説「命の初夜」を書 いた北条民雄を励まし訪問し、世に送り出した。また蔵原惟人をかくまった 史実もある。

 保守とか革新とか色分けする前に、どれほどの人物かを見極めぬままに 思想家礼賛する無責任なマスコミの論調は、国民をイデオロギー管理する のに好都合なのではあるまいか。