マスコミの論調は、参院選までは安倍政権は経済問題対応に取り組み、改憲に
は慎重で参院選以降に一気に取り組むという内容である。私もそれに反対ではない。
けれど、参院選までのソフト・スマイル路線のような現在も、安倍内閣の危険
な行政は油断してはいけない性質の政治である。
改憲は、改憲の策謀それ事態にとどまらない。基本的人権の尊重、議会制民主
主義の徹底、平和国家の外交戦略。現在の憲法の三大原則である。既に安倍政権
は、その三点だけに限定しても、三大原則を崩壊させようとしている。
①「基本的人権の尊重」への攻撃
国民は等しく人間的生活をおくることが可能なものとするよう、政府はそのため
の施策を遂行する義務がある。けれど、不幸を背負って生活保護を支給されるべ
き民衆に対して、その内容を著しく低下させて、より生活の困窮度を日ましに高
めるような弱者切り捨て施策を安倍政権は一気に進めている。
また、福島原発事故による想像を上回る一家離散や放射能濃度の強い影響のあ
る現地から避難したくとも避難できない家庭への援助、経済生活への打撃はあま
りに酷い。パフォーマンスとして安倍総理は福島に行ったが、その政策そのもの
は全く「福島難民」とも言える国民への保証を行っていない。復興庁に一元化さ
せて復興を迅速に行うと述べたが、東日本大震災 からすでに二年近くなろうと
しているのに、避難者住宅に住む民衆の中には孤独死にいたる老人もいるし、生
活再建のめども立たない庶民もいる。
さらに福島原発そのものがいまだ原発事故が続いているといってよい危険な現
場で働く労働者に、暴力団の利権がからんだり、安全な防御を行わずにごまかし
て危険な作業で働かせてきた。原発事故収束のための労働は、危険手当など労働
者にきちっと支給せずに中間搾取を行われても、なんら政府の対策は無策である。
このように生活保障における日常の惨憺たる対策は、自民党政権が長年開発し
てきた原子力発電所の頻繁な開発に原因がある。決して民主党政権時代の開発で
はないことを銘記しておく必要がある。生活保護の安易な切り捨ても、民主党鳩
山政権当時に取り組まれた生活保障政策とは真逆の政治である。
さらに、自民党安倍第一次政権のもとでなかば強行的に改悪された教育基本法
の延長線上に、教育政策の著しい反動化が現在一気に加速されている。教科書統
制、教育委員会廃止、国民の教育権思想からの乖離による国家統制一元化、競争
主義教育の推進と落ちこぼしの大量生産。どれもこれも、憲法と一体化であった
教育基本法改悪に象徴的に表れている。さらに教育の管理主義は、国民に対する
国家主義イデオロギー教化政策の一端である。大手マスコミの体制内取り込みに
よる報道の恣意的な権力への迎合とともに、教育の教化主義化は、改憲策動を開
始する前から、日常的に国民を誘導し、国民の希望を失い「洗脳」する結果を生
むだろう 。そのことがたやすく改憲を突破させる素地となろう。
②「議会制民主主義の徹底」からの逃走
すでに小選挙区制度が敷かれてから、国民の民意と国会議員の人数とは乖離し
た状態が続いている。国会衆議院の三分の二を占める自民、公明両党政権与党
は、有権者国民の三分の二どころか有権者の過半数の支持も得ていない。
さらに2012年12月の総選挙では、選挙そのものへの疑念や不審感が出て
きた。ひとつは、午後七時までの投票時間が場所によっては、周知徹底をなさず
に午後六時で打ち切った。このため老齢層のかたがたをはじめ、投票できなかっ
た有権者が続出した。
さらに定評のある政治評論家本澤二郎氏が明快にした選挙投開票を全国一手に
引き受けた専門会社「ムサシ」による投開票事務の不明朗さは、選挙の投開票事
務の集 約段階で著しい疑念を有権者に持たせるような事態を国民に知らしめ
た。それが単なる疑念なのか、それともなんらかの問題点は実際にあったのか。
アメリカやカナダなど諸外国でも国政選挙などでの投開票事務で問題が発生し
て、選挙そのものの見直しさえ行われた例がある。「まさかぁ!?」と思うの
が、国民の率直な感想であろうが、全国各地で「議会制民主主義」の根幹である
選挙の公正な集約についての疑問は、明確に否定されるまできちんとした解明が
なされる必要がある。パク・ミョンヒ大統領がキム・デ・ジュン候補と決戦に
至った韓国大統領選挙をはじめ、ミャンマーやフィリピンなどアジアでも大統領
選挙、国政選挙などにまつわる不正は前例がある。アメリカでも親ブッシュ共和
党大統領候補 とマクガバン民主党大統領候補の決戦で、投開票の集約段階で問
題が発生して、最終決定までに開票日から1週間前後の空白期間が発生したこと
は、記憶に今も残る。
以上、集約するに、小選挙区制度の吟味改定と選挙投開票事務の吟味徹底である。
さらに、財政逼迫下の状況と言いながら、莫大な国家出費の「政党助成金」など
は、その制度が誕生した時期に比べて、政府予算をめぐる経済状況の激変を経て
もいまだ継続する意味があるのだろうか。
③「平和国家の外交戦略」からの失墜
ポピュリストにしてファシスト政治家石原慎太郎氏がぶちあげて自民党野田派
と目された野田佳彦氏が「国家として買い上げた」尖閣諸島問題は、実に愚かな
行動だった。愚かなばかりでなく、危険な国家主義的愚策でもあった。このこと
で、中国と日本の間で長年両国関係の安定のために「不問に付され続けてきた」
外交問題が、両国の衝突問題へと変質させられてしまった。安倍総理は「尖閣諸
島は日本固有の領土であることは言うまでもないことだ」と公言しているが、こ
こにこの総理の危険な膨張主義ナショナリズム政治観が端的に表れている。
日本の総理はここしばらくの間、世界の首脳が集まる外交会議でも、他国の首
脳から歯牙にもかけられていな い。原因は何か?アメリカの言いなりで、アメ
リカに自国の主張ひとつ言えない日本は、世界の諸国からまともな独立国家とみ
なされていない。アメリカには忠犬ポチで、韓国や中国には居丈高な尊大態度で
振る舞う日本政府が、どうしてアジアのリーダー国として尊敬されるはずもない。
いままで「NOと言えない日本」と主張して、アメリカに対して日本の主張を
述べるべきだと唱えた政治家や財界人が、アメリカ要人に会ったとたん手のひら
を裏返したように、アメリカの言いなりに動いている。
私は、アメリカの言いなりにならないで日本独自の軍隊を持てというつもりは
ない。ただ、日本独自の軍隊をもったら、国内の米軍基地を全部アメリカ本土へ
撤退させると決定したとしたら、日本の排外 主義政治家はどうするつもりだろ
うか?第一アメリカ軍部とアメリカ政府とアメリカ支配層は、どのように考えど
のように対応するだろうか?
外交政治の困難な課題は、安易な拙速さに注意して対応すべきでる。アメリカ
に言いなりにならないで日本独自の外交政策を追求して、徹底的な謀略に追い込
まれたのが、鳩山由起夫民主党総理と小澤一郎幹事長であったと私は認識してい
る。今後も同じ政策を追求したら同じ目にあわされる見せしめの効果をねらった
両氏の失墜である。
けれど、日本が言いなりに従っているアメリカ合「州」国もいつかは落日す
る。パックス・アメリカーナは、ローマ帝国のパックス・ロマーナのように、永
久の繁栄ではない。日本が世界諸外国と対等互恵の平和共存外交を確 立保持し
ないかぎり、軍事大国どころか軍国主義に陥り続けた末には、「ニッポン亡国」
の危険性も仮想のものではなく現実性のある危険であることを、安倍政権とそれ
を支える大手マスコミは熟知すべきである。
以上三点に絞って考察したが、そのような安倍政権に反軍国主義の民衆はどう
対抗すればよいのか。いくつかの対抗戦略は考えられる。きわめて基本的なこと
は、「タブーをつくらずに発言する」ことだ。ひとつひとつの問題政治、問題政
策に批判的精神を失わずに自らの考えを表明することだ。たったひとつの
「NO!」でも、国民を「束ねたい」政府には、突出して目立ち、その反対意見
をも「束ねる」ために弾圧しようとするだろう。それでも、どよめく草の根の動
きがやまなければ、やがて政府は国民の信託に由来する民主政治の根本の正統性
を失う。参院選後の改憲ダッシュ・スケジュールに向けて、経済不要政策の厚化
粧をしていても、改憲の本音は透けて見えている。
日本社会の崩壊を 阻止するためには、日本に住む民衆が意思表示すること だ。だまだ勇気ある無名の民衆は数多くいる。民衆を信頼して一歩一歩進んでい くことが、最終的には憲法擁護の、世界史を継承する世界人権宣言思潮の、人類 の生存と前進と合致した深く長き大河に注ぐ一粒のしずくとはなり得るだろう。