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一般投稿欄

民族問題・大手マスコミ・知識人

2013/2/23 櫻井智志

新聞報道の仕方で、大きな反応の違いがある。 特に朝鮮学校への民族的差別と対応は、拉致問題の頃から酷くなっていたが、朝鮮「民主主義人民共和」國の核実験報道以降にさらに強い先入観に基づく対応と国民の意識の変化が感じられる。そのことを以下に示す事例から知ることができた。さらに知識人が深い示唆を与える見解も示している。
@毎日新聞記事とそれを読んだ読者側の反応

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川崎市:朝鮮学校に横田さん著書支給へ 補助金未執行分で
毎日新聞
 川崎市の阿部孝夫市長は19日の定例記者会見で、市内の朝鮮学校2校に対する今年度分の補助金のうち未執行の計約300万円で、北朝鮮に拉致された横田めぐみさん(行方不明時13歳)の父滋さん(80)と母早紀江さん(77)=同市川崎区=の著書などを購入し、現物支給することを明らかにした。北朝鮮の核実験を受けての措置という。
 市は今年度予算で、教材費や研修費などの名目で2校に対する補助金計840万円を計上していた。阿部市長は「北朝鮮への抗議の意志を示し、朝鮮学校で勉強している人にも拉致被害者救済のキャンペーンに参加してほしい」と説明した。
 来年度の補助金は今年度と同じ840万円を計上すると表明し、「子供に責任はなく、川崎市民であるので教育の保障をしていくことは重要。(補助金を予算計上しない神奈川県などのように)教育そのものへの支援をやめるのは極端だ」と述べた。
 一方、南武朝鮮初級学校(同市高津区)は取材に「びっくりした。補助金は授業料に充てられており、保護者の負担が増えて困る」。早紀江さんも「驚き、困惑している。朝鮮学校の子供たちに罪はないが、北朝鮮の出先機関と言われている学校なので、この対応が正しいかどうかは判断がつきかねる」と話した。
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この記事を読んだ読者は以下のようなメールをあるメーリングリストで書いている。念のためにおことわりしておくが、この読者は知識もあり、社会的問題にも関心があり、おだやかな人物である。右翼的潮流やネット右翼とは正反対の人物である。

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陰湿であさどいイジメ、嫌がらせ行為を平然とやってのけて恥じない川崎市!
そもそも子どもたちが「拉致」「核実験」と何の関係が有るというのでしょう か!?
ただでさえ日本人よりも教育への補助金が少ないのに「補助金で現物支給」とは!?
差別は止めないくせに、忠誠心の強要だけは執拗に行なう日本。
「子供に責任はなく、川崎市民である」という口こそが、実にイヤラシイです。
江戸時代のキリシタンに対して行なっていた踏み絵よりも悪質な、人間の心を ナイフでえぐるような行為です。
(補助金の実質的減額であるだけでなく)差別的なスティグマの焼印を押す行為です。
行政が率先して在特会以上のイジメを行なっているのです。
人としての感覚が、もはや壊れています。 アメリカン・スクールへの補助金の一部も(お前らも共犯者だと言わんばかりに) 「原爆」書籍の「現物支給」に振り替えるというのでしょうか。
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その読者氏は、そのような憤りを感じているのは、正直な感情の発露だろう。
A東京新聞の報道
 ところが同じ事柄について、東京新聞全国版社会面はこう伝えている。

=============================== 朝鮮学校の補助金に拉致問題啓発グッズ    予算は新年度も計上
東京新聞
 北朝鮮の核実験を受け、川崎市の阿部孝夫市長は、市内の朝鮮初級学校二校の本年度分補助金の一部を、拉致被害者救済の啓発グッズで現物支給すると、会見であきらかにした。
 朝鮮学校向けの補助金は、神奈川県の黒岩祐治知事が、新年度予算に計上しない方針を示しているが、阿部市長は、市の補助金については新年度分も計上する考えを示した。
 現物支給は4月交付予定の下半期分の一部で、拉致被害者・横田めぐみんの家族の著作や支援団体作成のDVDなどが候補。児童の家庭一戸あたり数千円分が補助額から差し 引かれる見込み。
 市は児童1人当たり月六千円。年約七百万円の児童保護者補助金を組んでいる。阿部市長は「子どもに責任はない。一挙にゼロは、極端すぎる」と述べた。
 阿部市長は、「核実験にも抗議しているが、市は横田さん救出にウェートをかけている。市民の多くが見ているものを見て理解してもらい、救出に協力してほしい」と語った。横田さん一家を支援する「あさがおの会」(川崎市川崎区)の田島忠代表は「私は県の補助金ストップに賛成だが、市の現物支給も拉致問題解決につながる意思表示になるなら評価する」と話す。
 川崎朝鮮初等学校(同区)の金龍権校長は「市から直接詳細を知らされていない段階を知らされていない段階でコメントを控えたい」としつつ、市長の「ゼロは極端」発言には「私たちの思いと同じだ」と語った。
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 私は読み比べて はっとした。
東京新聞は川崎市川崎区の川崎朝鮮初等学校の校長発言を伝えている。毎日新聞は川崎市高津区の南武朝鮮初等学校のこえを伝えている。二つの初等学校。実は朝鮮総連系と民団系と二つあるのだ。
 毎日紙でもきちんと報道しているのに読者の印象では、隅においやられていることがある。神奈川県は朝鮮学校向けの補助金を新年度予算をゼロにした。川崎市は新年度も予算を継続している。そのことを読者はどうお考えになるだろうか?
B歴史教育者の慧眼
 後日この問題についてすぐれた論評を読んだ。琉球大学名誉教授で教えていた歴史教育の専門家嶋伸欣氏の見解である。的確な論評により問題の本質が明らかにされている。

【以下転載】

川崎市による横田さんの本支給の評価は慎重に

 皆さま 嶋伸欣です

 川崎市の阿部市長が、市内の朝鮮初級学校2校の本年度分補助金の一部を、拉致被害者家族の横田さんの著書 などの現物配布に当てると発表した件について、厳しい批判の声があるようです。 けれども、この件の評価は、慎重に事態を見極めてからにしたいです。
 その理由は、
1.核実験などを根拠として、これまでの援助をやめる自治体が増え、神奈川県の黒岩知事も新年度予算への計上をしないとした最近の状況下で、「子どもに責任はない。一挙にゼロは極端すぎる」(『東京新聞』20日朝刊)として、多少の減額になっても、ともかく補助を実行する方針を明確に示していること、
2. 補助の実施に対しては、保守派などから強い反発が予想されるので、それに対する説明として横田夫妻の著書などをその予算の一部で購入し「北朝鮮への抗議の意思を示し」云々との意味付けをするという、巧妙な手立てを盛り込んでいると読み取れること などです。
 さらに、上記の『東京』の記事には、「現物支給の候補になる見込みの横田めぐみさんの家族の著作など」として、『めぐみへの遺言』(幻冬舎、2012年4月、新書版、1000円)の写真が添えられています。
 記事によると、どの本にするかはこれから決めるようですが、横田さんの両親共著のものは少なくて、最近ではこの幻冬舎版ぐらいしかありません。もし、幻冬舎版に決まって、これが朝鮮学校の生徒に配られ、保護者も読むことになったとしたら?
 実は、同書の中で、横田滋氏が、拉致問題を理由とする朝鮮学校叩きは「筋違い」、「単なるいやがらせ」、「『拉致があるから出すな』という主張はおかしい」などと、明確に補助停止に反対の意見を表明しているのです(198〜199ページ)。
 同書の発行以後、『週刊朝日』2012・5・18号と『週刊金曜日』2012・6・15号がこの発言部分を補強するインタビュー記事を載せました。後者の記事には「こどもの権利条約というものもあり、朝鮮学校の子にも権利がある」という滋氏の発言が、あります。
 ただ、どちらの記事も幻冬舎版の書名を明らかにはしていません。重要な発言が初めて公になった本であるだけに、その存在があまり知られていないのを、私は残念に思っていました。
 それだけに、今回の川崎市の措置で、この幻冬舎版に関心が集まり、この横田滋氏の考えが広く知られる機会にもなるのであれば、日朝関係を冷静に考えるべきだということに、多くの人が気づくきっかけにもなるのではないかという期待もあります。
 「家族会」は、横田氏のこの発言以後、制裁強化一辺倒から話し合いの機会の構築と維持重視に大きく転換しています。昨年8月末の課長級会談から11月の局長級会談へと事態が進展したのを、同会の代表たちが歓迎し、12月5・6日に開催と決定していた2回目の局長級会談が、人工衛星打ち上げ予告を理由に1日に野田首相によって延期と決定された時にも、強く反発した見解を表明しています。以前の「家族会」では考えられないことです。わたしは、横田滋氏がその変化の露払い役を果たした、と解釈しています。 それだけに、幻冬舎の本がほとんど知られていないのを、残念に思っていたというわけです。それが、今回の川崎市の対応によって注目されるのであれば、それはそれで評価をしたいのです。
 ところで、横田氏の発言に対しては、制裁強化路線の「救う会」や安倍政権などから、猛烈な巻き返し、圧力が加えられて横田氏は、かなり苦しめられている模様です。 『毎日』の今回の記事でも滋氏ではなく早紀江氏が見解を述べているだけです。横田氏が「疲れた」と漏らしていると、人づてに最近聞きました。心配です。
 この機会に、少しでも多くの方に幻冬舎版を読んでいただき、横田滋氏のこの勇気ある発言の存在を知ってもらい、周囲にも伝えたり、授業でもふれてもらいたいです。教科書にも記述して良いはずです。
 さらに付言するならば、『毎日』の記事にある早紀江氏の「朝鮮学校の子供たちに罪はない」という発言も、重要です。早紀江氏はこれまで、滋氏の発言に同調していませんでした。それが変わったのだと思われます。滋氏以上に強硬派的な発言を繰り返していた早紀江氏のこの発言は「救う会」や安倍政権にとって、さらなる痛手になると解釈されれば、早紀江氏に対して強烈な巻き返しや圧力が加えられかねません。
 川崎市の今回の決定をどう評価するか、どの本が選ばれるかなども見極めながら、「家族会」が「救う会」や安倍政権などによる強硬路線から脱却しようとしている全体的な動きとの関連にも注目して行きたいと思っています。
 私自身は、川崎市の方針に一定程度の評価を与えつつ、上記の幻冬舎本を選ぶように働きかけるつもりです。皆さまはいかがでしょうか。『めぐみへの遺言』(幻冬舎)を未読の方は是非一度、目を通してみて下さい。
以上 嶋の私見です 転載自由です。
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C 民族問題・大手マスコミ・知識人
 これら全体を通して、私はこう考える。
 安倍政権発足は、自民党内のおだやかな保守政治家を飛び越えて、右翼的潮流に政権を託そうとする支配層とアメリカ政府内の要請を踏まえているだろう。そのような変化の中で北朝鮮・中国・韓国のわずかなことがらをきっかけに膨張戦略を開始しようと虎視眈々とねらっていた。マスコミは、特に大手の新聞・テレビを中心に体制迎合勢力が強い発言権をもち、現場にも浸透して紙面に日常現れている。
 今回の記事の神奈川県知事はフジテレビのニュースキャスターの経験もあるアナウンサー出身である。川崎市長も、革新市長を打破して当選した保守陣営の元大学教授である。
 けれど、同じ問題でも対応にこ れだけの差がある。にもかかわらず、国民は問題の本質を離れて、受け止め方はマスコミのねらいと合致する方向性を帯びつつある。
 そのような動きに対して、歴史教育の専門的知識人が現実問題に的確な意思表示を明確にしている。歴史教育について世界的な視野をもつ大学研究者(もともとは高校教師を経て大学教授となった)が示した発言は、有力な意義をもつ。この問題についての見方を提示している。
 社会の安定した位置にいて、学問研究するのは、学者・研究者である。しかし、自らの知識や研究をもとにして知識の社会的意義を的確な時宜を踏まえて広く世間にアピールできるものこそ「知識人」の実態でなければならない。高嶋伸欣氏の今回の発言に、私は今日的な知識人のあるべき姿を 見る想いがした。