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一般投稿欄

芝田論文「バイオ施設規制の立法化を急げ」の今日性

2013/3/27 櫻井智志

 芝田進午氏が、「バイオ施設規制の立法化を急げ」を執筆されたのは、1999年のことである。今年2013年から14年前のことになる。 だが、十年以上たってますます論文の生命力は生きている。
 芝田氏は、現代は「突発出現ウィルスの時代」であるという。それは、 過去20年間に少 なくとも30以上のエイズウィルス(HIV)、病原性大腸菌O157、エボラ等々の危険性の高い 病原菌が出現したことと対応している。
 だが、わが国でそれらの研究が稼動できないできた教訓を学ぶことの大切さを芝田氏は説く。

 【「BSL4」は「P4実験施設」(Pは「物理的封じ込め」の略)とも呼ばれ、もっとも危険 な病原体・DNAを扱う。わが国には、国立感染症研究所(感染研)の分室(東京都武蔵村山市) と理化学研究所(理研)の2施設がある。だが感染研分室にある施設は使用できないし、茨城 県つくば市にある理研のそれは病原体を扱わない公約なので、ほとんど稼動していない。】

と。

 感染研のp4実験施設が稼動できないのには理由がある。
 1981年、前身の国立予防衛生研究所(予研)が同施設と「P3実験施設」を住宅地にひそかに建 設したので、武蔵村山市と住民が抗議したからである。そこで予研はP4施設の稼動を停止した が、P3施設は稼動を強行しつづけている。
 P4、P3施設では職員が危険な病原体、DNA、発がん物質などを扱うが、自らの安全のため、そ れらを含む空気を強制排出する。しかし、高性能フィルターでも完全に捕そくできないので、そ のような排気を人のいる建物には流してはならないとWHOは規制しているのである。
 芝田氏の論文はこう続いている。

【 P3、P2実験室(日本脳炎、肝炎、コレラ、大腸菌O157等の病原体を扱う)の「物理的封じ込 め」の性能はよりルーズで、P4施設と同様、住宅地での立地は周辺住民にとって危険であり、建 築基準法の精神に反している。このような教訓と国際基準にもかかわらず、予研は86年、住宅や 早稲田大学、障害者施設、災害時避難地に隣接する新宿区に移転することを発表したが、多数の P3施設、P2実験室を設置することを隠していた。87年、それが発覚して住民らと早大が安全性に ついての説明と情報公開を求め、新宿区議会も建設強行反対を申し入れた。だが予研は説明も情 報公開も拒否し、機動隊の力で建設を強行した。そこで、私を含む住民、早大教授、障害者代表 ら原告200人が実験差し止めを東京地 裁に提訴し、現在も係争中である。】

と。
 1998年12月に、品川区の予研の旧跡地が放射性物質やダイオキシン、有害化学物質、重金属など で汚染されていたことが発覚し、表土の入れ替えが必要と報道された。病原体・遺伝子組み換え施 設(バイオ施設)は有害化学物質排出施設でもある。住宅地がそのような施設の「適地」だといえ るのか。
 海外でもアメリカやカナダでは、バイオ施設は住宅地では設置が許されていない。砂漠のど真ん 中でさえも実験施設を建てる場合には環境影響評価を発表し、公衆の合意を得なければ設置できな い。イギリスやドイツでも、バイオ施設は法律による届け出義務・認可・査察の制度が確立してい る。WHOも病原体実験施設を住宅地、公共施設からできるだけ離して立地すべきだと指示している のである。にもかかわらず、先進国中、日本だけはバイオ施設が野放しの無法状態にある。 全国でバイオ施設がどれだけ、どこにあるか把握できないと、当時の環境庁長官らも認めている(1996年2月28日の参議院環境特別委員会)。
 銃砲刀剣、爆発物、毒薬、劇物、毒ガス原料、核物質などは法律で規制されている。:けれど、 病原体とその施設についてだけは日本では規制の法律もない。オウム真理教集団が炭そ菌・ボツリ ヌス菌を培養、散布して失敗したが、培養を規制し散布を処罰する法律もなく、バイオ施設の届け 出義務も安全対策の査察・罰則の法律もない。
 バイオ時代の感染症に対処するためにも、バイオ施設の立地条件、届け出と査察、住民合意の必 要などを盛り込んだ法律の制定が緊急の課題である。2011年に、福島原発では東日本大震災により 甚大な原発事故が起きた。このことは二重の点で大問題を私たちに認識させた。
①もし東日本大震災のような地震が国立感染症研究所のような実験施設を襲った場合に、その被害 は防止されるような仕組みは保証されているのか。
②核物質は法的に規制されているが、非常事態のもとで核燃料棒その他原発に関わるさまざまな危 険な物質についての十分な管理と保安の施設的対応と人的な救急体制はどうなのか。
 さらにもうひとつ。
 現在住宅街で早稲田大学などの文教施設、国立医療介護などの施設とともにそのど真ん中に強行建 設されている国立感染症研究所は、東日本大震災程度の震災が起きた場合には、その安全は十分な 保護が保証されているのか、もしそれがなされていないならば、大震災後に感染研と政府はどのよ うな安全対策の見通しをもち取り組んでいるのか、取り組む用意はあるのか。緊急の課題であるこ とを芝田論文は予見していると言えよう。