「犠牲のシステムから平和の秩序へ~原発と基地問題を考える」
高橋哲哉「平和のためのコンサート第一部講演」(記録文責・櫻井智志)
高橋哲哉氏は、「犠牲のシステム」について研究してきた。ずっと米軍の基地問題を
研究し、沖縄の米軍基地を中心に取り組んできた。けれど福島第一原発四基のうちの三
基が爆発した時に、現状で、日本における原発を「犠牲のシステム」を研究するように
なった。
原発の事故自体が収束していないし、東京にもホットスポットがあり事故と無縁でな
い。原発事故以前は基地問題に「犠牲のシステム」を使っていた。福島第一原発の事故
は、「犠牲のシステム」の典型である。
平和憲法にもかかわらず、沖縄に平和という状況はあったのか。4月28日に政府は
「主権回復」の式典を行ったが、沖縄は大反発した。
1972年まで米軍の軍政下にあった。しかしそれ以降も、日本全国の0.6%の面
積の沖縄県に、米軍基地の広さは、沖縄県がなんと75%もの米軍基地の面積を占めて
いる。
沖縄は、日米安保体制によって犠牲のシステムを被っている。福島原発事故も「犠牲
のシステム」をこうむっている。誰かの犠牲の上に誰かが利益をもうけているシステム。
ドイツは、日本でも原発事故が起こるのだから、と言って脱原発へ転換することを認
めた。
福島にはGビレッジという区域があった。原発事故前からである。そこは、原子力発
電所での作業を行う労働者が居住するため往復している。そこで、ガンや白血病患者も
いたが、原発事故でその地域の存在が表に出てきた。
原発にはウランを必要とする。ウラン鉱山の採掘を行うウラン鉱夫は被曝してきた。
日本でも岡山県にウラン峠があったが、被曝の問題でそこをとりやめ、カナダやオース
トラリアから輸入するようになった。
原発から出る放射性廃棄物には、使用済み核燃料がでる。いま大飯原発以外国内の原
発はとまっているが、再処理でプルトニウムを取り出しウランと混ぜる。使用済み核燃
料への対応や最終処理場の問題がある。
核には、①原発②核事故③被曝労働④放射性廃棄物による危険、の四つの問題がある。
「犠牲のシステム」とは、ある人々の犠牲の上に成り立っている。
ある人々とは、
①核被曝の人々、福島原発事故の影響を受けた人々
②健康の犠牲
③土地、家、財産における犠牲を受けた人々
④いのちの犠牲
⑤人としての尊厳、生きる希望などを犠牲を受けた人々
「犠牲のシステム」は、正常化できない。それは、平和的生存権を奪い、生命・自由・
幸福追求の権利の犠牲を受けている。
このことは、沖縄での憲法否定、憲法の犠牲により人として正常化が困難をきわめるの
と似ている。
4月17日から被災地の新規定値が決まり、立ち入り禁止区域のひとつに
高橋哲哉氏が小学校生活を過ごした故郷富岡町が含められた。被災地の再編
が行われた。帰還困難区域は、1年間に50ミリミリシーベルト以上。
居住制限区域は20~50ミリシーベルト。避難指示解除準備区域が20ミリ
シーベルト以下である。
福島原発事故前の国民が1年間に被曝が許容されるのは、1ミリシーベルト。
この数値はICRPでも認められている数値(1ミリシーベルト)である。
ところが福島原発事故後に日本政府が、子どもを許容値としたのは、20
ミリシーベルトまでは住めますという国の基準を発表した。
原発作業員の限度は1年間に50ミリシーベルト、5年間に100ミリシ
ーベルト。福島県民は、原発作業員なみの放射能にさらされている。
チェルノブイリ原発事故後7年間は1ミリシーベルトだった。ソ連が解体し
ウクライナやロシア、ベラルーシでのチェルノブイリ法は、避難の権利を
提唱した。放射能にさらされたなら、国民は避難する権利をもつので、権利を
行使することができ、公的サポートを受けられるということが、決められてい
る。年間5ミリシーベルトの数値なら、強制避難となる。福島では20ミリシ
ーベルトまではそこに居住できる。なんという違いだろうか。
福島県郡山市の小中学生と保護者が、市に対して「集団疎開」を求めていた
抗告審で仙台高裁は、仮処分申請は却下したものの、低線量被ばくの危険に
日々さらされ将来的には健康被害が生じる恐れがあるとはっきり認めた。
この裁判の一審は、年間100ミリシーベルトをも子どもたちに許容される
というものだっただけに高裁の危険判断ははるかにましといえる。
国や県など行政の判断がきわめて重要である。福島県の健康調査では、
17万人に12人の甲状腺がんの発生がわかった。通常は100万人に2人。
民主党政権時に、細野豪志大臣は、年間20ミリシーベルトを5ミリシーベルト
に下げるべきだと主張した。政府はそれを却下した。
沖縄県では長い米軍基地の歴史がある。宜野湾市にある米軍基地を鳩山首相
は、国外に移す、最低でも県外に移すことを県民に約束した。しかし、妨害す
る勢力のために、孤立無援となり辞職した。沖縄県民は、米軍基地を沖縄に
おしつけ続けたヤマトンチュー(本土)日本人に怒りをもたざるを得ない。
オスプレイ機は、墜落事故が多くアメリカでも問題になっている。そのオスプ
レイ機を沖縄に12機配備した。
安倍首相は、辺野古にすみやかにすすめるとオバマ大統領に約束した。
沖縄県民の心を完全に無視した。
日米安保条約を平和友好条約に転換するべきである。米軍基地を撤退して 本土のヤマトンチューへの批判に応えることが必要である。
憲法違反の状況が福島にも沖縄にも見られ、憲法の外へおかれている。
グローバル化の波は、規制を撤廃し、新自由主義や市場原理をすすめている。
貧困下で若い世代が、正規雇用につけないでいる。日本の為政者は、人権保障
の基準に従って、それらの問題を改正すべきである。
憲法の原則を解体して九条を撤廃させようとしている。4月28日の
「主権回復」式典もこれらの流れの中にあり、安倍政権は九条改憲国防軍設置
を最大のねらいとしている。
世論調査では、「9条を変えるべきではない」が多い。しかし質問があいまい
だと「憲法を変えるべきだ」が多い。今の政府は、96条改憲をめざし、改憲を
発議するための衆参両議院の3分の2以上の国会議員の賛成を過半数の賛成に変
えようとしている。
よく日本は憲法改定の発議のハードルが高すぎるという改憲派の声があるが、
諸外国でもハードルは3分の2以上が多く、一般法の過半数の賛成という国は
ない。憲法は国家権力者をしばるためのものであり、この立憲主義を大切にして
いる。日本国憲法の権利を侵害し、憲法改悪の動きをぜひとめたい。(了)