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一般投稿欄

都知事選挙と脱原発派の敗因について(1)

2014/3/15 丸 楠夫

 原仙作氏の一連の都知事選見解ーそれは少なからぬ一本化論者の見解とも重な るものであろうーの批判的検討を通じて、都知事選と脱原発派の展望について考 えたい。

・原氏(一本化論者)は脱原発派の敗因とその元凶を見誤っている

 原氏は「細川で一本化できていれば、生活の党の小沢も言うように、脱原発は にも十分な勝機があった」(『都知事選における敗因は脱原発派の分裂にあり、 その元凶は共産党のセクト主義にある(その1)』以下『その1』)とし、脱原発派 の敗因について「言うまでもなく、脱原発派の分裂である」(『その1』)として いる。また原氏は、「国民の脱原発政策支持率は約7割あり、脱原発政策を掲げ ながら、左翼嫌いの中間・保守層の脱原発票を取り込めるのは細川」「原発を止 めるにはどうしても脱原発に目覚めた保守党と手を結ばないことには絶対にでき ない」(『その1』)とし、「脱原発の主張を左翼の専売特許のイメージから救い 出すこと」(原『都知事選の前哨戦を見て、細川がベストだ』以下『ベストだ』) の必要性を主張している。また原氏は、宇都宮と細川は「両者は同じ「原発即ゼ ロ」ではあるが、大きな温度差がある」「宇都宮の政策も総花的で平板な印象」 「各種世論調査では、都知事選の争点は景気回復だ、福祉だ防災だという有権者 が多い…(中略)…そうした有権者の意向を反映して、舛添も宇都宮もそちらの方に 主張の重点を置いて」いる(『ベストだ』)、とも述べている。さらに原氏によれ ば、宇都宮は共産党の「「準」自前候補」であり「左翼候補と見なされるのは必 定」(『ベストだ』)の候補者である。つまり原氏の主張に従うなら、「脱原発が 最重要と言う細川」(『ベストだ』)に対し宇都宮は、脱原発に(少なくとも脱原 発政策の打ち出しに)まるで熱意の足りない左翼候補ということになる。
 だとすれば、細川が「脱原発の主張を左翼の専売特許のイメージから救い出」 し「左翼嫌いの中間・保守層の票を取り込」むにあたって、宇都宮の立候補はほ とんど障害にはなり得ないはずである。むしろ宇都宮が立候補せず、堺市長選や 橋下対松平の前回大阪市長選のように(党推薦までは出さないにしても)共産党が ノコノコ細川陣営にくっついて来る(と、多少なりとも有権者に見なされる)よう なことになっていたら(すなわち脱原発派候補の一本化)、それこそ細川は、「脱 原発の主張を左翼の専売特許のイメージから救い出」して「左翼嫌いの中間・保 守層の票を取り込」み、国民の約7割ある脱原発政策支持層を結集する上でとん でもないハンデを背負わされることになっていたであろう!
 あくまでも原氏の主張に従うなら、それが論理的帰結である。
 ところが、なぜか原氏は宇都宮と共産党に批判を集中し、そこにのみ脱原発派 の敗因とその元凶としての責任を負わせようとする。端的に言って、原氏(一本 化論者)はその矛先を向けるべき相手を間違っている。原氏(一本化論者)が真に 敗因・元凶として糾弾すべき相手は『脱原発都知事を実現する会』『脱原発都知 事選候補に統一を呼びかける会』のハズである。この『会』の面々を見れば、鎌 田彗を始めピースボートや週刊金曜日の関係者、前回都知事選で宇都宮支持を表 明した者等々、「左翼嫌いの中間・保守層」からすれば左翼以外の何者にも見え ないであろう人物ばかりである。むのたけじに至っては記者会見で三里塚や学園 闘争まで引き合いに出していたが、こんな話を聞かせれたら「左翼嫌いの中間・ 保守層」がドン引きするであろうことは想像に難くない。そんな『会』が、公式 に細川支持を表明したり、あるいは暗に細川への一本化を求めたりすれば、「脱 原発の主張を左翼の専売特許のイメージから救い出す」戦略などたちどころに頓 挫するであろうことは明白である。すなわち、原氏の主張に従うなら『会』こそ が、都知事選における脱原発派の敗因、細川落選の元凶ということになるハズで ある。

 都知事選における脱原発派の敗因とその元凶を宇都宮と共産党に求める原氏の 見解は、原氏自身の主張によって内在的に破綻、ないし完全な自家撞着となって いるのである。

・一本化論の不確かさ

 そもそも、「細川で一本化できていれば、生活の党の小沢も言うように、脱原 発派にも十分な勝機があった」(原『その1』)という前提が、実はだいぶ不確か な話なのである。
 これについては、行方久生・文教大学教授が、東京23区ごとの候補者の得票差 と総務省調査による23区ごとの「一人当たりの総所得金額等」を照らし合わせ、 重回帰分析なども用いて検討を行っている。
(http://s.ameblo.jp/kokkoippan/entry-11788028845.html すくらむ 行方氏のFacebookからの転載)

行方氏によれば

・「細川氏と宇都宮氏の得票の基盤が異なり、仮に一本化しても1+1=2ではな く、3とか4になるという「統一戦線」的な幻想は持てなかったことが選挙結果か らも明確なのである。」
・「総所得金額等が低い区において、宇都宮氏が細川氏より多く得票しているこ と、反対に総所得金額等が高い区においては、細川氏の方が得票が多いのであ る。これは何を意味するのか。所得の状況によって、投票する対象がかなり鮮明 に異なっているという事実である。田母神氏は都心部の所得水準の高い区で、宇 都宮氏を凌駕すらしていた。むしろ、舛添氏の方が所得水準の低い区で多くの得 票をしており、宇都宮氏の得票傾向と似ている。これは公明党70万票の基盤が低 所得者に多いことを反映したもの」
・「宇都宮氏と細川氏の得票差は、殆ど、所得の差によって説明できること」
・「仮に一本化しても、もともと、投票する人たちが異なるので、その効果は、 極めて限定的なものであったというのが事実である。」

 原氏は、「各種世論調査では、都知事選の争点は景気回復だ、福祉だ防災だと いう有権者が多いことである。相変らず身近な問題ばかりに目が行っている。脱 原発はダブルスコアで負けている。」「そうした有権者の意向を反映して、舛添 も宇都宮もそちらの方に主張の重点を置いており、脱原発が最重要という細川の 主張は「高踏的」でさえある」と述べていた(『ベストだ』)。原氏は「高踏的」 などと言ってテキトーに誤魔化しているが、要は、切実な生活課題に基づいた有 権者の意向に答える政策を、細川は提示できなかったということである。これを 行方氏の指摘と合わせて考えれば、「舛添に脱原発票の3割(100万票)が流れ」 (原『その1』)、宇都宮票も切り崩せず(脱原発派が分裂したにも関わらず、宇都 宮は前回都知事選と同水準の票を獲得した)に終わった細川の敗因は、細川自身 の政策的欠陥、引いては脱原発一点突破的選挙方針にあったといえるのではない だろうか。
 原氏は現実が見えないのか見たくないのか、この細川の政策・選挙方針の致命 的欠陥(都民意識との決定的齟齬)に対し「脱原発のイメージ戦略」(『ベスト だ』)などという明後日の方の提案をしていたが、実際の細川陣営は、選挙戦後 半には脱原発一点突破からの若干の軌道修正を図ろうとはしたようである。だが それは、あまりに遅くあまりに不十分なものであった。