1、取り上げられた問題の概要
2012年都知事選挙の宇都宮陣営確認団体、「人にやさしいまち東京をつくる会」(以下「旧つくる会」)におけるある問題について、原氏が取り上げている(原仙作「都知事選の敗因は脱原発派の分裂にあり、その元凶は共産党のセクト主義にある(その2)」以下「その2」)。
原氏は、2014年都知事選時の宇都宮陣営確認団体「希望のまち東京をつくる会」(以下「新つくる会」)の選挙総括素案(以下「素案」)と、問題を告発した澤藤統一郎氏(「旧つくる会」運営委員・選対委員)のブログ「憲法日記」の記事双方を引きつつ、その問題について、概要以下のように書いている。
・原氏が取り上げるのは2013年12月20日に開催された「旧つくる会」運営会議でのやり取りである。
・約1年ぶりに開かれたこの運営会議で澤藤氏は、2012年の都知事選挙中に澤藤氏子息が候補者随行員を突然解任→以来理由開示もうやむやなままであった問題について、検討経過と結論を求めた。
・その際、河添誠委員による恫喝的発言があった。
・このやり取りについて、後に「新つくる会」の「素案」では、澤藤氏が恫喝をしたとしている。「しかし、この運営会議でこの恫喝を諫めた者が誰もおらず、解決を約束した宇都宮も沈黙し、澤藤だけの反対で運営会議の解散が決議されたことを考慮すると、澤藤は多勢に無勢であるところから、恫喝したのは多数派、つまり、「素案」の作成者たちであることは明白であろう」
・澤藤氏には知らされていなかったが、実はこの運営会議は、「旧つくる会」運営委を解散し、澤藤氏を排除して「新つくる会」へ移行するためのものであった。「澤藤には解散だけを説明し、新体制への移行には沈黙して解散を強行した」
・猪瀬の辞任表明の翌日という会議開催日付からしても、次の都知事選が意識されないはずがないにもかかわらず、「実際は何の議論もなく、雁首そろえて恫喝黙認、解散強行、「代表一任」で会議を終えている」
・そのような「旧つくる会」最後の会議の「異様さ」をもって、「こうして、解散決議に賛成した多数派のメンバーはすでに独立したボランティアの個々人とはお世辞にも言えない人物達であることがわかるのであり、この時点で宇都宮と共産党は手を握っていたことがわかるのである」と、原氏は断定を下す(以上、引用「」はすべて、原「その2」より)
2、問題の多い原氏の文章
原氏の「(その2)」には文中、個人名の後に「(共産党員)」との但し書きがされた箇所があった(現在は修正されている)。
これは本人または日本共産党として公表している事実だったのか?
あくまでも仮に、だが、本人や党としては公表していないにもかかわらず、「誰それは共産党員」という事実を第三者が勝手に暴露するとすれば、「党員」として名指しされた者の家族やごく私的な交友関係にある者にまで場合によってはそのことで影響を与えかねない、非常にセンシティブで重大な情報の暴露という、深刻な問題になりかねないのではないか?
また、確か過去、"土井たか子は在日朝鮮人"というデマを流した者に対する裁判で原告の土井氏側が勝訴していたと記憶しているが(注)、その事例に照らせば、もし仮に原氏の「×××(共産党員)」(×××は個人名)という記述が虚偽ないし明確な根拠を提示できない情報である場合には、原氏はもちろん当然として、『さざ波通信』までが巻き添えを食って法的な責任を問われかねない事態までも想定し得るたのではないだろうか?
私としては、原氏の記述が本人または共産党によってすでに公表されている情報であることを願うばかりであるが、原氏には至急この点について責任ある見解ないし対応を表明していただきたいものである。
(注)土井氏や裁判所は「在日朝鮮人とされたこと」を問題にしたのではなく、あくまで虚偽情報をばらまいたことを問題にしたものである。けっして「在日」差別を前提や当然視している訳ではない。また、私が土井裁判を引き合いに出したのは、"誰それは共産党員である"という単体としての情報の真偽についてだけでなく、原氏においては「×××(共産党員)」という記述が「共産党のネガティブな組織体質を体現する存在」という文脈で置かれている、という点も踏まえてのものである。土井たか子氏の裁判でも「土井が在日朝鮮人かどうか」という事ではなく、当該の雑誌記事の論旨・文脈でのデマ情報の位置づけが問題にされ、名誉感情や人格的利益の侵害が認定されたものと記憶する。×××氏の言動それ自体への批判だけであれば、わざわざ土井たか子氏の裁判を引き合いに出すような話でもなかったのだろうが。
「その2」において原氏は、双方の主張を参照しつつも、告発者である澤藤氏に信を置き、澤藤氏の当該ブログ記事から裏付けを得る形で「旧つくる会」の内情を批判する。また、そのような厳しく批判・糾弾されてしかるべき「旧つくる会」=宇都宮陣営のあり方と、共産党系の運動および共産党自体との共通性をくり返し強調(「その2」の(3ー2))したのち、「共産党と宇都宮は手を握っていた」と断定する。そしてそれによって、自らが主張する2014年都知事選での宇都宮=共産党の「「準」自前候補」説(都知事選における敗因は脱原発派の分裂にあり、その元凶は共産党のセクト主義にある(その1)」以下「その1」)を正当化するのである。
ところで、私が一旦、"宇都宮陣営と共産党(系の運動)との共通性を強調している"と要約した部分なのであるが、実際の原氏の文章を読むと、難解、と言うより、実に不可解である。澤藤氏が告発した問題に沿って宇都宮陣営を批判していたかと思いきや、いつの間にか共産党(系の運動)の組織体質への批判的言及へと話が移り変わっている。そして再び宇都宮陣営の問題へと話が戻ったかと思えば、さらにもう一度共産党論へ移行してしまう(「その2」の(3ー2)参照)。例えばもしこれが、"宇都宮陣営は共産党系の運動である"という根拠や論証を提示した上で、それゆえに、"共産党系の運動の悪しき体質が宇都宮陣営にもそのまま現れている"という話へ展開して行くのなら、実に明快である。ところが、そんな根拠や論証は原氏の文章のどこにも示されていない。ただ単に、宇都宮陣営への組織体質批判と共産党(系の運動)への組織体質批判という二つの話題が、境目がわかりづらい形で交互に挿入されているだけである。どちらに対する批判も反民主主義的手法への批判である、という点だけは一致しているが、ただ如何せん、原氏が宇都宮陣営と共産党との関連性について一切明確に示さないため、そこで共産党についての言及が出てくる直接的合理性、整合性が見当たらない(これがもし、原氏による意図的な印象操作の類いであれば話は早いかもしれないが)。
さらに言えば、「この時点で宇都宮と共産党は手を握っていたことがわかる」という原氏の結論めいた記述も、なぜ、そう「わかる」のか理由が記されていないため、よく考えるとまったくよく解らない。ろくに議論もない会議の「異様さ」から、会議メンバーに対し「独立したボランティアの個々人とはお世辞にも言えない」と評するのはもちろん解らなくはないのだが、そこから「この時点で宇都宮と共産党は手を握っていたことがわかる」というのは、いくらなんでも色々端折りすぎだろう。具体性がまるで欠如している。
3、澤藤氏が語る、宇都宮選対と共産党の関係の実際
ところで、宇都宮陣営と共産党(系の運動)の共通性を強調し、両者を一体的に批判する原氏の主張・論旨展開の裏付けとされた当の澤藤氏自身は、宇都宮陣営を全体的にどのようなものとして認識・描写していたのだろうか?
澤藤氏は2012年都知事選の直後に、自らの宇都宮選対経験に基づく「私的総括」を作成、13年1月にブログに公表した(現在、「憲法日記」2013年12月22日付に再録)。澤藤氏によれば、この「私的総括」の公表が、宇都宮選対との対立の発端となったという(「憲法日記」13年12月22日付記事)。
澤藤氏「私的総括」は、それ自体非常に示唆に富んだ教訓を多く含む文書であるが(例えば、得票ー当選と、運動としての前進という2方向での目標設定論や、候補者を統一しさえすればイコール相乗効果が発生する訳ではない、と言った認識等々)、澤藤氏の宇都宮選対観にかかわる点にしぼってまとめれば、
・宇都宮を支援した「政党の側は各党とも、統一の原則を堅持する立場で極めて自制的に行動した」一方、都知事選を「我が党の選挙」として取り組む意識は弱かった。
・だがその責任は、「市民運動」=「市民選対」の側にある(澤藤氏は自らを「市民選対」にいた者として、自省的に語る)。
・「市民選対は、各政党に「我が党の選挙」として取り組んでもらうべく熱意を示すことはなく、そのような戦略ももたなかった。」「働きかけが弱かったというよりはむしろ、「口は出すな」、「自党の候補者であるという顔をされてもらっては困る」「しかし、労働力と票だけは出していただきたい」という、虫のよい要求を言い続け、結局は政党の持つ力量を活かすことに失敗した。」
・各政党や諸団体の要望や提言に耳を傾ける姿勢が市民選対に不足していた。
・勝手連の実態を把握する努力が市民選対に不足していた。勝手連を称する無所属議員への市民選対による優遇と政党への冷遇。
・労働組合からの自発的支援はあったが、市民選対から労働組合への働きかけはなかった。労働組合の事情に通じた活動家から意見を聞こうということもなかった。
・革新都政をつくる会や吉田万三などとの連携が必要との意見が出され、その重要さは明白だったが、活かされなかった。
・市民選対の能力不足と外部から助力を得る努力の不足。
・「自主的な意見をもつ者や、選対の方針や事務能力に批判的な者は疎まれた」。事務局長への情報集中、透明性の欠如。
澤藤氏によれば、要望には耳を傾けず、それでいて「口は出すな」「自党の候補者であるという顔をされてもらっては困る」「しかし、労働力と票だけは出していただきたい」と「虫のよい要求」をしてくる選対にも、共産党(含む各党)は「極めて自制的」であったそうである。
また、候補者随行員解任問題の当事者である澤藤氏の子息・大河氏も、次のような証言・宇都宮選対観を書いている(「憲法日記」2013年12月27日付、澤藤氏子息の手記より)。
・革新都政をつくる会の中山伸事務局長が、熊谷伸一郎選対事務局長と連絡を取ろうと何度も電話をかけてきたが、居留守まで使って連絡を取ろうとしなかった。そのことを大河氏は熊谷事務局長に度々抗議している。「意見の相違があれば、……会ったうえでそれを批判するのが当然の義務だろう」(大河)。
・「生活の党からの支持を得ることが重要だという、選対(あるいは熊谷)の政治判断もまた、批判的に検討されなければならない。生活の党の支持を得ることが「明るい革新都政を作る会」との友誼の形成を二の次としてた優先課題であったか、それがどれだけの効果を生じさせたのだろうか。その検証はされていない。」(大河 原文ママ)
革新都政をつくる会は、全商連や全労連加盟労組とともに共産党も構成団体の一員とする組織である。原氏に言わせればさしずめ「共産党系」の団体ということになるのではなかろうか?つまり宇都宮選対の実態は、選対事務局長による小沢党(当時、未来の党。現、生活の党)配慮の思惑により、共産党系団体が連絡を取ることすらままならないというものだったということであり、澤藤父子はそのような選対のあり方を明確に批判しているのである。
原氏は、澤藤父子の告発に信を置き、それに依拠していたハズである。ところが、宇都宮陣営と共産党とを一体的に(あるいは一体のものとして?)批判する原氏の論旨展開は、実は澤藤父子の描く宇都宮陣営と共産党との関係性からは無縁と言ってもいいほど完全に逸脱しきったものだったのである。
4、候補者随行員解任問題
原氏が取り上げる宇都宮陣営の問題のそもそもの発端は、大河氏の候補者随行員解任問題である。原氏はなぜか、解任問題の方には触れようとしないので、ここで簡単に触れておく(「憲法日記」2013年12月27・28日付、大河氏の手記より)。
・候補者随行員として大河氏は、実務的な問題で少なからず選対本部・事務局と意見が対立することがあった(候補者スケジュールを直前まで明かさない、という選対事務局長の秘密主義的な対応を巡って等)。
・そして、選挙期間の最中であるにもかかわらず、突如、理由もろくに示されないまま、大河氏は候補者随行員を解任された。
・解任の主犯は上原公子選対本部長(元国立市長)と熊谷伸一郎選対事務局長(岩波書店編集部勤務)である。
・澤藤父子は解任について、公正な形の場を設けることを求めた。それに対し高田健委員(市民運動)「そんなことをしたら、会が不当な解任を認めたことになる。」
・公平なものではなかったが、事情聴取の場は設けられた。そこで熊谷選対事務局長は「机を叩いて立ち上がり、「侮辱だ!撤回しろ!」と私を罵倒した」。河添委員は「大声で怒鳴り続け」た。
・服部泉出納責任者(東京プロデュース)についても、大河氏は解任の主犯と見なしている(どのような動きをしたかについては記述がない)。
・海渡雄一委員(弁護士)、中山武敏代表(弁護士)はこの問題で調整能力の欠如を露呈する。
主犯である熊谷選対事務局長が小沢党(未来/生活)贔屓であること、それを大河氏が批判的に記述していることはすでに触れた。また、大河氏は触れていないが、もう一人の主犯上原選対本部長は東京生活者ネットワーク代表、社民党参院選比例候補などの経歴を持つ人物である。また、海渡委員は社民党前党首・福島瑞穂氏の夫で、宇都宮日弁連会長時代には日弁連事務総長を務めた。中山代表は、Wikipediaの記載からは(共産党とは対立関係にある)部落解放同盟とのかかわりが強いようである。これら、経歴等からすればいずれも非共産党系とでも呼ぶべきような人たちによって宇都宮選対の中心(選対本部長、選対事務局長、確認団体代表、等)は担われ、そのような体制の元で、原氏も取り上げる解任問題握りつぶし・澤藤氏排除の運営委員会解体強行も起こったのである。宇都宮陣営と共産党とを一体的に(あるいは一体のものとして?)批判する原氏の論旨展開は、澤藤父子の告発に一見寄り添うように見せ掛けながら、実際にはそこを遥かに踏み越えた、自説(2014年都知事選での宇都宮=共産党の「「準」自前候補」説)の正当化ありきの御都合主義的な告発内容の"つまみ食い""勝手なデコレーション"とは言えまいか?
もしそうではないというのであれば、「共産党と宇都宮は手を握っていた」なる主張の根拠なり論証なりをまずは明示した上で反論をお聞かせ願いたいものである。