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一般投稿欄

袴田事件の冤罪と国家権力の恐怖

2014/3/29 櫻井 智志

 TBSテレビ土曜夕方の『報道特集』は、日本テレビ『ドキュメンタリー』とともに、数少ないまっとうな報道番組である。その『報道特集』が、袴田事件の事実を袴田さんの側に即して、詳細に検証していた。袴田さんは、最高裁で死刑判決以降、心身機能に機能低下をきたし、拘禁性心因反応に陥った時期があったようだ。今回の保釈でも、全く現実の決定と信じられず予想外と受けとめていたようだ。糖尿病など成人病にも罹患して、今後ひとつき検査病院生活を過ごす。

 袴田事件や狭山差別裁判など、袴田さんや石川さんは再審を請求している。東電女性OL殺人事件で冤罪が確定した元死刑囚の苦難も、記憶に新しい。私の親戚には、教員と刑務官とが多い。祖父をはじめ叔父や甥や姪に刑務官がいるので、刑務所の内部の表面的な事実を知ることがある。明治時代の監獄法のもとの監獄、刑務所と戦後の民主化と連なる近代化のもとでの刑務所では異なる部分もある。しかし、明治時代の監獄の否定的側面を受け継いだ要素も皆無とは言えないようだ。

 国家権力のなかで、検察庁、公安部(警視庁捜査二課などの公安警察、自衛隊内部にある公安部隊など)、警察など職業に忠実でしかも市民の立場にたとうとする官吏もいる。にもかかわらず、相次ぐ冤罪や判決への了見の狭い対応などを見ていると、私たちは警察署や裁判所などの行政や司法の部署がその時代の深い陰影を帯びていることに思い至る。ひとつ配慮しなければいけないのは、映画やテレビドラマのような娯楽や興味本位では判断できない問題もあるということだ。ドラマ『相棒』はテレビに映画に幅広い人気を得ているが、娯楽活劇というよりも、社会派ドラマの側面もある。私は自分が小学生低学年の頃に見た昔のNETテレビ系列の『判決』というドラマを見て感じた感動を今も覚えて いる。善悪二元論とは別のことがらの真実が描かれているかどうかが重要だ。

 憲法をめぐる安倍自公政権の暴走は、ついに自公以外に、維新の会、みんなの党、結いの党、生活の党など国会に議席のある政党で日本共産党、社会民主党以外の政党が改憲のための国民投票法の審議会設置に賛成するに至った。秘密保護法をはじめ、民衆の人権侵害の土壌が着々と進められている今、袴田事件で被告とされて死刑囚と決定されてから数十年も獄中に幽閉されてきた袴田さんがこうむった弾圧は、現在日本社会に居住するすべての民衆にとってひとごとではない。東電OL女性殺人事件で冤罪をうけた外国人の祖国では、決して日本を人権国家とはみなしていない。そうだ。日本国は、国家権力が平気で民衆を冤罪で貶めて、裁判所の相当な審議と検証と勇気にみちた判決でさえ、組織の体 面にこだわり平気で上告を公言して、裁判所の再審決定さえも上告する人権後進国なのだ。すべての国民が、監視カメラで映像化され、盗聴電話で盗聴され続けている。このような社会を、世界は人権後進国としかいいようがないだろう。

 二つのことを補足する。
 袴田事件でもうかなり前に現在世田谷区長の保坂展人さんは、衆議院議員の頃に何度か袴田被告を面会して、再審請求を励まし続けたことを知った。社民党は議席は少ないし、その内国会議席を失うかもしれない。けれど保坂さんは、少数政党でもできることを堂々と実践した。保坂さんのようなまともな政治家と、元区長で都知事選にも出馬したこともある吉田万三氏のような政治家と、中身の深い政治家が増えてほしいものだ。
 公安警察が目を皿のようにして、凝視している現在社会で、才腕のある運動家として政党指導部から高く評価され、議員当選の年に異例の准中央委員抜擢されたばかりの活動家が、警戒心を欠いて公安情報の多い週刊誌に道路や飲食店の外で、 それ自体は私的なことだが、男女の親密感を表した写真を撮られて公表されるとは、情けない。公安警察が男女関係を口実としてスパイにひきずりこんだり恫喝したりするような事例は、戦前からの常套手段である。国会議員や活動家として人数を拡大する以前に、人権意識に基づいて自らも弾圧機関に隙を見せないくらいの用心深さが必要だ。活動経験の浅い活動家にもっときちんと指導・教育しておかないと、冤罪や弾圧の格好の餌食となるだろう。