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一般投稿欄

日本共産党金子洋氏が示唆したIT時代の新たなコミュニケーション闘争の展望

2014/7/19 櫻井智志

1  日刊ゲンダイが伝えた事件の実態
私が最初にこの出来事を眼にしたのは、以下の日刊ゲンダイの記事である。なお、私見とあるのはブログで紹介した時の私の手短な感想である。

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「死ね」ツイートで辞職 中野区議“マジメ闘士”と評判だった

  日刊ゲンダイ転載

 中野区の金子洋区議(52=共産党)が14日に辞職願を出していたことが分かった。
 発端はツイッター。金子は今月6日、自身のツイッター上で集団的自衛権をめぐる議論を展開。
<集団的自衛権容認で“ひきこもりニート”が戦場に送られればいい>という書き込みに対し、<おまえこそ人間の屑だ。死ね!>と返したことで、他の共産党議員から「不適切な発言だ」などと注意を受けた。

 書き込んだ相手は未成年だというから、なおさら大人げない。どんな相手でも<死ね!>はダメだろう。

「金子さんは議会では区民委員会に所属し、環境や戸籍、税、保険関係の問題に取り組んでいました。まじめに仕事をしていただけに非常に残念です。今は共産党員としての処分を検討している最中です」(共産党中野区議会議員団幹事長)
 金子の生まれは北海道の函館で、父は連絡船の船員、母は大学の図書館員。共産党員だった両親に育てられたという、“エリート”だ。早大文学部から同大学院に進み、その後、東京土建組合に入った。それ以外にも自転車メッセンジャーを経験するなどバリバリの“闘士”で、11年の区議選で初当選。議員生活をスタートしたが、持ち前のまじめさが裏目に出てしまったようだ。

 同僚議員がこう明かす。
「議会ではおとなしくて素朴な雰囲気です。とても勉強家ですが、議会の質問の趣旨が分からないことがあって、よくヤジられていました。ジョークが通じない性格でしたが、キレるタイプではなかった。そんな不器用なところをかわいがられ、区議の間ではいじられキャラでしたね」

 もっとも、金子は注意を受けた後、すぐに議員辞職を決意している。セクハラやじを飛ばして名乗り出ない議員よりはよほど潔いだろう。

★私見★
 言葉をとらえれば、「死ね!」はダメなのかも知れない。しかし、事実の吟味もせずに辞任だけですませたのでは、問題の解決はほど遠い。今後日本共産党は、ヘイトスピーチを反省しない団体や個人からの攻撃にどのような論理で対応するのか。
 ツイッターのやりとりの詳細もどこで金子氏が激怒したかの検証もせずに、ひたすら金子氏の存在さえ否定するような方式でこの問題は解決するのか。根本は、集団的自衛権やヘイトスピーチなどきわめて政治的問題にあるのに、金子氏の言動全てを否定する日本共産党指導部の対応は、のちに逆に否定的結果を及ぼすような気がする。
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2 共産党中野地区委員会の声明

一方 、所管の日本共産党中野地区委員会はこう公的に声明を発表している。私見もその時点で読んだあとの私の感想である。

中野区議会議員 金子洋(かねこ・ひろみ)氏の議員辞職について

2014年7月15日
日本共産党中野地区委員会
日本共産党中野区議団

 金子洋議員は、「一身上の都合」により、7月14日付をもって区議会議員を辞職しました。
 金子洋議員は、日本共産党の議員として、有権者の付託をうけ、区民の利益と福祉を守る責任と役割をもっているにもかかわらず、人格と人間の尊厳を否定する「暴言」をはきました。このことは道義上許されないことであり、有権者の信頼と期待を裏切るものです。
 日本共産党中野地区委員会は、このような形で議席を失うことになったことについて、ご支持を寄せていただいたみなさんをはじめ区民のみなさん、区議会に深くお詫び申し上げます。
 日本共産党中野地区委員会と中野区議団は、今後とも、区民のみなさんにお約束した公約実現をはじめ、区民のみなさんへの日本共産党としての責任を果たすために、決意もあらたにして力をつくします。
以上

★私見★  私はこのニュースを東京新聞で知った。インターネットではマスコミはあまり取り上げていない。右派系のサイトや2ちゃんねるが検索にヒットした。
簡単に言うと 、金子議員はヘイトスピーチを行う相手との言い合いで興奮し、「死ね」などの暴言をはいた。しかし、その前にヘイトスピーチ側からも金子氏を罵倒誹謗する攻撃があり、その言い合いで激高した金子氏がこの問題に対する責任をとって辞任した。  このことに中野地区委員会は、上記のような声明を出し、実に潔く誠意をもって対応した。
しかし、このことは今後の統一地方選挙にも若干の影響が考えられるし、センショーナリズムのマスコミ報道によっては、致命的なデマゴギーが流布されることもありうる。
 この問題について、具体的な事実経過と相手からどのような言動があり、そのことに対して金子議員が正当防衛に似た感情で激怒したことも察せられる。ひたすら謝る姿勢は、さきほど述べたように潔いけれど、事実をもとにして説明しないと、今後のヘイトスピーチ運動に対しても対応できなくなる。罵詈雑言を在日の朝鮮民族に系統的に浴びせ続けたことへの対応はどうなるのか。

3 ネット研究者の見解
以下はニュースサイト編集者の中川淳一郎氏が7月18日の東京新聞に掲載した評論である。

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 今週、東京都中野区金子洋区議会(共産党)が、ツイッタ上での暴言を理由に辞職した。金子氏は集団的自衛権の行使を認める憲法解釈変更に反対していたが、とある匿名のツイッター・ユーザー・A氏からこう書かれた。
「いーじゃん別に、集団的自衛権行使したって。結果、他国との信頼関係は強まるし、働いていないヒキニートのゴミくずが国のために働けるんだぜ?安倍に感謝しろよニートどもwww」。ヒキニートとは、引きこもりのことだ。

 これに対し、金子氏は「そう言いながら、自分は行かないで、「ヒキニート」みたいな「ゴミくず」に行かせようとしているんだろ!  おまえこそ人間のくずだ。死ね! 達者でな! さようなら! 生きてたら、また会おうね」とツイート。金子氏はA氏とやりとりを続け、「人間をゴミくず(注:原文はすべて屑と表記されている)」扱いすることを批判、安倍首相にとってもA氏も「チェスの駒」であるとし、一貫して平和の大切さを説いた。

 確かに「お前が死ね」は議員の立場では言い過ぎだが、昨今のネット界では「実名」が損をする事態になっているのも事実だ。基本的に匿名の人間は言いたい放題で、実名の人間はじっと耐える状態になっている。

 その後、A氏は「なんか俺のせいで政治家が一人辞職したらしいんだが・・・」とツイート。後味は良くなかったようだ。そして、A氏のもとには非難が殺到し、同氏は、ツイッターをやめた。ただ、ツイッターをやめても、別のIDを取れば、また、つぶやくこともできる。金子氏のように職を失うというほどのダメージはない。

 それにしても、金子氏もうかつである。4日間も延々、A氏とやりとりし、あまりにバカにされたことから「死ね」発言に至ってしまったのだろう。芸能人や作家のように、宣伝する材料があるような人を除き、実名でSNSをやることはリスクの方が高いのである。「www」(笑)を多用し、金子氏をバカにすることしか考えていない匿名の人間と憲法解釈に関する議論をしても、金子氏が得るものは何もない。無視すべきだったのだ。 
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4  全体を通して私はこう考える
 大枠としては、中川氏の評論が適切と考える。だが、古くは2ちゃんねる、そしてヘイトスピーチ、炎上するブログなど、情報化時代にはいり、言論における反差別闘争、反人権闘争は今回のような落とし穴が待ち構えていることに留意することをこの問題は喚起している。「無視すべきだった」と中川氏は結論している。今回はそうかも知れない。しかし、これから集団的自衛権や解釈改憲、憲法改悪など困難な闘いが待ち構えている。
 そのような時に、インターネットに長けたネットウヨクや自民党ネットサポーターズのような集団的組織的主体と、ネットで言論のやりとりをしていくか。金子氏は自ら辞職し、日本共産地区委員会は処分した。今回はそれで終えるかも知れない。だが、今後の待ち構える憲法をめぐる言論闘争を考える時に、確かに「死ね」のような暴言については中野地区委員会の言うとおりとしても、その背後の憲法解釈論争がなされていたところから飛び出したことを無視してはならない。
 日本共産党の内部での処分にあれこれ言う立場にないけれど、辞任、辞職、除名、処分のどれもいま述べた大問題を考慮しての処分であることをのぞみたい。