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ここ10年くらい黒田清さんと言えば、一般的には「日本共産党を応援する文化人」と見なされているだろう。(以下、日本共産党は単に「共産党」と略する)ご本人も共産党支持を公言して「私は半分共産党という意味で「半共」です」、と特にこの2~3年は言っていた。
しかしその黒田さんに、共産党とどうしても認識の違う重大な問題がひとつあったことを知っている人は少ない。共産党側はもちろん両者の違いの存在を公表しないから、共産党支持者の人々は当然それに気が付かないし(つまり黒田さんは共産党の主張に全面賛成と誤解したまま)、一般の人々もそこまで突っ込んで考えないから気が付かいできていることがある。
それが部落差別問題に対する捉え方なのである。
黒田さんは共産党の主張する「部落差別は解消されつつある。解同(部落解放同盟)こそが差別を助長している」という「反同和論」には決して組みすることがなかった。
同時にまた、この問題での認識の不一致について、公に論ずることはしなかった。
そのことに戸田が気づいたのは、96年の京都府知事選挙で、「しんぶん赤旗」全面を使った共産党候補者と黒田さんとの対談記事を見た時だった。京都は特に同和政策に絡む問題がいろんな意味で多い所で、共産党はいつものように同和攻撃宣伝を盛んに行なっていたのだが、なんと黒田さんとの対談では共産党の主要政策のひとつであるはずの同和問題に全く触れていないのだ。
京都の多くの良心的活動家をして、「共産党があのエゲツない同和攻撃を控えてくれたら共産党候補支持に踏み切れるのになぁ」と嘆かせていた「重要課題」が黒田さんとの対談の場合だけ消えている、というこの事実!
それから注意して赤旗を調べてみると、黒田さんとの対談ではどこでも同和問題がいっさい出されていないことがはっきり判った。
黒田さん自身は反差別をはっきりと掲げて部落差別問題に向き合い、報道でも取り上げ、解放同盟はじめ同和行政や反差別の運動方面との交流も多い人である。
☆ここから判断されるのはただひとつ。部落差別問題について、黒田さんと共産党との間に大きな認識の違いがあること、しかしそれを公然論議化させないことや、共産党の宣伝媒体に黒田さんが載る時はこの問題に触れないこと、についての双方の了解が存在した、という「確かな推論」である。
思うに黒田さんは、大局的に見て共産党を(いろいろ問題はあるにせよ)伸ばしていくことが大事だと考えたのだろう。
それが軍国教育を受け敗戦時14歳、焼け跡闇市を体験して朝鮮戦争時代に新聞社に入り35年、市井のドロくささの中で叩き上げてきた庶民派ジャーナリストならではの、「前衛神話崩壊(60年安保)」以降の左翼運動や反差別運動から直に社会運動に入った人や「ヤメ共」的な体験の人(=共産党への批判や恨み節が先に立ってしまうタイプの人)とは違う、黒田さんの政治的判断だったのだと思う。
共産党との認識の違う部分について、「小異を残して大同につく」大同団結の精神と、公に論議すれば必ず共産党叩きの反動勢力に利用されてしまう不利がはるかに大きい、という判断で対処していたのだろう。
この問題について、戸田はずっと黒田さんに聞いてみたいと思ってきたが、切り出す機会を作れないままに、遠い所に逝かれてしまって果たせなくなったことが残念だ。
ささやかな例だが、97年6月の門真市長選挙で元共産党市議の候補を推す「住みよい門真市政をつくる会」に戸田が参加した時、赤旗の黒田さん対談記事の例も持ち出して、当初の政策案にあった「差別を持ち込む解放教育をやめさせる」、という項目に異議を唱えた結果、「いじめや差別を持ち込むかたよった教育をなくする」という文言に変えてもらったこともあった。(門真の共産党勢力もそれを受け入れてくれた)
また97年・98年の学童保育の市民集会で、従来の共産党勢力の他に(共産党と犬猿の仲だった)連帯ユニオンや、社民党勢力も参加できてより幅広い結集を図れたのも、「黒田さんの賛同」という旗印があったればこそできたことだと思う。
@共産党ほか様々な立場性を持つ左翼勢力・社民勢力・市民住民運動・労働運動・農民漁民運動・・・が護憲平和・自治・共生の幅広い統一戦線を地域に根ざして形成していくことこそが日本社会を良くして行く途だと、戸田は確信しているが、その「肝いり役」の1人として、黒田さんへの社会的な期待は大きかったと思う。それは、有り体に言えば、共産党とそれ以外の左派勢力・市民運動勢力の間の大きな障壁のひとつとして差別問題の認識があり、この障壁を溶解するか留保して共闘する作風をつくらない限り、幅広い統一戦線は形成できないのが日本の現状だからだ。
ある意味では「これから」、という社会状況の中での他界だった。つくづく惜しい人を亡くしてしまった、と思わざるを得ない。
ご冥福を祈ります。
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私のHP掲示板に他にも黒田さんについての書き込みがありますので、ご参照下さい。
http://210.254.236.110/bbs/bbsv.cgi/higetoda
http://www.ne.jp/asahi/hige-toda/kadoma/index.htm