11月3日、中央憲法会議・東京憲法会議主催、憲法公布54周年記念・学習討論集会「改憲を許さず 憲法の生きる21世紀に」(全国教育文化会館)を聴講してきました。報告者は日本共産党参議院議員緒方靖夫氏(演題 21世紀のアジアの平和と憲法九条)、一橋大教授渡辺治氏(演題 なぜ「新しい人権」「首相公選制」なのか?)という豪華顔ぶれ。
差し当たりここでは、緒方氏が会場からの質問に答えておこなった自衛隊容認政策の弁明について、その梗概と批判をおこなっておこう。今回は、不本意ながら、かなり毒突いた言葉遣いになっていることをあらかじめお断りしておきましょう。
緒方 「ちょうど党大会を控えてこの質問が一番多いので大変歓迎しております。ちなみにですね、大会をめぐる質問の三点セットというのがあるんですね。一つは規約の問題、綱領改定をするのか、そして自衛隊問題。その一つなので是非説明させていただきたいと思います。」
<本格的論議展開を期待させる前置きですね。以下<>内は引用者のコメントです。>
緒方 「違憲の自衛隊が存在している、そして、それをあるものは使うというのは結局違法な自衛隊を使うということになるのではないかですよね。矛盾しているじゃないかということですよね。」
<緒方氏は、初発から論点をずらして設定していますね。「九条規範」と「自衛隊の現存」との矛盾を、「九条規範」と「決議案にいう自衛隊活用論」との矛盾にすりかえようとしていることに厳重な注意を向けなければなりません。「あるものを使う」という党幹部諸侯の画期的な政策は、軍事力有効論の立場に基づく政策であって、九条規範とは全く縁もゆかりも無い特定の立場に立った政策にすぎません。その政策即ち「必要にせまられた場合には、存在しいる自衛隊を、国民の安全のために活用することは当然である」という政策が、九条に違反していることは当然である。この齟齬を「矛盾」と言って、九条と自衛隊の現存との矛盾とクソミソ一緒の「矛盾」に投げ込む詐術はやめましょう。その違いを認識しての発言であれば貴方は詐欺師、認識できない発言であれば道化師でしょう。>
緒方 「私たちはですね、憲法九条を完全に守りきる、守るという立場にたっているわけです。」
<本当にそうならありがたいのですが。護憲の陣営に入るというのであれば、その限りでは、拒むつもりはありませんから御安心を。枯れ木も山の賑わいですから。しかし、憲法の非武装平和主義を台なしにする発言を、したり顔ですることはやめてくださいね。>
緒方 「そうすると、今の自衛隊の存在というのは違憲のまさにれっきとした違憲の現状があるんですね。この矛盾をどう解消するのか。われわれは、憲法九条にそった形で、つまり、自衛隊をなくしていく、その立場で矛盾を無くすという立場にいるわけですね。」
<なるほど。その限りでは異議無し。しかし、「九条にそった形で」と百万遍唱えても、九条にそった形が保障されるわけではありませんね。貴方は観念論者ですか。これまでの政府でさえ、「九条にそうつもりはない」とは一度も言っていませんから。>
緒方 「しかし、これね一足飛びにできないですよね。二十数万いる自衛隊をじゃあ無くしましょうといっても無くなるわけじゃない。」
<説教するつもりかな。そんなことは百も承知二百も合点。あなたに言われるまでもありません。>
緒方 「じゃあどうしてその矛盾を解消するのかということで、いまちょうど議論しているところでありまして」
<では、党員の上申意見書に正面から向き合った議論をお願いしたいものですね。嘘を言ってはいけませんよ。>
緒方 「大会決議案のなかで、三段階で解消しようということを提起している。」
<それが目玉ですか。以下三段階論は大会議案参照。省略>
緒方 「ですからその段階(引用者注 自衛隊が解消される段階)にいたるまで、そういう矛盾はずっと続くわけです。
<どちらの「矛盾」ですか>
緒方 「私たちは、じゃあその過程で自衛隊が必要となったときにどうするのかというときに、」
<ぎょっ。自衛隊が必要になる・有効であることをあらかじめ承認してしまうのですね。それは、九条の排除するところですよ。しかも、なお悪いことに、「その過程」ということは、現在ただ今の状況と安保=自衛隊も含まれるわけですよ。これを排除する何の保障も立ててはいませんし、立てたとしても、軍事力有効論に依拠する以上、現況での「活用」=発動を排除できません。>
緒方 「国民の安全のために活用するということもあるということを提起しているのですね。」
<本当に「有効」と判断しているのですか。>
緒方 「一つは災害の問題で、」
<なるほど、それを先に提示しておくのが、党執行部熟慮の勘所ですかね。>
緒方 「えー、これは今はね、いろいろ自衛隊法が改正されて災害派遣ということがおこなわれることになってきていますけれども、」
<なるほど、自衛隊法第83条に「災害派遣」が規定されています。もっとも、それは、本務ではありませんよ。「自衛隊は、侵略事態などに即応するため、独自で建設、輸送、通信、医療、給食、給水、発電などを行う能力を有している。これらを活用して(中略)様々な災害救援活動を行っている」(H12年度『防衛白書』より引用)。従って、現実にも、専門の救助装備を持ち、人命救助訓練を重ねている消防レスキューとは、その能力において比較にならないことをご存知ないのでしょうか。いとも簡単に、自衛隊が災害派遣をしてくれるとおっしゃるとは、小学生ばりの無邪気さですね。こんなに純真な国会議員がいるとは涙が出ます。>
緒方 「私たちは違憲の自衛隊を使うのはおかしいということはまあ言いません。」
<人命救助、災害救助に実効性のある消防能力を高める政策を掲げもせずに、現状追認とは。政治家として如何なものでしょうか。言われなくても、現況で、たまたまそれしかなくて派遣されてきた個々の隊員に噛み付こうなどと誰も考えていませんよ。>
緒方 「そして、よくある、侵略されたときにどうするのか。まあこれもですね、私たちはまず無いと断言したいと思うんですね。あの、福田首相が国会答弁でいっていますけれども、あのソ連があった時期、今から二十何年前ですね。その福田さんの時期に、その、外国からの侵略というのは万万万が一ありえない、確率一兆分の一ですよね。
<だとすれば、どうして自衛隊活用論になるのでしょうか。あなたは、本報告でさんざんコスタリカに学び、軍事力に頼らない国家の意義を強調していたではありませんか。自分の発言主旨と自衛隊活用論との「矛盾」に、一体どう折り合いをつけるというのでしょうか。心理学上の興味ある症例ですね。>
緒方 「でも難しいのはですね、外国からの侵略は絶対無いとは証明できない、これは証明できないですよね。まず無いですが、ありえないといってもですね、じゃあ証明してくれといってもこれは分からない。(ここでやたらに語気を強める―引用者注)」
<滑稽かつ無残な「論理」ですね。憲法規範は仮に置くとしても、政治を動かし、その変革のために行動しようとする人民に向かってこんな脅かしが通用すると思っているのでしょうか。それでは、未来永劫、侵略の危険とこれに備えた軍事力(「必要最低限の実力」としての自衛隊)の必要性はなくならないではありませんか。この論法で、いったいどうやって、自衛隊解消=軍事力放棄への「国民的合意」を取り付けられるのでしょうか。「国民の危惧」に応えるためであれば、憲法の実現は永久に失われ、巨人軍ならぬ自衛隊は「永久に不滅です」ということになりましょう。小沢一郎氏でも、古典的戸締り論さえ真っ青な、これほど粗野な言い方はしないでしょう。何しろ、現実に進行しているのは、日本資本のグローバル化とこれに伴う、軍事大国化・新自由主義的改革路線(渡辺治氏レジュメより一部引用者改)なのです。緒方氏は、渡辺氏の貴重な発言のすぐ横で居眠りでもしていたのでしょうか。周辺事態法の目指すは、資本進出先における政治的安定確保のための介入戦略であり、邦人救出・人道的介入の美名に粉飾された自衛隊の海外派兵であるのですから。><勿論、このくだりで、会場から野次怒号は皆無でした。皆さん紳士淑女のシルバー世代です。>
緒方 「まあそういうなかで、そういう含みをもたせている。」
<この「含みをもたせている」という言葉の意味合いがどうも不明です。「国民を安心させるための手立て」とでも採ればいいのでしょうか。とすれば、国民が「安心」するためには、「自民党でいきましょう」と一言言って済むのではないでしょうか。それとも、民主党との提携のための布石でしょうか。渡辺治氏は、会場からの質問に答えて、民主党は今回の選挙で、新自由主義的改革の推進党になったと明言し、共産党に苦言を呈していますが、この指摘をしっかり受け止めるべきでしょう。>
緒方 「矛盾の段階ですから、矛盾を解消する中での矛盾の段階、私たちの払っている税金だって今自衛隊の存続のためにある程度使われている、これも矛盾ですよね。」
<おっと。だから私もあなたも、もう自衛隊を認めてしまっている共犯だと言わんばかりの暴論ですね。>
緒方 「ですから、その矛盾の解消をどういう方向でもっていくのか、そういうことがね非常に大事だと思います。(中略)これを九条に合わせて解決するというのが私たちの立場です。」
<「矛盾」をどのように解決していくのかは、まさに「立場」の問題ですね。「九条に合わせて」と百万遍唱えていただいても、あなた方の軍事力有効論という立場は、九条の立場とは全く相容れない「立場」です。自衛隊を「活用」することは、憲法規範を守り抜く立場からも、「実効性」からも絶対に許されない選択肢です。「侵略はまずないと断言したいと思うんですね」というのならば、「侵略不存在証明不可能論」に脅かされず、ありもしない「たられば論」には、キッパリと、「九条に違反し、必要もなく実効性もないのですから、『存在している自衛隊を、国民の安全のために活用しないことは当然です』」と白旗掲揚論で応接すべきでしょう。そのことで、共産党幹部諸侯が閣僚の椅子を失うことになっても、私たち自覚ある人民は失うものを何も持ちません。>
さて、以上が、「党大会議案批判三点セット」に対する、幹部諸侯がありったけの知恵を傾けたであろう、説得力ある反論であるらしいのであります。
要約すれば、「<九条の立場に立つ>とのお題目唱和」「自衛隊解消三段階論の意義の強調」「自衛隊災害派遣価値の強調」「侵略不存在証明不可能論に基づく軍事力有効論」がそのポイントです。それらを操る上で重要な戦術は、上述の二つの「矛盾」の詐術です。
見られるとおり、この間の「さざ波通信」における批判や、別刷り学習党活動版掲載の鋭い批判論考の論点について、何ら有効な反論をおこなってはいません。あの方々は、理論とそれが生み出す実践力よりも、幹部の「権威」を笠に、上記紹介のとおりの暴論と俗論で押し切る覚悟のようです。
まさか、前座の緒方氏に道化を演じさせて、真の日本共産党員を油断させ、大会本番では、アット驚く隠し球の論理を用意しているとも考えられません。
「矛盾」とは、これを如何に変革していくのかが問われる課題です。災害派遣における現状分析さえできない図式論者に、人民の運動の弁証法など無縁でありましょう。
一言緒方氏の名誉のために付け加えておきますと。上記紹介の論弁に続いて、再びコスタリカのようすに言及し、「軍事力を持たない国、軍隊を持たない国というのは、国のつくり方がまるきり違うんですね。国のありかたも、発想も違ってくる。(中略)平和というのは、平和をつくる運動というのは、コミュニケーションだ。このことをですね、うんと強調していくことが大事かなと思います。」
<その通りですよ。しかし、コスタリカに学ぶのも勿論ですか、日本国憲法の非武装平和主義の正当な理解とその実現のための実践こそ、私たち日本人民そして緒方氏自身の世界的責任ではないでしょうか。この良質の発言が、肝心の貴方の大会決議案擁護の暴論と激しく衝突している事態をどうするのかの疑問がかえって際立つことになって、これでは、名誉回復になりませんでしたね。自衛隊活用論をキッパリと捨て、不破指導部に公然と反旗を翻して奮闘することこそ、貴方の、コスタリカ人民および日本人民への最低限の責任ではないでしょうか。そうしても、「査問」制度はないと不破指導部は保障して下さっていますから。老婆心ながら一言申し添えます。>
<この程度の幹部の部屋に、盗聴器を仕掛けるとは、神奈川県警も酔狂な人たちですね。などといわせないで下さるようお願いいたします。>妄言多謝