刑法の心神喪失規定を削除し、心神喪失者にも能力者と同様の刑罰を科すべきであるという意見について考えてみました。
殺人を例にして考えてみます。
人を殺しても、全ての場合に実行者が有罪となるとは限りません。また、有罪となる場合にも、法律が定める刑罰(法定刑)には著しい差があります。
先ず、人を殺す意思をもって人を殺すと、通常殺人罪が成立します。しかし、正当防衛や緊急避難が成立する場合のほか、人を殺す行為を行なった時に行為者が心神喪失状態であれば犯罪は成立しません。心神喪失状態とは、許されることと許されないこととを区別する能力がないか、あるいは、そのような能力があっても、許されないことをしないように自己を制御する能力がないことだろうと思います。
次に、人を殺す意思がないのに人を殺した場合は、人を殺すという結果を引き起こしているのに、殺人罪には問われません。殺人罪よりはるかに軽い法定刑である過失致死罪にとわれるか、無罪か、どちらかです。
このように、人を殺すという結果を引き起こしているのに殺人罪に問われない場合は、心神喪失の場合だけではありません。殺人の意思がないから軽く罰するとか、殺人の意思がなく過失もないので無罪であるとかされているのはなぜなのでしょうか。その人の行為によって人を殺すという結果を引き起こしているのになぜ「平等に」殺人罪に問われないのでしょうか。そんな点を考えると、心神喪失状態で人を殺した人を「平等に」殺人罪に問うことの意味が浮かび上がってくるように思います。