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運動量の低下と陣地の後退

2001/8/3 嫌煙家

 今回の参院選の最大の敗因が小泉旋風にあるということに疑問の余地はありません。「なんとなく何かしてくれそう」という無根拠で無気力な期待感が一点集中したというのが自民党の大勝の原因でしょう。けれども共産党の大幅な得票減はこれだけでは説明できません。
 共産党の敗因については朝日新聞がサラリと「党員の高齢化などによる組織力の低下」と特徴づけていました(30日付朝刊)が、私は問題はここに尽きているような気がします。党員の活動量が劇的に低下しているために、いざ四年間ほど吹いた追い風が止んでみると、自力がほとんど枯渇していたのが誰の目にも明らかになったというのが今回の選挙結果なのではないかと思います。これを具体的に検証するためには、党員の活動参加率、対話・支持拡大数、ビラの配布枚数、支部レベルでの街頭宣伝回数、機関紙拡大数、支部会議の開催率等々の指標を見れば大よそのところは分かるでしょう。党籍を失った私はこうした数字を手にすることができませんが、例外はあるにせよ趨勢としてはすべての指標が低下しているだろうと確信を持って推測できます。

 機関紙について考えてみます。かつては、国政選挙は前回選挙比で2割(ないし3割)増の読者陣地を築いて臨むことが至上命題とされ、その上で、『赤旗』学習党活動版で都道府県別の拡大状況が随時掲載されていました。これがいつから載らなくなったのか、確かな記憶はありませんが、ソ連・東欧の崩壊の時期辺りから、前回選挙時の陣地を「回復」することすらきわめて困難になりました。昨年の党大会時で日曜版読者数が199万ということでしたので、(よく見積もっても)共産党の政策を日常的に知りうる層が現在200万人ということになります。最高時は350万人の読者陣地を持っていたことを思うと、相当の地盤沈下です。
 そしてこの機関紙での地盤沈下ということは、選挙での運動量の低下という意味以上に陣地の後退という点で大きな意味を持っています。昨年の党大会で「二本足の党活動」路線が否定されるまで、共産党は機関紙拡大というものをきわめて高く位置づけてきました。それは、もちろん第一義的には、機関紙が党の政策・方針・活動などを日常的・系統的に伝達するためのパイプであるからですが、それだけではなく、読者陣地が国政選挙の得票と密接な関係を持つと考えられてきたからでもあります。
 実際、60年代からの党の躍進は機関紙の拡大と軌を一にしたものであり、90年頃までの段階では、共産党の得票数はごく大雑把に言って機関紙読者数の2倍という水準で推移しました。講読している各家庭の有権者2人が投票するというように考えるならば、これは納得のいく相関関係です。
 ところが90年代後半に入って、機関紙陣地が後退しても選挙で前進するという前例のない現象が起こるようになり、その結果、96年総選挙、98年参院選ではついに機関紙読者数の3~4倍の得票を獲得するという事態にまでなりました。これは言うまでもなく、いわゆる無党派層からの得票が大幅に増えたことに由来します。この事態を肯定的に見るならば、党にとって大きな可能性が広がったということになります。実際、21回大会はそのように位置づけて、これまで党との関係を持たなかった広大な層に打って出ることを全党に呼びかけました。この方針そのものは間違いではないでしょう。けれどもこの事態は、党にとって不確定要素が増したということでもあり、支持基盤の「空洞化」が進んだということをも意味しました。つまり、新たに接近してきた層を掌握することができなければ、一連の躍進が空中楼閣として瓦解する危険性を孕んだ状態だったわけです。そして、機関紙読者は増えることはありませんでした。答えは出ました。それが今回の結果です。
 国政選挙の得票を機関紙読者数の2倍として計算するやり方からするならば、現在の読者数200万人に対して431万という今回の比例での得票は、実に理に適った数字です。今回の結果は、厳しいものではありますが、法則的な敗北と言うべきなのかもしれません。
 考えても見れば、『ドイツ・イデオロギー』が言うように、支配的な思想が支配階級の思想に染め上げられるというのはきわめて当然のことです。新自由主義イデオロギーが社会を席巻しているときに、共産党の主張に耳を傾ける人が急激に減るのは、ごく自然なことでしょう。そうしたときに支配階級のイデオロギーに抗して共産党の主張を支持する層として計算できるのは、やはり機関紙読者を措いてはいません。
 共産党のように反体制を党是とする政党が追い風を受ける時代というのはきわめて稀なことです。またそうした時代が来る可能性はないとは言えませんが、風を期待するというのは共産党のすべきことではないでしょう。今回の小泉旋風のようなものが起こった時にも持ちこたえるためには、共産党固有の陣地である機関紙読者をどうにかして回復するしかないでしょう。200万人の読者に対しては400万の票以上のものを期待すべきではありません。そのように考えるならば、後退した昨年の総選挙も、むしろ「出来すぎ」だったと言うべきでしょう。