有事法制法案提出が目前にせまってきた。反対運動が各方面で取り組まれている。日本共産党の強い影響下にある諸団体の立ち上がりにも、もはや間然する所はなかろう。がしかし、宣伝物を見ていると、有事法制を捉える「構え」に懸念なしとしない。
具体例を、まず憲法改悪阻止各界連絡会議(中央憲法会議)と安保破棄中央実行委員会共編のリーフ『いま、なぜ「有事立法」なの?』(20円)に見よう。
簡潔を旨とする宣伝リーフの性格上、本リーフでは、有事立法反対の論点を「米軍の戦争に国民を総動員する憲法違反の法律」にしぼっている。そこに隙が生じてはいないか。
「日本は、戦争をすることも軍隊をもつことも禁止した憲法9条をもつ国です。」とリーフは述べるのだが、憲法が国家緊急権を一切否認していることへの言及はない。国家緊急権否認の憲法原則は、「有事法制」を根底的に否定する重要な論拠として自覚しておくべきだと思う。
この徹底性があいまいだと、<「テロ」・「不審船」が理由にはならない><日本への武力攻撃の可能性はない>(引用者要約)といった論法に止まってしまう。その「不審船」にしても、リーフに昨年12月22日の写真まで載せていながら、この事件への的確な批判はない。共産党の見解をオウムがえしするだけである。これでは情けない。
もうひとつ、日本平和委員会発行のパンフ『「有事法制」っていったい何者?』(100円)について一言。基調は上記リーフと当然ながら同様である。とはいえ、「日本国憲法は、戦争の放棄、武力による威嚇、武力行使の禁止、常備軍保持の禁止を明記しています。」との記述は迷惑である。「常備軍保持の禁止」とは、日本共産党第22回大会決議で初めて宣言されたものであり、日本共産党独自の新奇な解釈である。憲法会議も編集に加わったリーフの「戦争をすることも軍隊をもつことも禁止した」との記述と照らしあわせると、どちらが公正な憲法解釈で、どちらが日本共産党中央に忠実な特異解釈かが分かろう。これでは、「<急迫不正の侵略>に対してどうするのか」と論者に切り込まれたとき、「非常備軍」で戦うとか、「そこにある」自衛隊を「取り敢えず」活用するとかいった醜悪な応接をするはめになりかねない。
反対運動の理論水準がこの程度では、はなはだ心許ないのである。これを他山の石として、諸兄姉ともども議論と実践に遺漏無きを期したい。