選挙制度についての投稿がいくつかありました。私も意見を述べます。
どの制度がどの政党に有利か不利か。誰が当選して誰が落選するか。政権交代が起きるか否か。確かに、興味深い論点ではありますが、重要な論点でしょうか。
重要な論点は、選挙制度が国民の選挙権や被選挙権を、ひいては、主権者=国民の政治的な実力行使を、十分に保障する内容になっているのかどうか、という点にあるのではないでしょうか。
主権者=国民の政治的な実力行使を、どう考えるかによって選挙制度をどうするのかの意見が割れるように思います。
日本で小選挙区制を望む人は、実力行使を「誰もが投票できる」、つまり、意思表示する権利保障(形式的な平等)とだけ考える傾向が強い。そして、政治を議会の枠内で行なうものに集約しがちです。
一方、比例代表制をよしとする人は、誰もが政治的な実力行使を具体的に実現する権利保障(実質的な平等)と考える傾向にある。同時に、政治を大衆(国民・市民・労働者、言葉は多様)の運動と理解する人が多いようにも思う。
もちろん、これらの傾向からはみ出す人も少なくないでしょうが。
私は、一票を投ずる行為が、具体的な何かを実現して欲しいと考えるので、後者、つまり、政治的な実力行使を実質的に実現する制度がよいと考えています。だから、現状では、比例代表制の方が望ましいと思う。死票を多く生み出す制度は、端的に言って、国民一人ひとりの政治的な実力行使とその実現を阻害する制度にほかならないからです。
もちろん、政治が目に見える形で変わって欲しいという多くの国民大衆の希望は間違っていないし、私自身、できるだけそうあって欲しいと思う。
しかしながら、自民党に投票した人にも、共産党に投票した人にも、その他の党派に投票した人にも、平等に政治的な実力行使とその実現が保障されることが、まず第一に踏まえられる必要があるのであり、これなしに、政権交代が実現しても、あるいは、特定の候補者が当選したり落選したりしても、あまり意義のあることではないでしょう。
平等のないところに正当な議員が選ばれたり、正当な政権や体制が打ち立てられることはありえない。
この点で、比例代表制も問題がないわけではありません。名簿順を誰がどのように決めるのか、3%条項とか5%条項といったものをどのように考え定めるか、ドント方式でよいのかどうか、どのような単位で実施すべきなのか全国か都道府県か、などいくつかの難問がある。
とはいえ、死票が少なくなるという一点において、比例代表制は比較的平等に叶う制度であると、私は思う。死票とは、誰かの権利行使が、誰かの権利行使を抑制し阻害することによって生じるのであり、小選挙区制とはそれを大量に生み出す不平等を絵に書いたような制度であると思う。
立候補者の当落や政権交代、政党の合従連衡にばかりに目を奪われ、ドラスティックな変化が起きる仕掛けの方をよしとするマスコミを中心とした風潮は、国民の政治意識をますます幼稚にするのではないかと危ぶむ。
逆に、ドラスティックな変化をもたらす制度(死票を多く生み出す制度)の導入それ自体が、国民の政治意識をさらに低める効果をもっているようにも思う。
日本での小選挙区制の導入の議論(80年代から90年代の政治改革論)では、政権交代の可能性がまことしやかに語られ、それにとびついた知識人(ニュースキャスターの筑紫哲也や政治学者の福岡マサユキ〈漢字を失念〉他多数)や国民は少なくなかった。
これに先立って(並行してだったかな?)、日本の左翼の中では、イタリアにおいて共産党(現左翼民主党)のとった戦略(他の党派や社会運動と連携して、政権交代が可能になるように、小選挙区制を容認し、党内の民主集中制を放棄し、NATОの軍事ブロックを容認し、「解党」的な出直しをはかったこと)を礼賛したり、日本での同様の可能性を探ったりする議論が一部に沸き上がった。
私が言いたいのは、小選挙区制を容認するという点において、これらの議論は平等という観点が著しく乏しかったのではないか、ということだ。
話が少し脱線してしまった。
ここ十年ほどの日本の政治状況の推移を見るならば、細川連立政権が誕生しても、その腐敗体質(細川首相の献金疑惑)をはじめとして、外交、内政どれ一つとして改めることができませんでした。
わずかに、HIV訴訟の責任追及と情報開示という成果が、菅直人という特異な政治家の資質から可能になったというにすぎません。
つまり、小選挙区制が政治に変化を生み出すことはありえないことは、これらの事実から確実なのではないでしょうか。
よしんば、今後、小選挙区制において、政治に変化をもたらすことが、万、万、万一、可能であったとしても、少なくとも、私はその小選挙区からの選出された議員の、正当性をまったく承認できません。それが自民党の議員だろうが、共産党の議員だろうが、です。
できるだけ速やかに、衆参両院で、そして、地方議会でも比例代表制が採用されて欲しいと思っています。