有事法制反対運動が活発に展開されない理由として、編集部の指摘するように「戦後リベラリズムの変質」が大きく関わっていることはたしかであろう。直接的には、①9・11テロ②不審船事件が右傾化を促進したこともたしかである。しかしながら、日本共産党の運動自体も活発に行なわれない理由は、日本共産党自身の問題、「自衛隊活用論」にあると考える。この活用論は、テロや不審船事件以前に打ち出されたものであり、そこで想定されていた「万、万が一」の事態は、事実上ありえない事態であることが想定されていた。だが、現実におこった事態(特にテロ事件)は、「万、万が一」の事態を遥かに凌ぐ、想像を絶する事態であったといえよう。
もともと、この自衛隊活用は、①自民党が生み出した矛盾②国民意識の未成熟さの二つの条件を根拠として、民主連合政府にいたるまでのいわば暫定的措置として考えられていた。リベラリズムの戦後史もまた、①と②の間を揺れ動きながら展開されてきたともいえるかもしれない。
この未成熟な国民意識に「テロと不審船」の条件が加わり、自民党の矛盾を是認する方向へと世論を追いやったことはたしかであるが、それにも増して、日本共産党が「未成熟な国民意識」と「政権参加」を梃子として、「自衛隊活用論」を展開したことは、事実上、有事法制反対運動を沈静化させる役割を果たした(している)ことを肝に命じなければならない。「万、万が一」の事態とは、「有事」の事態と同じ意味だからである。