人事院が国家公務員給与の引き下げを勧告しました。期末手当の引き下げは4年連続ですが、月給引き下げ(2.03%、平均7770円)は戦後初めてだそうです。
これについて9日(一部は後日)の新聞各紙は一斉に社説を掲げました。主要各紙の見出しは次の通りです。
◇朝日 公務員の待遇まだ甘くはないか
◇産経 公務員給与、高額退職金も民間水準に
◇日経 公務員退職金引き下げにも切り込め
◇毎日 マイナス人勧、退職金も民間並みに下げよ
◇読売 引下げ勧告、民間の苦労思えばこのくらいは
◇北海道 人事院勧告、給与削減だけで済まぬ
◇信濃毎日 公務員給与、幅広く見直しが必要だ
◇中日 人事院勧告、退職金の見直し急げ
◇神戸 人事院勧告、能力や実績をどう反映
◇西日本 人事院勧告、高額退職金にもメスを
見出しから分かるように、各紙とも引き下げ勧告を当然とするばかりか、一層の労働条件切り下げを求めています。各紙に共通する論点の例を挙げます。
◇「民間準拠の徹底は当然だろう。その点ではまだ問題がある。…倒産した企業や解雇された人たちの事情は全く反映されていない」(朝日)
◇「退職金も問題だ。1981年以来見直しがされず『民間準拠』という原則さえ守られていない」(毎日)
◇「各省庁は横並びの年功序列型人事管理を脱し、能力や実績に応じた処遇を、積極的に行う必要がある」(読売)
近ごろの風潮では、マスコミの報道、論調がそのまま“世論”に反映しますから、もしこの問題で世論調査をすれば、圧倒的多数が公務員給与切り下げに「賛成」することでしょう。
これに対して『赤旗』は「賃下げ競争あおり、暮らし、経済の破局招く」と題した記事を掲げ、「筆坂政策委員長談話」で「容認できない」との立場を表明しています。ちなみに社民党も「公務員問題対策特別委員会見解」で同じく「断じて容認できるものではない」としています。
すなわち、共産党(社民党も)の主張は“世論”に反しているわけです。私自身は公務員給与切り下げに反対です。この問題では共社両党の主張を支持します。
しかし、引き下げ勧告は「民間準拠」というルールに基づいています。かつて、給与引き上げ勧告を値切る政府に対し、革新側が「人勧完全実施」を要求するという時代がありました。引き上げ時は人勧を要求根拠としながら、引き下げ時には実施反対では、虫が良いと思う人もあるでしょう。さらに重要なのは、この勧告が「何かと官庁に風当たりが強まるなかで、お役人はさぞつらいだろう」と朝日が書いているように、行政批判が高じて“役人いじめ”のような風潮を背景として出されたことです。
これに対して、赤旗記事や筆坂談話(社党見解も同じ)の内容は全くお座なりで、満足できません。
公務員給与の引き下げが、賃下げの悪循環を招くという指摘は、その通りでしょう。民間給与や地方公務員給与と違って、政府に決定権のある国家公務員給与でもって、まず連鎖を断ち切るべきだという主張には道理があります。
しかし実際、政府が今回の人勧を棚上げすることは、ほとんど期待できません。何故なら、マスコミや“世論”に真っ向から背く施策を断行すれば、政権の命取りになり兼ねないからです。そういう背景に触れずに、もっぱら政府に対して人勧不実施を要求する共産党や社民党の主張は、単に自らの“アリバイ作り”をしているに過ぎないように思えます。社民党見解が「官民労働者の一層の奮起を強く願う」と書いているのも、何だか虚しい。
共産党は(社民党も)、自らの主張に本当に自信があるなら、まずはマスコミ(特に新聞)の論点に一々反論してもらいたい。さらに、大衆〔注〕に向かって直接次のように呼びかけてほしい。機関紙や演説会はもちろん、テレビ出演の機会も利用して…。その気概なくして、大衆の支持を得ることも、党主張を実現することも無理でしょう。
--「みなさん!、行政批判と公務員いじめとは区別して下さい。公務員の賃金が一時的にあなたの賃金より高くても認めて上げて下さい。もしも今回、政府が人勧に背いて公務員給与を引き下げなかったら、非難せず支持して下さい。それが景気悪化を食い止める道なのです」--
〔注〕「大衆」という言葉が嫌いな人は「国民」「人民」「市民」「住民」「庶民」「労働者」など好きな言葉に読み替えて下さい。
私自身の考えを詳しく展開する余裕はないが、私は公務員の退職金引き下げにも反対です。確かに退職金という制度自体は賃金理論的には問題があるのでしょう。しかし、退職金だけを抜き出さず、生涯賃金の観点で見ると、仮に2億円、3億円の公務員がいたとしても、それほど極端な社会的格差だとは思えません。赤旗は退職金には直接ふれず「高級官僚の特権は温存…することは許されない」と述べているだけですが、公務員を高級と低級(?)に分けて、低い方の労働条件に迎合するような考え方は、私の社会観に合いません。
最後に、私が調べた限りでは、多くの新聞社説の中で沖縄の琉球新報だけが「マイナス人勧、悪循環回避の方策が重要」という見出しで、骨子次のように述べています。一方向に向けてのみ吹くマスコミ風の中で、婉曲にでも異論を唱える新聞は貴重なので、紹介しておきます。
「(人勧は)素直に受け入れきれない面もある。…この勧告が民間に波及することも恐れる。…消費は冷え込むばかりだ。…この時期に公務員の給与が優遇されていいわけではないが、痛みを分かつだけでは暗いトンネルは抜け出せない。悪循環を断つ有効な施策こそ、国民から求められる課題ということを、国は十分に認識すべきだ」