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不審船というお芝居 第二幕(上)

2002/9/20 本間正勝、60代以上、なし

奄美沖の不審船に関わった巡視船の船長談として、沈没船から、500メートル離れろという指示があったことを報じた、西日本新聞社の記事に接して、改めて事件と向き合ってみた。

 奄美沖の不審船も、能登沖に劣らず多くの謎、矛盾が目立つ。
 中谷防衛庁長官は、2001.12/22.18:02の記者会見で、自衛隊哨戒機が、通常の警戒監視活動の中で、偶然発見した不審船であること。その船は電波でキャッチしたという事実はございません。と、表明した。

 通常パトロールの哨戒機は、付近航行の船舶には精通しているという。その機長が「見たことがない型だ」という船をマーク、撮影した写真は、防衛庁の中央指揮所で分析した結果、能登沖の船型に酷似している、マストとデリックが似ている、漁具が見えない、という狂気の理由で不審船と判断したというのである。
 こんな愚弄にまともな対応するのはおぞましいが、事件の導因部分なので確認してみる。
 船は、プロペラーと動力を連結する効率上、機関は後部に位置する。船尾との空間を船員の居住区兼調理室、機関上排気筒の前に操舵室そして 荷を積む用途があれば前部に船倉、これが基本型となる。
 運搬船、冷凍船、漁船と多様に用いられる型である。 車社会になる以前、陸の弧島間でも物資輸送に活躍したのも、この型である。
 中谷長官は、能登沖の船と「形状が似ている」から、不審船と判断し、行動を起こしたのだという。
 形だけで判断するなら、近辺諸国も含めれば、何千何万という基本型の船舶が、不審の対象になってしまうだろう。

 船首のマストと荷物積み下ろしの道具の形状が似ているからともいう。船首のマストは、航海灯の設置やアンテナを張ったりする、船の必備装置である。
 デリックは船倉を備える船なら、荷物の積み下ろしにこれまた必備のものである。
 複雑な機能のものでないから、形は殆ど相違はない。
 相似していることがスパイ工作船だ、と言うに至っては、社会通念では「頭がおかしい」ということになろう。

 しばしば、「漁具が積んでいないのが不審」を乱発する。運搬用途の船もあるし、冷凍船もいる。漁船であってもドック入りや他の用途で装備をはずしていることもあろう。
 船の基本型が怪しいという狂気の発想は、気に入らないものは、テロ組織だと独断的に名指す手口と似ている。

 その無法、無根拠をカバーするように、事件から4日経ったころ一斉に関係者、防衛関係者という黒子たちに依って、米軍衛星写真情報や無線傍 受があったことを、一面トップ記事で喧伝する。
 能登の時と同じパターンである。

 地球の引力から抜けた、何十万キロの上空から偶然に写った【真上から見た】船らしき棒状の物体が、哨戒機による被写船を個別識別できる筈は、絶対にない。
 近写写真でも、大和丸と長漁3705との区別も出来ず、怪しむ始末でないか。
 その棒状の動的な物体が、どのように移動するのか、航跡を追及できる筈もない。
 何一つ証拠を示さぬまま、テロだ不審だと名指す尊大な情報を、「天の声」だと、丸呑みにして恥じない卑屈さは、吐き気をもよおす。
 衛星写真では何の決め手になる筈もないから、公式の場では否定せざるを得ない訳も分らぬ通信傍受を添える。
 傍受内容は機密だから言えないが、「捕まりそうになったら自爆せよ」という愚劣なガセは、関係者という黒子を使って流す卑劣さ。

 無線も、秘密任務に出発したばかりのスパイ船が、何の用があって佐渡沖の時にも解読されていると喧伝された同じ方法で、連絡しあう必要があ るのか、そんなドジなスパイがあるものか。
 国会でどんな通信内容であったのかと質問されると、捜査上の秘密とか防衛上から明らかに出来ないなどと野呂田長官の場合は、逃げ込んだ。  中谷長官は、12/25の記者会見で『そういう報道も一部ございますが、電波情報でキャッチしたという事実はございません。』と、12/22の記者会見時に続き、2度に亘って正直に否定しているのである。

 不審という船は、中国船籍を明示していた。
 しかし、哨戒機の乗務員も、防衛庁の中央指揮所も、船型や漁網の有無が検証の焦点であって、中国船籍の表示などは、殆ど無視しているのは、 全く異常なことである。
 国際的にも通例であろうと思われる所属船籍港名も、「石浦」であることが報道されたのは、2002年3/3であった。
 写真確認の際には当然認識しているものであろうが、不審判断の根本に関わるポイントが、伏せられたままだったのは、作為に依るものだろう。
 【中国の国旗らしい】赤い旗を、船尾のポールに掲げたというのは、22:00以降の銃撃戦の時だったというが、発表は、12/26だった。
 しかし、中国国旗が、“発見”の時には掲げられていた【らしい】ことは、毎日新聞の、12/30の記事に依って伺える。

 【10:00頃、防衛庁の担当課長は「不審船が中国国旗を掲げている」という情報を聞き「(工作船の)偽装だ」と直感し、艦船派遣を決断。10:53に中谷長官が了承した。】(毎日新聞)

 「中国国旗を掲げている」と聞いて、「偽装」だと直感し、軍艦を派遣するという行為は、精神錯乱に類する。

 すべてにおいて、中国籍表示は目障りなのである。 
 「長漁3705」という船名は、【中国船を装っていた】と見る。
 怪しいとみる理由の一つに、「日本の漁船登録番号にはない」(読売12/23)という言い方をする。
 外国船でも、日本の規定と違うから、怪しいという始末である。
 北朝鮮の工作船でなければ、気に食わないのであろう。

 肝心なそれらの報道は、「むにぁむにぁとした話はあった」(毎日)というような、情報操作の尻尾が見えるようだ。

 2000年の保安白書に依れば、1999年度における不法入国者の件数31件、不法入国者387人の内、中国人は329人とある。
 未然防止も、6隻571人の内、中国人は564人となっている。

また、外国漁船の国籍別監視取り締まり、1999年の状況は、

確認立ち入り検査検挙
ロシア領海1010
経済水域77800
韓国領海3793
経済水域22926617
台湾領海55694
経済水域2400100
中国領海195100
経済水域1763800
その他領海100
経済水域5300

 以上の統計から見れば、怪しいとする根拠があるのなら、表示されている中国船による、違法行為を疑うのが自然であろう。
 中国籍の表示であっても、中国国旗を振っているのを見ても、すべて偽装だと断定する根拠は何によっているのか。
 不審船という勝手に名指した船に似ているからだという暴論を、国際的な問題に関わる場でも強気なのは、携帯ロケットを持っていることも、エンジンが船首近くにあるという仰天の断定も併せて、その“正体”を、始めから【知ってる】ことの表れなのだろう。
 能登沖の船が防空識別圏まで行くことを事前に知っていたことと、同じパターンである。

 「必ず捕捉する」と、巡視船艇25隻、航空機14機を、資源の浪費も、世界の嘲笑も気にせず、「漁業違反」(立ち入り検査忌避)容疑で動員した。

 領海を侵犯したわけでもなく、漁業違反の現行犯でもない公海上を航行している船を追う異常行為だから、指示も又奇妙なものであった。

 海保は行動計画を立て、出動する巡視船らに次のような指示を出した。

  1. 必要以上に重火器の射程に近づかない。
  2. 接舷せずに停船させるには船体射撃もやむを得ない。
  3. 停船後はロープで最寄りの港にえい航。
  4. その後に立ち入り検査を実施して乗組員の身柄を確保する。
(朝日 12/26)

 この行動計画の記事は、他の新聞では見かけなかったスクープのような記事である。

 携帯ロケットを持っているかも知れないから、500メートル以内近づくなというのである。
 巡視船らは、500メートル以上離れた距離から、停船命令として、空中や海中に向かって威嚇射撃を始めた。
 相手に通じているのか、いないのか確認する必要のない、自己本位のゼスチュアなのである。
 停まらないからと、無実であるかも知れない相手に、お墨付きの「危害射撃」として、船体に向け機関砲を撃ち込んだ。
船底にあるエンジンや、舵を狙ってということだから、水面下に穴を空けて撃沈させる、問答無用の戦争行為そのものである。
 世界注視の中、中国船籍表示を無視しての強引さは“幽霊船”の【正体】を事前に知っているからであろう。

 停まらないからと「危害射撃」を加えたわけだが、停めて何をするというのか。
 漁業違反とかの容疑ということだから、その有無を明らかにするための点検が目的なのだろう。
 違反行為が無ければ、損害賠償するのだろうか。
 しかし、第十管区海上保安本部本部長の横山鉄男は、12/22.18:00すぎ警備救難部長の後藤光征と連絡して「乗り移っての制圧は行わない」の方 針を確認したという。(読売 2002年08/22)
 “制圧”?!、
 乗り移らない?!